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佐和田ミ子の死

作者: 後藤章倫

  佐和田ミ子が死んだ。昨日まで普通に会話して普段通りの行動をとっていたのに、今朝、意識のない状態で発見され病院へ搬送されたものの死亡が確認された。享年七一歳だった。刑務所へ収監されて三年が経とうとしていた。


「絶対許さん」

「殺す」

「くっそう」

と、そう想うものや

「でもなぁ、ちょっとなんか」

「あれで可愛いとこあったよ」

「今でも……」

と、未練たらたらな、そんな相対する想いが常にグオングオンと渦巻いていて、実行されないでいた。


 佐和田ミ子は当時六三歳でクローズアップされた。佐和田ミ子の旦那さんが謎の死を遂げ、その後も交際相手とされる男性が次々と亡くなっていった。その都度、佐和田ミ子の元にどういう契約内容でそうなるのか保険金が入り、不自然な成行きにマスコミが飛びついた。六三歳の佐和田ミ子は、その年齢に反して若々しく、時には妖艶で時には寛ぎを与えてくれる。更に甘え上手で男たちをメロメロにする。そんな事は全く無く、年相応の初老だった。


グオングオングアングアングアングオン


もう色々な事を諦めていた佐和田ミ子に転機が訪れたのは偶然だった。夫は自分の事を家政婦か、いや、ただで働く馬鹿な女くらいにしか思っていない。気に食わないと直ぐに怒鳴るし、物を投げつけたり叩いたり、それがもう日常化していて精神的にも追い込まれていた。

夫の留守中に「保険の見直しに伺いました」生命保険の担当者は、そう言って昼下がりに自宅へやって来た。保険料の事や補償の内容を上の空で聞いているときに、ハッとした。そうだ、あの人が居なくなればいいのよ。佐和田ミ子に光がさした瞬間だった。

 三日後、夕食を食べ終わり、野球のナイター中継を見ていた夫は、リビングの床へひれ伏し、白目を剝いて涎を垂らしていた。ミ子の心は踊った。何かをやり遂げた時に鳴り響くファンファーレが今まさに家の中を満たしていた。


 マジで殺す!マジで殺す!マジで殺す!マジで殺す!マジで殺す!


 新宿のホストクラブ界隈では妙な噂が囁かれていた。一晩で百万単位遊ぶマダムが居て、それを現金で支払って帰るという。

「噓、噓、どこかの店がホラで憂さ晴らしをしてんだろ?」

 クラブ来夢来人のオーナー兼ホストのワタルは、客入りの悪い水曜日にアルバイトホストの言う噂話に少し苛ついた言葉を発していた。

「いや、マジなんすって、昨日も……」

と言いかけた時に店のドアが懐かしい音を立てた。カランコロン♪

「あら、良いわね」

そう言って普通のおばさん?いやマダムが来夢来人へやって来た。

「ようこそ、いらっしゃいまっせぇ」

ワタルが席へエスコートすると、いきなりドンペリをリクエストした。それからも高級シャンパンをどんどん飲み干して、会計は七十万円を超えていた。カードを提示されるのかと思っていたワタルの前に現金が積まれていた。マダムは帰り際にアルバイトホストの胸ぐらへ、チップだと言って五万円を差し入れた。

「ワタルさん、たぶんあの方ですよ」


 でもなぁ、良いこともあったしなぁ、まぁ結局こうなったけど。


 夫の保険金で豪遊していたミ子に言い寄って来る者があった。自分よりも二十も年下の男に、どうせ金目当ての冷やかしだろうと相手にしないでいると、男の方はそうではなかった。それから交際へと発展し、ミ子も忘れていた感情を取り戻し始め、暫くは心が踊ったけど、矢張り男は豹変した。暴言が軽い暴力へとなり、それから平手打ちや蹴りへとどんどんとエスカレートしていく。何で男共はこうなのか、自分に男運が無いだけなのか、でもミ子にはもう免疫が出来ていた。既に生命保険の受取人はミ子へと成っていた。食事のあと、床に蹲る男を見下ろしてミ子はため息をついた。


 あんたもか?あんたは誰だ?え?あんたも?


 何故だか分からないけどミ子には男が寄って来る。ミ子本人も意識はしていないだろうけど、二人目以降は流れ作業のようなものだった。その頃から深夜二時になると寝入ったミ子の枕元では夜な夜な会議のような事が開かれるように成っていた。会議に出席する人数は、ミ子の許へ保険金が支払われる度に一人また一人と増えていった。六人目の男を手に掛けたところで、ミ子をマークしていたマスコミが騒ぎ出して、七人目の殺人未遂でミ子は逮捕となった。

「何千万貰おうと、人を殺めるなんてやるわけないでしょ」

逮捕前、過熱取材のテレビカメラへ向かってミ子は絶叫していた。


 「結局こういう奴なんだよ。じゃ決まりで」

会議が始まって以来、その晩、初めて六人の意見が一致した。


「では」そう言って先陣を切ったのは元夫だった。刑務所の中で消灯時間を迎え担当職員へ挨拶をしてからミ子は就寝した。元夫は変幻自在だった。身体というものはとっくに存在しない。細いつむじ風みたいになると、ミ子の口の中へスポンと入って行った。それを機に殺められた順にスポンスポンスポンと入って行き、最後のものが入ると浄化された。そしてミ子の命が尽きた。


〈了〉




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