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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第4章 祝福されるふたり

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4-19 不穏な空気②

応援ありがとうございます。

 ルイーズが待つエドワードの部屋へ、うつむいたエドワードが戻ってきた。

「……大丈夫。何か問題でもあったの?」

 様子のおかしいエドワードの顔を、不安げなルイーズが覗き込む。


 だが、何かを言おうとするエドワードは、小さく口を動かしたが、言葉にならない。

 そのまま、とぼとぼとソファーへ向かい、深く腰掛けた。


 いつもであれば、ルイーズが横に座ると、エドワードは当然のように彼女を抱き寄せるが、今の彼はズレるようにして体を動かし、少し離れたのだ。


 そんなエドワードの姿に、ルイーズは口に手を当て息をのむ。


 しばらくの間、両手で顔を覆っていたエドワードが、おもむろに口を開く。


「ルイーズ、俺……。いや駄目だ。今、話すと不安で仕事ができない。あとで謝るから」

「あ……、うん」


 そう言って再びルイーズを部屋に残し、静かにいなくなったエドワード。


(あんなに悩んで、わたしに謝るって、陛下の所で何があったんだろう。やっぱり、エドワードと一緒にいるのはわたしでは駄目だと言われたのかしら。いつも自信たっぷりなエドワードが、あれ程までに落ち込んだのは、見たことがないわ。……馬鹿ね、そんなに悩まなくても、エドワードを責めたりしないのに)


 仕事を終えた青い顔のエドワードが、よろよろと戻ってきた。

「ルイーズ、悪い……、しばらく動けそうにない」

 絞り出すように声を出したエドワードは、倒れ込むようにソファーへ身を預けた。


 その様子を強張る表情で見ていたルイーズは、エドワードにそっと寄り添う。

 そして、一呼吸置いたルイーズは、平静を装うように、穏やかな口調で話しかけた。


「どうしたの、前は平気そうに戻ってきたのに」


「情けない。俺も……、こんなに疲れたのは初めてだ」

「何かあったの」

「いつもと変わらないが、……ルイーズに許してもらえるわけのないことを……、悩んでいたからだろうな」


 弱々しく話すエドワードの手を、ルイーズから握りしめた。


「馬鹿ね。エドワードの気持ちは、ちゃんと分かっているもの。わたしが許さないわけないでしょう、ねっ」

 にっ、と笑顔を作ったルイーズが、エドワードを見つめた。


「無理に笑わなくてもいいんだ。悪いのは俺だから」

「わたしは怒らないし、エドワードの好きにしていいわよ」

「本当か?」

「エドワードが、そんなに辛そうにしている方が見ていられないもの」


「良かった……、これを伝えれば、絶対に許してもらえないだろうし、しばらく口も利いてもらえる気がしなくて」

 少しだけエドワードの顔に、血の気が戻ってくる。


「そんなわけないでしょう。何に悩んでいるのよ」


「今朝、俺に声を掛けるために、マルロが寝室の前にいたようだ。あいつ真面目だから、そのまま陛下の側近に報告されていた」


「はぁーっ! それって朝のふたりの……。馬鹿っ、エドワードのせいじゃない。結婚前から何をしているんだって笑われるわよ。絶対に許してあげないし、もう知らない」


 ルイーズはぷいっと顔を背けると、エドワードと握った手をバッと離した。


「はぁーっ、怒らないし、許すと言ったのは誰だよ」


「はぁーっ。そんなことだと思わなかったし、言わなきゃバレないことは、黙っていたらいいのよ」


「駄目だ。ルイーズが隠そうとするのは、……俺には分かるから。それなのに、後ろめたいことを俺だけルイーズに隠すのは、対等じゃないだろう。だから伝えているんだ」


「そんな理由で。エドワード……。ごめんなさい、わたし酷いことを言ったわ」

「いや、悪いのは俺だ。父の仕業を放置していたからな。明日からは、絶対に入るなと釘を刺しておく」


「はぁーっ、問題はそこじゃないでしょう」

「大問題だろう。ルイーズのことを俺以外が知るのは、許せないんだ」

「朝から絡んでこなきゃいいのよ」

「無理だ。俺を誘ってくるルイーズが横にいて、我慢できるわけないからな」


「はぁーっ。誘ってないし!」

「ルイーズは単純だから、俺には、素直な気持ちが伝わるんだよ。……今日1日、不安にさせてごめんな」

 エドワードは困った顔で、ルイーズを見つめる。


「わたしも怒らないって言ったのに、ごめんなさい。約束は守るって決めているのに。って、そういえば陛下との話しはどうなったの?」


「あー、あの口うるさい母がルイーズを気に入って、明日から、しつこく付きまとうって。それとルイーズに祝いの言葉を伝えるために、舞踏会のやり直しをするってさ」


「えー何それ! 喜んでいいのか、分かんないわ」


「母は娘を欲しがっていたから、うれしいんだろう。かわいい娘の花嫁姿を自慢したいんだ。喜んでいて問題はないさ」



***


 舞踏会の一件からしばらく経過したけれど、その間、スペンサー侯爵家へ押しかける不審人物は、ただの1人も存在しなかった。


 それも当然。

 エドワードに直接接触したところで、彼の権限で処罰される危惧は、くだん(伯爵夫人)の出来事で周知の事実だ。


 そもそも伯爵夫人の末路を知る貴族しか、スペンサー侯爵家を訪ねて来る者はおらず、その話題に触れる猛者もいない。



 継母がいなければ平和そのもの、……というわけにいかないのが、ルイーズである。

 その彼女は、何も分かっていない教養を一から、たたき込まれてるところ。


 本来であれば、幼子でさえ身に着けているカーテシーから始まる指導。

 その初歩から、ルイーズは悪戦苦闘している。


「ルイーズ、へっぴり腰はやめなさい!」

「じゃぁ、こうですか……」

「違うわ。足にしっかり力を入れないから、体がガタガタ揺れるのよ!」

「おかしいな……。ちゃんとやっているんだけど……」

 不思議そうな顔のルイーズは、どうしたものかと首をかしげる。


「ほら、ボケっとしない!」

 エドワードとの剣の訓練で、この手のことに慣れっこなルイーズは、スパルタな侯爵夫人にめげるわけもない。


 ……むしろ、延々と続くエドワードの母の熱烈な指導に、まぎれもなく親子だなと、ルイーズは内心くすくすと笑っている。

 


**


 2人の結婚式も、あと少しと迫ってきた。


 朝日が差し込んでいるエドワードの寝室。

 朝からじゃれたがるエドワードが、ルイーズを逃さまいと、ぎゅっと力強く抱きしめる。

 

 彼の腕が心地よいルイーズも、このまま、じゃれ合いたいのは山々である。

 ……だが、侯爵家のスパルタ教育が待っているのだ。

 なんたって、侯爵夫人が生き生きと楽しそうに俄然やる気を出している。


 ルイーズは、エドワードの腕から逃れようともぞもぞと身をよじるのに必死だ。



 もう少しルイーズと一緒にいたいエドワード。

 彼の耳には、早朝から訪問を知らせる呼び鈴の音が、何度も聞こえていた。


 そして少し考え込んだエドワードは、陛下の予定を思い出すと……、無視しても問題ないと決め込んだ。


「もう、起きているんだから離してよ。また怒られるでしょう。こうなったら、エドワードのせいですって言うわよ」


「くくっ、人のせいにすれば余計に怒られるぞ。俺はまだ一緒にいたいし、ルイーズだって、そうだろう。母なんて気にするな。どうせ楽しんでやっているんだし、待たせておけばいい」

 ルイーズに触れるエドワードがそう言うと、口づけを落とそうとする……。


 ……が、触れる直前、エドワードの動きがピタリと止まった。


 そのまましばらく固まり、険しい顔で動かないエドワード。

 そんな彼を、ルイーズは強張った表情で見ている。


(どうしたんだろう。もしかして、お母様の話をしたのが良くなかったのかしら)

 そう思ったルイーズは、弱弱しく声を掛けた。


「エ……、エドワード……」

「あっ、悪い。少し考えごとをしていた。駄目だ。ルイーズが怒られるから、さっさと起きるぞ」


 それ以上何も言わないエドワードは、突然、がばっと起き上がると、ベッドから飛び出していた。


 何が起きたのか理解の追い付かないルイーズは、呆然(ぼうぜん)とベッドの中に取り残されている。


 途端に様子が変わったエドワードを見て、自分に落ち度があると悩み、なかなかベッドから動けずにいる。


 エドワードは、思わずにやけそうになるのを、必死にこらえながら急いで着替え終えた。


 すると、ルイーズがぼんやりしていることに気付き、上機嫌のエドワードは、ルイーズをベッドから引っ張り起こす。

「……エドワード、怒ってる」

 不安気なルイーズは、ぽつりと小さない声で呟く。


 だが、心ここにあらずなエドワードは、上の空で考え事をしており、気付いていない。


(俺からルイーズに伝えるのは、駄目だよな。こういうのは、やはり自分が一番先に気付いて、報告したいんだろう。いつになったら気付くんだ?)


「ほら、朝食の時間がなくなるからさっさと動け。俺、今日はもう王宮へ向かうが、ルイーズは何か変わったことはないのか?」


「あっ……。いえ、至っていつもどおりだけど。ふふっ、今日は真面目に仕事する気になったの?」

「はぁぁーっ、いつだって真面目に仕事をしているだろう」


(どうしてキスするのを、やめちゃったの。どうしよう……。わたし、何か余計なことを言ったのかしら……)

 じんわりと赤いルイーズの目には、いつもと変わらないエドワードの姿が映る。




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