二本松①
-東京駅新幹線ホームー
「将胤、乗り遅れちゃうよ!早く!」
手にはスマホとペットボトルを持った身軽な女子生徒が、少し遅れて階段を登り切った男子生徒に向けて活を入れていた。男子生徒がゴツいカートを2つ引き上げていた。
「お前が昼飯食いたいって言ってゆっくり食ってたらこんなことになったんだろうが」
そんな男子生徒の恨み節など聞こえないかの如く、女子生徒はノロマだの置いてきぼりになるぞなど男子生徒を煽り続けていた。
結局、新幹線には無事乗れた二人であるが、指定座席へと向かっていった。
指定座席を見つけるとさっさとと二人とも座り、まずはスマホチェックタイムとなる。しばし閲覧や返信など終わったころ合いで将胤と呼ばれていた男子生徒が隣の女子生徒へ声をかけた。
「葵さんよ。結局俺らはいまどこへ向かってるんだっけ?」
葵と呼ばれた女子生徒は少々面食らった顔をしながら返事をした。
「土御門先生がいってたじゃない。私たちが向かっているのは二本松の学校。幕末の二本松城攻略あたりの怨霊がらみです!」
葵はちゃんとタブレットみてよと将胤のカートを指さした。これは今見て確かめろというサインだと将胤は空気を察し、しかたねえなと呟きながらカートからタブレットを取り出し起動した。
「お!転校先データ来てるじゃん」
「え!未読なの?信じられない」
葵はなんてがさつなのかと少し蔑んだ目で将胤をみていた。
新幹線内ではお互いはお互いのスマホをいじったり、ちょっと寝たりなど個人の時間を費やし、時折話すも言い合いをしたりなどしているうちに郡山駅へ着いた。
葵は将胤が改札を出たところで青年に声をかけられた。
「真保良学園の方ですよね。はじめまして太田です」
葵はなんの違和感もなく、はじめましてお世話になりますと笑顔で挨拶をするも、将胤はハテ誰だろうかと不思議がった。葵は察したのか将胤に「備考欄に詳細は現地先行者の太田より確認」ってあったでしょと耳打ちした。
太田と名乗った青年は葵に話を続けた。
「わざわざ東京から起こしいただきありがとうございます」
「いえいえ、真保良学園の生徒は常に転校ですから慣れっこです」
太田はどうぞどうぞと駐車場へ葵と将胤を導き、車へ誘導した。3人は車に乗り込んで太田が運転しながら葵と太田は話を続けた。
「そういえば太田さんは『元異能者』なんですよね。資料に記載がありました。ということは真保良学園の出身ですか」
「あっ、そういうことも共有されるんですね。そうなんですよ『元』ですけどね。そうそう、土御門くん、いや土御門先生はお元気ですか。彼は元クラスメートでして」
「土御門先生はいつも元気で明るいですよ」
「そうかぁ。変わらないなぁ」
「土御門先生はどんな学生だったんですか」
「普通に気さくで元気あって明るくて、クラスでは中心人物でしたよ。能力の方はけた違いだったし。今でも彼は現役なんでしょう。大抵は十代のうちに能力は消滅するのにね。やっぱ規格外だな、彼」
太田は懐かしさ故か遠い目をしていていた。
葵はすこしためらいつつも太田に尋ねた。
「太田さんは内閣府特務局の方なんですか。私たち文科省特務局のサポートはいつも内閣府の方ですけど、元能力者の方ははじめてなので」
「そうですよ、内閣府特務局です。元っていってもいまは全然普通ですから。ただ事情がよく理解も体感もしているのでなかなか重宝されるっぽいです」
太田はにこやかに返事した。
そうこうしているうちに目的地である学校についたようだ。太田が徐行しながら敷地内に入っていく。
「ここが今回お二人に赴任していただくN学院です。幼稚園から大学まであるマンモス校です」
葵と将胤は太田に連れられ、理事長室で理事長に軽くあいさつした後、そのまま太田に教室へと先導された。
太田がこちらですと右手で指した教室には「6-A」と書かれてあった。
葵はすかさず太田へ聞いた。
「太田さん、これって小学6年生の教室ですよね。今回の現場はここですか」
「そうです。二本松攻略で命を落とした幼年隊。後年に二本松少年隊と呼ばれた幼年隊の怨霊の可能性が高いです。お二人の赴任先はこの教室となります」