二本松④
太田は続けた。
「本当に信じられません。こんなに複数の怨霊が。しかも時代が異なる怨霊が同じ場所にですよ。聞いたことがない」
「まずいことに今目の前の鬼庭良直は戦国時代。天正の頃の伊達の忠臣。大抵の怨霊が古くても幕末あたりという中、400年以上も前に亡くなった怨霊とは」
葵が確か怨霊は年月を重ねれば重ねるほど強力になるはずじゃあと太田に話したてた。
「そうです。怨霊は享年より永くたてば経つほど呪力が強烈になります。戦国時代の怨霊なんて稀ですよ」
「これはもう文科省特務局の任務を超えてます。これは怨霊の殲滅を主とする防衛省特務局か、怨霊からの防衛を主とする環境省特務局の次元です。はやく両局へ打診しないと」
せかせかとスマホで連絡をしようとする太田の手を抑えて将胤が遮った。
「太田さん、ちょっと待てよ。この現場は文科省特務局が受け持ったんだ。なにがなんでも確保優先だよ」
でもと口を挟もうとする太田を将胤は手で下がってと指示した。太田はやむえず少し引き下がった。
将胤はゆっくりと大きく呼吸をした。そして弾けるように声を発した。
「あげてくぞ!日胤」
将胤の左目はより赤みが強まり、左手の甲の光が増した。そして迫りくる鬼庭良直の一撃をすらりとかわし、鬼庭良直の左わき腹より光の甲を突き刺した。鬼庭良直大きな怒号を発するも将胤の左手がより深くえぐり、つかんだ刹那、手を一気に引き抜いた。
鬼庭良直であったであろうモノは見る見るうちに黒い靄ごと晴れ、一人の青年がそこに横たわっていた。将胤は魂魄をアルミ筒へと閉まった。
すべてはほんの一瞬で終えていた。太田は信じられないものを続けさまに視たからか、ただ放心していた。ようやく口がひらき葵へ訪ねた。
「彼は一体、、何者なのですか」
葵は手の光が薄らぎ、両目が白くなっていく将胤をみつめながら答えた。
「彼は真帆良学園の生徒で文科省特務局の者です」
「能力は憑依。日胤と呼ばれる故人の依代としてあの力を宿しているのです」
「日胤はかって治承寿永の乱で活躍した千葉常胤の第七子」
太田はちょっと待ってと葵の話を遮った。
「治承寿永の乱ってあの源平合戦のことですか。その頃からの怨霊を彼が依代として抱えているのですか」
「ええ、怨霊としてはかなり年月を重ねているので御霊と呼ばれるらしいですが」
「それにしても治承って800年も前ですよ。戦国時代の怨霊でも稀なのに。そんな800年も昔の怨霊、もとい御霊なんて聞いたことないですよ」
「私も彼と会う前は信じられませんでした。彼のことは極一部の方しか知られてないようです」
「そして彼は...その千葉家の末裔でもあります。先祖の御霊が子孫である将胤を依代として憑依しているんです」
太田は葵の語りを聞いてただただ驚いていた。
そして葵はそのまま将胤をみつめながら笑みを浮かべながら呟いた。
「私、なんであんな破天荒な奴の相棒なのかしら」