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僕は聖女に恋に落ちたわけではなかった

 学園の最終学年に入り、聖女が編入してきて、僕はにわかに忙しくなった。

 貴族生活に不慣れな聖女をサポートするように父王から王命を受けたからだ。



 聖女は、見た目は可愛らしいが、気持ちの悪い女の子だった。

 わずかな魅了と混乱をずっとかけられ続けているような気持ち悪さがあった。


 ミシェルと幽玄を捕まえて相談したら、症状を和らげる特製のアミュレットを作ってくれた。



 聖女について子供向けのお伽噺しか知らなかったけど、それでも魔族にも人族にも歓迎されない存在だということは知っていた。


 子供向けのお伽噺では、聖女はシルエットでしか描かれない。

 だから聖女は必ずピンクブロンドで生まれるなんて、その時は知らなかったし。

 魔族を守る悪役令嬢が紫色の瞳、つまりミシェルのことだとも知らなかった。


 そういう情報が公開されて、不当な差別や偏見に繋がらないような配慮だと思う。



 実際に接してみて、聖女はお伽噺の通り、何か良くないものだと感じた。


 だから、王の命は、僕と高位貴族の子息達に聖女を監視させる目的だと推測した。

 それで基本は生徒会室に籠って、そのほかの生徒に悪影響を与えないように工夫した。



 一方、ミシェルと幽玄は、聖女が上手く新しい環境に馴染めるようにと、学園内を奔走しているようだった。


 聖女の気持ち悪さを知ってしまえば、あんなに積極的に歓待したくなくなるだろう。

 父王は、敢えて二人が聖女と直接的に接触しないような王命にしたのだろうと思った。


 だからこそ、僕は、聖女をしっかり抑え込む役割に身を入れた。



 幽玄はダジマット王子の妃だ。

 お伽噺の悪役令嬢の国から派遣された王族が顔を見せるだけで学生たちの安心感につながったことだろう。

 いてくれるだけでいいのだ。


 ミシェルと幽玄の活動は全て間接的なものだったが、学生達は彼女たちの聖女への「歓待」の姿勢を知っていたし、よく協力していた。

 そして、聖女に対して友好的に接していた。



 どこぞからまだ会話ができるようになる前のケットシーの子供を借りてきたときには、流石にやりすぎだろうと呆れたが、聖女がものすごく喜んでいたので、苦言を呈すことはなかった。


 そのケットシーの子供は、聖女に抱かれることを酷く嫌がった。魔族よりも魅了や混乱などの精神魔法に敏感なのかもしれない。

 ミシェルと幽玄に作ってもらった浄化のアミュレットを与えたら、それを体に巻き付けるようにうずくまって震えていた。


 明らかに聖女のことを怖がっているのに、聖女は「最初はそんなもんだ」と笑った。


 そのうち魅了魔法が効いて、聖女に懐くことを予言されているようで、ゾッとした。

 ケットシーは、自由気ままな生き物だと聞いている。

 魅了で縛られるなんて、さぞ不本意だろう。


 そのケットシーの子供は、僕たちから与えられるものを食さなかった。


 これにはさすがの聖女も困って、2日目には里親探しが始まった。


 ベネディクトが生徒会室に入ってくると、彼に張り付いて離れなかったので、彼に引き取ってもらうことになった。


 慣れた手つきでケットシーの子供をあやすベネディクトに違和感を感じた。

 それで、ミシェルが聖女のために公爵邸から学園に連れてきたのだろうと推測した。



 ミシェルと幽玄は、聖女を歓待しながらも、しっかりと学生たちの保護にも工夫を凝らしてくれていた。


 聖女が編入してくる前に設置された噴水には、アミュレットと同じように魅了と混乱を和らげ、清涼な気分にさせる効果がある。


 聖女はその噴水に近づきたがらなかったが、何らかの理由で故障しているときに、初めて近寄って、水の中に落ちた。

 聖女の奇行は、毎日のことなので、淡々と処理したが、噴水の機能を壊したのは聖女ではないかと疑った。



 噴水はすぐに復旧され、自然と人が集まる場所になった。



 気持ちの悪い聖女の魔術に晒されている僕たちにも、時折、浄化アイテムが支給された。

 ダイヤモンドに近い硬質の魔素結晶に、浄化と沈静の効果が付与されているアクセサリー類だ。


 その時々で聖女との接触が多い生徒会メンバーの髪色や瞳の色が付けられていて、自分の浄化用に僕が貰いたいところだったが、聖女が凄く喜んで集めていたので、あげてしまった。



 ある時、ベネディクトから「義姉が疲れている」と言われたが、僕は僕で、奇行が多くて目が離せない聖女に構っていて、放置してしまった。


 しばらくすると、ベネディクトはミシェルを待って一緒に公爵邸へ帰宅するようになった。「待っていないといつまでも帰ってこないので、体に負担がかかる」と眉をひそめていた。

 

 時にはベネディクトの方からミシェルを探して連れ帰るようになった。

 

 それでも十分ではなかったようで、ミシェルは立ち眩みを起こして、ベネディクトに3才児かのように縦抱きにされて公爵邸に戻されたと聞いた。

 

 ミシェルが立ち眩みを起こした時、周りの生徒は婚約者の僕ではなく、義弟のベネディクトを探した。


 ミシェルもベネディクトも公爵邸に帰るのだから、ベネディクトが呼ばれたことは別に特に不自然なことではない。

 しかし、今思えば、その頃から学生たちもベネディクトをミシェルの保護者とみなしていたのだと分かる。



 半年ほど経って、騎士団長の次男リアムが魅了に掛かったようにうつろになってきたので、再びミシェルと幽玄を捕まえて相談した。


 その1週間後、様子のおかしい者を旧校舎の魔物だまりに連れて行って汗をかかせる様に言われたので従った。


 旧校舎は、浄化魔法と沈静魔法の全館空調で、ここで汗をかけば魅了が抜けた。

 全5層で階を降りるごとに徐々に魔物が強くなるように調整してあった。


 初心者用で、魔物は強くなかったが、滞在して汗をかかせるのが目的なので、僕はただついていくだけだった。ベネディクトははじめからついてこなかったし、宰相の嫡男ゼインは2日目には生徒会室での読書に戻ったが、困る程ではなかった。


 そのダンジョンは、リアムが正気を取り戻した後、他の学生にも開放され、放課後に楽しく汗を流せるリフレッシュ施設になった。


 学園生活を豊かなものにしてくれたミシェルを学生たちが敬愛する気持ちがよくわかる。


 これほどのダンジョンをたった1週間で調整してくれたミシェルと幽玄に感謝の気持ちを込めて、菓子折りを贈った。


 今考えると菓子ぐらいで済む借りではない。僕も魅了と混乱の影響で判断力が落ちていたのだと思う。

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