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第3話 修学旅行

「……………ふぅ」


 何とか今日の仕事も終わった。広すぎるベルフォード学園の端っこに用意された用務員用の宿舎に魔法で転移して戻る。


 勿論誰にも見られない様にだ、バレると国の法で裁かれてしまうからわりと必死に魔法を使える事実を隠すのである。


 宿舎の食堂には既に数人の用務員がたむろっていた、この無駄に広い学園の掃除やら訳の分からん雑用を頑張ってこなす職場の同僚達だ。


 よく話す用務員は二人、チャラそうな金髪碧眼の青年のカルロと同年代で少し頭髪が薄い銀髪と青い目の用務員おじさんであるオールさんだ。


「ラベルさん、お疲れさんです」

「お疲れさまですオールさん」


「あっラベルさん、ま~た仕事サボってたんですか? 廊下で学園の先生達が話してましたよ?」

「カルロ君、別にサボってはないんだけどね、用事だよ用事…」


 その話をしてたのはきっとディアナ先生だろうね、耳聡い用務員は暇な時間を埋める為に学園内のウワサとかを集める暇人もいる。


 目の前の若い用務員もそんなタイプの人間だ。

 下手に生徒や教師の秘密を握って消息不明とかにならないかオッサンは心配だよ、この学園ってマジでそんな事が起こりうる場所だからさ。


 ベルフォード学園ではね、用務員と学生寮のメイドさんの命はワインのコルクよりも軽い、なんて市政ではおどけ話として話される類だ。


 それがあながち外れてないから世の中恐ろしいもんである。


「あっラベルさんもう聞いたかい?」

「何をですか?」

「近々学生達の修学旅行があるでしょう?」


 修学旅行、日本の学校だと色々あって中止になっていたタイミングで異世界に旅立ってしまった俺だ。この世界でも学校には修学旅行の文化があるのである。


 それは素直に嬉しい、しかし貴族しか通えない学園だけにその修学旅行がまた豪華なのだ。

 修学とからどこへやら、空飛ぶ船である飛行艇をチャーターして学年だか専攻だかで別れて様々なリゾート地に飛んでいくのである。


 羨ましいよ本当、修学旅行なんて寒い所にしか行った記憶しかないので南国のリゾート地とか行きたいもんである。


「修学旅行ですか、それならしばらくは学生と教師の数がかなり減りますね」


「それなら仕事をサボってもバレにくくなりますね、ベルフォード学園の修学旅行は二週間以上は帰って来ませんし」


「………いやっ実は少し困った事になってるらしいですよ?」


 困った事?

「何か問題でも起きたんですか?」


「本来、修学旅行にはそれぞれの家の侍従を連れて行くでしょう? しかしいつもより忙しい貴族が多く学生の世話をする人間の頭数が足りないらしいんですよ」


 マジでか、あの人の姿をした悪鬼共の面倒を見るのはプロじゃなければ命が危ない。

 下手に学園の外の人間なんて雇えないし、どうするつもりなんだろうか?


「ラベルさーん! 少しいいかな?」

「はい、今行きます!」


 少し修学旅行について心配していると用務員達をまとめる班長、まあバイトリーダーみたいな立場の人に呼ばれた。


 そして他に人がいないバイトリーダーの個室にて。


「実は修学旅行に用務員を何人か駆り出されるらしくてさ、君行ってくれない?」

「…………はい?」


 意味不明だった。

 何で用務員の俺が駆り出されるなんて話になるんだよ。


「なんか雑用をする人間が少ないらしくてさ、修学旅行をする学生の荷物とかを飛行艇に出発の時に積んだり、旅行先のホテルに運んだりする人手が欲しいんだってさ」


 どんだけ荷物あるだよ貴族学生、自分の荷物くらい自分で運べよ。

 しかしそんな言葉が通用しないのがファンタジー世界の貴族様である。


「まさか俺一人で何十人といる学生の荷物の運搬をしろと?」


「まさか、飛行艇の人間も働くさ。しかしそれだとどうも足りないらしくてね、学生とは言え貴族相手だから色々と気を使う必要があるだそうだ」


 ベルフォード学園の学生、本当に面倒くさいの塊見たいな連中である。何で学生にそこまで大人が気を遣うな必要があるのだろうか……そんなの相手が権力のある人間の子供だからですな。


 人を使う人間と使われる人間の縮図である。

 しかし行きたくないものは行きたくない。


「俺は近頃何人かの学生にやたらと目の敵にされています。そんなのが修学旅行についてくればいい気はしないんじゃあ?」


「大丈夫、大丈夫。その学生達がいない飛行艇に乗ってしてもらうからさ、流石にそこはこっちの都合を学園が考えてるよ。無論他の用務員にも声をかけるつもりだから君だけって訳じゃないし」


 本当に考えてるかな? この学園が…。

 良くも悪くもこのベルフォード学園は貴族の子息子女の為の場所だ。別に用務員の為に存在する所ではない。


 単純にお金を貰ってる俺達と払っている貴族様と扱われ方が違うのは仕方ないって話はわかる。

 故に我々下々への細かい配慮なんてここに務めて十数年の俺にはとても信用出来ない話だと思った。


 偉いヤツってね、偉くも何ともない人間を人間としてみないもんなんだよね……。

 仕方ない、もうこの場で退職すると言ってそのまま国を出ようかな、付き合ってられんよ。


 俺は意志を固めた。


「頼むよ、特別ボーナス出るからさ」

「………今回だけですよ?」


 俺の意志はボーナスの力に屈した。

 こんなんだからさ小市民なんだよな、俺。



お金の力は……強い。

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