4-17 ルイーズに届くチョコレート
舞踏会の翌朝。エドワードの腕の中で、ルイーズはゆっくりと目を開けた。
ルイーズの隣で眠るエドワードは、まだ、深い眠りの中にいるようだ。
その寝顔を見て、昨夜の熱い時間を思い出すルイーズは、頬を赤くしている。
美しい鼻筋に、艶っぽく伏せた瞼。わずかに笑みを浮かべるような口元。
ルイーズは、「この人は、眠る顔さえ心をきゅんとさせるのか」と、しげしげと見入っている。
覗かせる上半身。彼の寝姿に見惚れ過ぎて、高まる鼓動に、きゅぅぅっと、うずく子宮。
昨夜の幸せな時間に浸るルイーズは、次第に耳まで真っ赤になっていく。
従者たちが既に働いているのだろう、部屋の外で、人が往来する音が微かに響いてきた。
浴室へ向かおうとするルイーズは、絡みつくエドワードの腕を剥がすと、彼の腕の中からスルリと抜け出た。
……だが、その直後、エドワードの腕が再びルイーズを逃がす気はないと、絡まってくる。
……もしかして既に目覚めているのだろうか。そう思って声を掛けてみる。
「ねぇエドワード、起きるよ」
「……」
優しく声を掛けてみたものの、エドワードからの返答はない。
彼はまだ寝ている……。
そう思うルイーズは、もう一度同じことを繰り返した結果、直ぐにエドワードに捕獲されている。
カチンときたルイーズは、エドワードをゆさゆさと揺すりながら、彼の名前を大きな声で呼び始めた。
「何なのよ。起きているんでしょう。ベッドから出るわよ、エドワード」
「くくっ、一生懸命動いてかわいいから、しばらく見ているつもりだった。まあ、午前中はルイーズとの時間って決まっていたし、ここから出る理由はないだろう」
うれしそうな顔のエドワードが、ルイーズの髪をなでると、彼の唇がルイーズの首筋に近付いた。
「ちょ、ちょっと待って。朝から駄目よ。ふしだらだって、周りから笑われるわ」
「誰に笑われるのか知らないが、そんなこと、ふたりの秘密にしておけば誰にもバレないだろう」
「駄目よ。今日1日中わたしが、エドワードを思い出しちゃうもの、起きるわ」
ふっと笑うエドワードが、ルイーズの下唇を甘噛みすると、彼女の耳元で優しくささやく。
「俺……、誰かと目覚める朝は、自分には無縁だと諦めていたから」
「……ぅ」
「こんな幸せな朝は初めてなんだ。だから、もっとこうしていたかったけど仕方ない。ルイーズを離す前に、キス……してもいいだろうか」
そう言って甘えるエドワードに、ルイーズは小さくうなずいた。
……結果。
火照りきった体のルイーズとエドワードは、王宮へ向かう時間がギリギリに迫っていた。
**
そんな2人は、王宮の中をぎゃぁーぎゃぁーと、騒ぎながらエドワードの部屋へ向かっている。
「エドワードのせいで、朝ごはんを食べ損ねたじゃない。明日からは駄目だからね」
「明日のことまで約束はしない。素直過ぎるルイーズが、かわいいから、おそらく無理だ。部屋に着いたら何か食べられるから機嫌を直せ」
エドワードに宥められるルイーズが、エドワードの部屋へ入ると、机の上に小さな箱が山積みになっているのが目についた。
それがいつものことなのか、そうではないのか判断のつかないルイーズは、静かにエドワードの顔を見つめる。
すると、エドワードは、箱の山を睨みつけるように見ており、その表情を見たルイーズは、この光景が異常なことだと察知した。
箱の山へゆっくりと近づく2人。
「ねぇ、この箱は何?」
「分からん……。だが、俺の部屋にあるのに、どの箱も『ルイーズ様へ』となっているな……」
「なら、遠慮は要らないわね、開けてみるわ……」
ルイーズは、エドワードの了解を得て直ぐに、そのうちの1つを確認した。
重厚な箱の蓋を開ければ、光沢のある美しいチョコレートが、行儀よく箱に収まっているのだ。
目を見開いて驚きつつも、ルイーズはにんまりと、既にそれをつまみ上げようとしている。
「ルイーズ! むやみに食べるなよ。何が入っているか分からないだろう」
「えーっ、駄目なの……」
チョコレートを見て、ゴクリと唾をのんだルイーズの喜びは、慌てたエドワードにかき消されてしまう。
顔を引きつらせるエドワードは、その箱を不信そうな様子で手に取った。
そしてハッとした彼は、次から次へと箱の送り主の名前を確認し、ある心当たりに辿り着けば、額に手を当て考え込んでいる。
「どうかしたの?」
「この箱の送り主は、以前、救護室で治療を求めていた貴族たちだな。受付係が書き溜めている記録に残っていたはずだ。昨日のモーガンを見て、次に会うときまでにルイーズに恩を売りたいんだろう。チョコレート自体に問題はないはずだが、念のため、俺が隣にいるときしか食べるのはやめておけ」
「わたしに恩なんて売っても、どうにもならないのに。どうしてエドワードへ贈らないのかしら?」
「俺に恩を売れるなら、そもそも正規の料金を払って治療を受けているだろう」
「えー、どういうこと」
「ルイーズと違って、付け入る隙なんてものは、俺にはないからな」
「はぁーっ。失礼しちゃうわね」
「何が失礼だ。カーティスのチョコを、どうせ大喜びしてたんだろう」
ことある度に出てくるカーティスに、拗ねたエドワードは唇を尖らせていた。
「どうだったかな、喜んでいたのはアランだもん」
「俺に隠れて持ってきたハンカチに、クマの刺繍を描くなよ。ハンカチはそのために、わざと手間をかけているんだからな」
「えー、そんな……。じゃあ、チョコを食べるしかないかぁ」
そう言ったルイーズは、チョコレートの山を見て目を輝かせている。
「ルイーズ、頼むからチョコレートぐらいで騙されるなよ」
「もちろんよ。こう見えてもしっかりしているんだから」
「……俺とのデート、宝石店よりも、チョコのケーキを一番うれしそうだったくせに、大丈夫か」
「まぁ、そういうこともあるわよ。じゃぁ、今は食べても良いわね。きっと、今回は美味しいはずだもの」
そう言って、チョコレートをぱくっと食べ、ルイーズは顔を綻ばす。そんな彼女を、エドワードは複雑そうな表情で見守る。
少しして、ビリング侯爵が食事を運んできたが、エドワードから顔を背けており、妙によそよそしいのだ。
「ビリング侯爵、昨日の舞踏会、あれから何があった?」
「いえ、特に変わったことはありませんよ」
(っなわけがないだろう。あの後に変わったことが無い方がよっぽどおかしいだろう)
額に汗を流すエドワードは、ルイーズとの食事が終わるや否や立ち上がった。
「ルイーズ、悪い。俺、じじぃの所へ行ってくる」
「分かったわ」
「あっ……ちょっと待って。エドワードがいないとチョコレートは……」
ルイーズがそう言ったときには、エドワードは既に、走っていなくなった後だった。
暇つぶしもなくなり、独りポツンと残されたルイーズが、チョコレートの箱を改めて見てみると、手紙が付いているのに気がついた。
添えられた手紙を読み込むルイーズは、祝福の言葉ばかりの内容に、ほっこり温かい気持ちになり、何度も読み返している。
社交に無縁なルイーズにとって、媚びを売るべき対象を、正確に理解した貴族たちの心情など、知る由もない。
規約上、ギリギリな描写がどこか分からず、苦戦しました…。
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