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We Are Chats  作者: SBT-moya
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クソ野郎の視線


心療内科、というものにこれまで縁がなかった私だが、

想像していたものとは違った、というのが感想だった。

まず、待合室は思った以上の人間がいたつまり……混んでいた。


 心療内科の診察、というものにも縁がなかったもので、どういうことをするのだろうか? 心理テストでもするのだろうか? と思っていたが、

診察は実に、1分としないうちに終わった。

……考えてみれば待合室全員の患者の心を診察しないといけないのだ。

一人一人に時間をかけていたんじゃ、それこそ先生の精神がおかしくなるというものだろう。


 それにしてももう少し親身に話を聞いてくれるものだと思ったのだが、

眠れるか? 会社に行けているか? 食欲はあるか? という基本的な質問を受け、私の悩みの本質など聞きもしないで、

一ヶ月5000円ほどの錠剤を処方して、一ヶ月後にまた来い。とそっけなく言われた。


 ……かくいう私だって、こんな私の悩みを聞いてくれる人など最初から期待などしていないのだ。

正直、眠れていない。食欲も、排便欲も減退している。


 というのも、人目が怖いのだ。


 この間、妻の執筆しているものを読んでからというもの、私の顔が『どこか』に晒されていることを知った。

でも、それを『どこに』『なぜ』晒しているのか、考えても解らなかった。

とにかく、妻は、『The Watchers』から始まる文章を書いていて、それには、私の顔が使われている。


 そして、それをどこに投稿しているのか解らない。

妻はSNSをやらない。アカウントを作ったのかもしれないが、私もSNSなどやらないので調べようがなかった。

調べてみようと努力はしたが、使ったこともないものの使い方もわからないのだ。できっこない。


 結果、人の目が気になった。

すれ違う人間A to Zが、背中で自分を笑っているような気がした。

「人のパソコンを盗み見る人間」として。


 我ながら酷い自意識、被害妄想だと思う。だが、

可能性が1%もないと否定できないなら、それは私の中では100%と同義なのだ。


 結果、仕事に手がつかなくなり、薬に頼るしか無くなってしまった。

誰かに覗かれているという感覚というのは、これほどまでに息辛く、生きづらいのかと知った。


 私は目に見えて痩せていった。妻はそんな私に気にすることなく、気遣うこともなく、

何も知らずに、または、何も知らないそぶりで、

いつも通りの暮らしを私の隣でしていた。


 そして、日曜日がやってきた……。


 カタカタカタという音が響くリビング。

そして、それを気にしない演技を、冷や汗をかきながらこなす私。

今画面に打ち込んでいるのは、一体何だ。


 私が心療内科のお世話になり始めたことを揶揄した文章か。

それとも不健康に痩せていくことを揶揄したそれか。


 いずれにしても『The Watchers』から始まる文章なのには違いはなさそうだった。


 妻の目的はなんだ?


 私の動悸は、フルマラソンを走り切った時と同じくらいになった。呼吸が浅くなり、

じっとしていても、心拍が全身を打ち付けるのだ。


 そして……妻が席を立ち、洗濯機の方に向かった。


 私は、それでも、覗かずにはいられなかった。

今までより苛烈な深淵を覗くことになる想像はあった。

だが、それでも覗いた。


 どうして私たちはこうなってしまった?

いつから、何を間違えてこんなことになった?

子供がいないからか? 恋愛結婚ではないのが悪かったのか?

社会に対して後めたい感情は一つもない。なのに、なぜ私ばかりこんな目に遭わねばならないのだ。

その答えが、一才の責任が、妻の睨んでいたモニターにあるような気がしたのだ。


 私は、すでに慣れた手つきで、妻のパソコンのモニターを覗いた……


 そこには……『The Watchers』から始まる文章……ではなかった。

こう、書かれていた。



「人が席を外してる時に、画面を覗き見ているクソ野郎の顔」



 そして、文字の下には……私の顔があった。


 感じたのは、大きな耳鳴り、そして、足腰はすでに私の体重を支えられなくなり、私はフローリングの床に尻餅をついた。

なぜだか、耳鳴りはだんだんと、人の笑い声に聞こえてきて、私は思わず後をみた。


 思わず後を見て…… 初めて……『それ』の存在に気がついた。

キッチンの棚の影に、小さいカメラが仕込んであった。

赤く小さい光が点灯している。

いくらなんでもいつもなら気が付くはずだ。『この瞬間』のみ点灯していたのだ。


 妻のパソコンを覗き見ているのを、誰かに覗かれていた!!

なぜだ!? なぜこんなことをする!? 一体誰が!?

これでは……


 これでは私の妄想が単なる被害妄想では無くなってしまう!!


「誰だ……」


 声にならない声で、私は赤い光に問うてみた。


「お前は誰なんだ!!」


 すると、赤い点灯は、「ピ」という音を立てて、消えた。





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