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0-8 騎士の候補生

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 弾ける笑顔を見せるルイーズ。

 彼女は王宮から届いた通知書を両手で広げ、婚約者に見せていた。

 彼女が持つ厚くて丈夫な紙には、ルイーズの名前と「合格」の文字がある。

 ルイーズは晴れて「騎士の候補生」となり、訓練に必要な、騎士服や靴などの支給品も、どっさり受け取った。


「モーガン見て! わたし宛てに書類審査の合格通知が届いたわぁ」

「良かったなルイーズ! 1週間後から訓練が始まるのか! まあ、無理せずに6か月間過ごしたら、女性騎士だったら大丈夫だろう」

「そんなのは駄目よ。やるからにはしっかりやらなきゃ。大変なのは分かっているけど、だから給金が良いんだもの。わたしね、騎士は手当が多いから、どうしてもなりたいんだ」

 ルイーズは、届いた騎士服をぎゅっと抱え、うれしそうな笑顔を見せた。


 含み笑いを浮かべるモーガンは、計画通りに事が進み、ご満悦だ。

「すごいやる気だね、頼もしいよ。僕も応援しているから」

 ルイーズが騎士になれるかは、彼にとっても死活問題だった。

 なにせ、家を継ぐことも、家柄の良い令嬢の入り婿になることも難しいホイットマン子爵家の3男は、ルイーズの(ひも)を目指している。

 子爵家の当主から、働くように言われても、モーガンは楽に生きることしか考えていないのだ。


 ルイーズが騎士になれなければ、彼女に春を売ってもらい、次の策が見つかるまで、自分は悠々と暮らす気でいる。


 そうとも知らないルイーズが、モーガンへ真面目な質問をすると、「かわいいね」だの、「愛してる」だのと返され、誤魔化された。

 実際のところ、彼女は彼のことを何も知らないのだ。

 それにもかかわらず、モーガンの計画に気付いていないルイーズは、少しも彼を疑っていなかった。

 

「ありがとう。給金が入ったら、弟に家庭教師を雇ってあげたくて。わたしのように独学で勉強、なんてわけにはいかないし。もう10歳だもの、このままわたしが教えているだけだと足りないから、何とかしてあげたいの」


 幼少期の姉のミラベルへ、教科書一式を買い与え家庭教師を雇った。

 けれど、長女は勉強が嫌いだと家庭教師を追い払っていた。

 ミラベルが8歳のころまでは、伯爵位を望む富裕層が「支度金を用意して押し寄せる」と、母から教えられていた。

 それを信じたミラベルは、勉強などどうでもいいと、傲慢に日々を過ごした。


 姉だけが無知でいる分には問題はなかった。


 けれど姉のミラベルは、自分が高い月謝を使っていないのだから、弟に与えるのは許せないと、弟の家庭教師を雇うことに断固反対していた。


 長女ミラベルが願わずとも、夫人の金銭管理があまりにずさんで、今では伯爵家の家計は、日々の生活でギリギリだ。 

 この家に家庭教師を雇う余裕がないのを、ルイーズは知っている。


 弟想いのルイーズは、アランの将来を心から心配していた。


 姉のミラベルは、教科書が邪魔で髪飾りを並べられないと怒った結果、ルイーズの部屋へ教科書が押し込められた。


 その教科書で、真面目に勉強していたルイーズは、姉とは違い読み書きも計算もこなせる。

 だが、エドワードのハンカチを拾ったときに、それを姉に知られてしまった。


 今更ながら教科書を買う余裕のないフォスター伯爵家は、姉のかんしゃくのせいで、まともな勉強道具さえそろっていなかった。


「何故、弟なんかにお金を……。僕との結婚は?」

「もちろん、モーガンとの生活も大事にするわ。弟のために1~2年位お金を使っても、ぜいたくをしなければ何とかなるから。ねっ、お願い」


 両手を合わせて、婚約者へ懇願するルイーズ。


「それは……、ルイーズが騎士になってから考えよう」

「そうね、まだ気が早かったわ。実は、弟のアランに使っちゃ駄目って言われる気がして心配していたんだけど、やっぱりモーガンは優しいわね」


(わたしは早くこの屋敷を出たいけど、わたしがいなくなると、アランに勉強を教える人がいなくなるもの。あの母が、わたしだけ幸せになってと言われて、そのことが気掛かりだった。だけど、騎士になれたら何とかなる気がするわ)

 モーガンに、ルイーズはにっこりと頬笑む。


 モーガンは、全てが整えば釣った魚に餌を与えるつもりはない。

 単に、この場を誤魔化しただけだったが、ルイーズには知る由もない


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