4-28 諦めた愛の告白
屋敷へ戻る馬車の中で、早々に会場から抜け出したルイーズは、エドワードにたずねていた。
今、自分たちの部屋の中に、息子のライアンとルイーズの弟のアランが2人きりで過ごしている。
ライアンの事情も伝えずに、ただ一方的に、アランに頼んだのだ。
「ねえ、どうしてアランに、『ライアンを誰にも触れさせるな』って頼んだの? ライアンがヒールを使えるなんて直ぐに分からない話だし、姉が大袈裟な親馬鹿だと思われたわよ、きっと」
不安気なルイーズの声を掻き消すように、馬車の中にエドワードの笑い声と楽し気な声が響く。
「くくっ、流石だな。俺を顎で使うルイーズは、ヒーラーの価値を分かっていないな」
「はぁーっ、偉い人でわたしとは、無縁のすごい人だって分かっているわよ、……あれ」
「ふーん、ルイーズは凄いな。そんなのが2人も近くにいて、ルイーズを取り合っているんだからな」
「何言ってるのよ。ヒールが使えるって言っても、ライアンは、かわいい赤ちゃんじゃない」
「そう思うのは俺が近くにいて、感覚がズレているルイーズだけだろう。ヒーラーの可能性だけでライアンは興味の対象だ。ライアンに触れて気付かれるのは、まずいんだよ」
「弟だって、まだ子どもなのよ……。1人でなんて心配だわ」
「そうだが、どう考えても、あの舞踏会に参加しない者で、信用できる人物はアランしかいないからな。従者の中で1人くらい、俺たちのいない隙を狙ってライアンに近づく者がいるはずだ。アランなら何があっても姉の子を守ってくれるだろう」
「そうだと思うけど……」
いつもであれば、甘い2人きりの馬車の中。
だが今は、従者の誰を、屋敷から追い払うことになるのかと深刻な空気が漂う。
***
部屋に着くと、ライアンを寝せたベビーコットを横に置き、勉強しているアランが待っていた。
「アラン、ライアンを見てくれて、ありがとう。1人で心細かったでしょう」
「いえ、心細くなる暇はありませんでしたよ。少し前まで起きていたんですけど、タイミング悪く眠ってしまいましたね」
落ち着きはらったアランを見たルイーズは、留守中、何事もなく過ぎたと確信し、安心してライアンの寝顔をのぞき込む。
そのルイーズの瞳には、気持ち良さげに眠る我が子がおり、ルイーズは目を細め愛らしい姿を見入っていた。
……するとアランが淡々と話しながら、帰り支度を始めた。
「初めは、どうして僕が呼ばれたのか分からなかったけど、流石、エドワード様の子ですね……」
まさかと青ざめるルイーズは、ゆっくりとアランに顔を向けた。
「アラン……、もっ、もしかして」
「剣術の練習で出来た傷が治ったので、すぐに分かりました」
「えっ。それって誰かに知られたかしら」
「いいえ。この部屋に子どもしかいないと思って、従者がひっきりなしにライアンを見にきていたけど、誰にも触れさせていないので安心してください」
「アランは大丈夫だったの?」
「この屋敷のほとんどの従者から、ルイーズ夫人の弟は酷いかんしゃく持ちだと思われたでしょうが、まぁ子どもの我が儘ということで、大目に見てくれるでしょう。それに、幼かった姉上が体を張って、僕をもう1人の姉からいつも守ってくれたおかげで、こうしていられるのに、その僕ができないとは言えませんから」
「アラン……、わたしが弟を助けるのは当たり前でしょう。でも、こっ、このことだけど……」
「ああ、大丈夫です、ライアンのことは父にも誰にも言いませんから」
そう言って、ぺこりと礼をして弟のアランは帰っていった。
ルイーズとエドワードの2人の間に、互いに気まず過ぎる、微妙な空気が漂う。
エドワードと顔を見合わせたルイーズは、泣きそうな顔で自分の顔を指した。
「わたしアランに負けていない? ずっと一緒にいた母親のわたしが、2か月近くライアンのことに気付かなかったのに、会ってすぐに分かったですって……」
頬をピクピクと動かすエドワードは、侯爵家の従者に不信感しかない。
屋敷の従者の総入れ替えなどしては、噂を助長させるだけであり、もはや、打つ手はない。
その上、目の前には真面目で単純。チョコレート1つで釣られるルイーズである。
「以前アランが来たときは、ライアンに会わせなかったのか?」
「ライアンは寝ていたし、アランはわたしに会いに来たって言っていたから、今日が初めてよ」
「どうして、あほのルイーズの弟が、あんなにしっかりしているんだろうな……。ルイーズも、アランを見習うべきだな」
「はぁぁーっ、わたしより、もっと変な家族もいるわよ。だけど、エドワードだって、ライアンのことに気が付かなかったんだから、お互い様でしょう」
「はぁぁーっ、俺は傷もなければ、リンゴも触われないから仕方ないだろう。気付かなくて当然だ」
「ちょっと待って。わたしたち、こんなにムキになって、11歳のアランより子どもみたいだわ……」
急に真面目な顔になったルイーズが、まっとうな事を言い出した。
「……そうだな。まぁ俺はルイーズが描いてくれた、くまの刺繍のガウンが1番気に入っているからな。子どもなのか……」
「ふふっ、わたしも、うれしそうにしそうにアレを着ているエドワードが大好きよ」
ルイーズを見つめているエドワードの目が突然、真っ赤になり、潤み始めた。
「どうしたのエドワード。わたし、何か気に障ることを言ったかしら」
「いや違う。……うれしくて」
「えっ、どうしたの?」
「もう、その言葉を、一生言ってもらえないと思っていた。ルイーズに馬鹿な頼みをした自分が悪いから、諦めていたんだが……。でも今、聞こえたから……」
「ん、何のこと?」
「ルイーズから、大好きだって、初めて聞いた……。ルイーズの気持ちは、俺がプロポーズするときに無理やり聞き出した以降、何も言ってくれないから」
「あれ、おかしいな。なんか照れくさいから、結婚式の直後に言おうと決めていたんだけど、どうして、これまで言ってこなかったのかな」
「……あの日、じじぃが余計な舞踏会を開催したせいだな」
「そうだったかな」
首を傾げるルイーズは、慌ただしい結婚式の日に何があったか思い出せないままだ。
「……ライアンも寝ているし……」
エドワードがルイーズの手を引き、開け放たれたままの、ふたりの寝室へ向かった……。
そして、その頃。
適当に立ち去ってきた、貴族籍であれば全ての者が集まる舞踏会。
そこで、奇跡の力を分け与えてくれたにもかかわらず、「何も言うな」と、礼の一つも言わせず立ち去る2人。
跪いて礼を伝えたい恩はあるが、恨みを持つ者は誰もいなかった。
颯爽と立ち去った2人の称賛は、尽きることはない。
そして、陛下とその取り巻きが、次の舞踏会にもエドワードを呼び出す作戦を企てるが、はたしてどうなるか。
そんな思惑も、互いの体を温め合う2人だけが知らずにいる。
「これまでずっと伝えるのを忘れてて、ごめんなさい」
「いや、ルイーズの気持ちは、ちゃんと分かっていたから。でも、もう一回ルイーズの声で聴きたい」
「エドワード、あなたのことが……大好きよ」
ルイーズに届けられたミトンが、大活躍するときは、近いかも知れない。
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では、この作品にご縁のありました全ての方へ心から感謝を込めて、完結。




