世界を守る男
磯度勝郎は小学生である。
一見すると「勝郎! 宿題やったの!」などと姉に怒鳴られたり「バカモン!」などと父親にブン殴られていそうな子供だ。
しかし、それは大きな間違いであった。
学校が終わると、勝郎は友人を集め空き地に向かう。彼の周囲には、ボアコングの異名を取る猪田薫や、中学生のボスこと棒田進などがいる。全員、いかつい見た目であり、地元では名前の知られたガキ大将もしくは番長である。だが、そんな彼らも勝郎の前ではおとなしい。
空き地に着くと、既に待っている者がいた。どうやら小学生のようだ。片方は体が大きく、もう片方は小さいが厭味な顔立ちである。どちらも神妙な表情で下を向き、土の上に正座していた。
勝郎は放置された土管の上に座り込み、ふたりをじろりと睨みつける。
「おい、幸田武流に尾根川末雄、顔を上げろや」
すると、ふたりは顔を上げた。勝郎は彼らを見下ろしつつ口を開く。
「お前ら、最近ちょっと甘すぎねえか。特に幸田、お前は実はイイ奴なんて言われてんぞ。おかしいだろうが。お前は、この地区のガキ大将だ。恐れられてナンボだろうが。なあ、お前ひよってんの? いい人キャラで行こうとか思っちゃってる?」
「ち、違います!」
「じゃあ、どういうわけなんだ? 昔は、お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの……なんて言いながら、紀太をボコボコにしてたじゃねえかよ。流血沙汰も珍しくなかった。なのに最近じゃ、紀太とは仲良しこよしだって聞いたぜ。お前ら、ずいぶん丸くなったなあ」
その時、ふたりは顔を上げた。
「俺、もう無理っス!」
「僕もです!」
ふたりは、ほぼ同時に叫ぶ。
「ああン? 何を言ってんだ?」
凄む勝郎だったが、幸田は震えながらも言い返してくる。
「紀太は、どうしようもないバカでお調子者だけと……ものすごくイイ奴なんです! だから……もう、あいつをいじめるのは無理っス!」
「僕もです!」
尾根川が言った時、棒田が動いた。幸田を右手で、尾根川を左手で持ち上げる──
「おいコラ、いい度胸してんな。勝郎さんに逆らうなら、腕の一本くらいは覚悟してんだよな?」
その時、勝郎が口を挟む。
「ボス、やめとけ」
「しかし……」
「お前の使命は何だ? ロボボスを操縦し、兜甲一をフォローすることだろうが。そのパワーは、ドクターデスの繰り出すマシンビーストとのバトルに備えてとっとけ。こんなとこで使ってどうすんだよ」
「は、はい」
ボスは、おとなしくふたりを下ろした。一方、勝郎の表情は優しくなっている。
「いいか、紀太の家には溺死体型ロボット・土左衛門が居候している。あれは、とんでもない化け物なんだ。いや、化け物というレベルじゃねえ。銀河切り裂く伝説の巨神ですら捻り潰す超破壊兵器なんだよ」
「は、はい」
幸田が頷くと、勝郎は微笑みながら語り続ける。
「紀太がもし、あの土左衛門の超科学道具を我欲のために使い出したらどうなる? いや、破壊的な方向に使い出したらどうなる? 恐ろしいことになるぞ。この地球ひとつくらい、簡単に消滅させられるんだ」
話を聞いているうちに、なぜかふたりは泣きだした。だが、勝郎の話は続く。
「それを止められるのは、お前らだけだ。お前らが紀太をいじめるから、紀太は土左衛門に縋る。土左衛門は、お前らからのいじめを止めるために、道具をしょうもないことに使う。それで、世の中の平和は保たれているんだ」
「は、はい」
「わかりました」
涙ながらに答えるふたりの肩を、勝郎は優しく叩く。
「頼んだぞ」
磯良勝郎……彼こそが、この世の中のバランスを保っているのだ──