神様からの視線
「お前は誰なんだ!!」
……と、冴えない男がこちらをみて叫んだので、
画面は切り替わった。
「あははははは!! あーあ。バレちゃった」
同刻、鮫島ユリは自室のパソコンの画面を眺めて高笑いしていた。
思いの外笑い声が大きすぎたようだ。
姉のユキが自室に入ってきた。
「あんた、教会に行く支度は済ませたの?」
「いつでもいけますよー」
「……何を、みてたの?」
ユキは、ここのところ休日になると響いてくる妹の笑い声が気になっていた。
「何って? 色々よ」
「あんたこれから神様と会話するって時に……。茶化すような言葉はやめなさいよ」
「ごめんてば。でも、悪いことはしてないよ。ただ覗いてただけ」
「覗いてた?」
ユリはパソコンの画面をユキに見せた。
痩せほそり、貧相で冴えない男の顔が画面で静止している。
「これね、今有名なYouTuberの旦那さん。
このYouTuber面白い人でね、人のプライバシーって実際のところ他人からどのくらい守られているのか?
っていう実験をいろんなところでして、問題定義してるの。会社とか、家とかで。
それで日曜日は必ずこの旦那さんが画面を覗きにくるの。
サイテーだよね。旦那だからって席外してる時に人のパソコン覗くやつって。
そういう奴を弾劾するって趣旨らしいよ」
「あんた……ミサの前にそんな不謹慎なものを毎週見てたの……?」
「不謹慎なんかじゃないよ。だって、私たちの生活だっていつ、誰が、どうやって覗いてるかもわからないんだよ?
案外みんな興味なさそうで、『見たがる』からね。他人の生活って。
それが隠し事だったら尚更……」
ユキはため息をついて、小声でつぶやいた。
「主よ、この子の罪を赦し給え……」
ユリは思わず振り返った。
「今何したの?」
「懺悔したのよ。あんたが覗きを楽しんでるなんて、神様に知られたら……」
「お姉ちゃんのせいだ……」
「?」
「誰かに見られてる気がする……」
ユリは顔を上げて……『あなた』と目があった。
「神様よきっと」
「そんなんじゃない。あなたは……」
ユリと『あなた』はしばらく見つめあって……
「誰?」
WE ARE CHATS(THE WATCHERS) 了