4-16 子どものようなふたりの、おあずけのキス
応援ありがとうございます(≧∇≦)/
揺れる馬車の中、エドワードに抱き寄せられたルイーズは、互いの体温がすっかり馴染んでいるのを感じていた。
「帰ったら、即行で風呂に入るからな」
「待って。それは分かるけど、今の言い方って、エドワードも一緒みたいに聞こえるわ」
「はぁぁーっ、当たり前だろう。侍女に任せてリンゴの酒が落ちていなかったら、俺が困るからな、監督だ」
「はぁぁーっ、ちゃんとしっかり自分で洗うから大丈夫よ。それに、お風呂を覗かれるなんて恥ずかしいでしょう」
「今更か? どうせ互いに全部知っているんだ、いいだろう」
「違うわよ。それと、これとは別でしょう」
「くくっ、どれとどれだって」
エドワードの揶揄いを怒ったルイーズは、「もう知らない」とそっぽを向いてしまった。
その短い沈黙が2人の不安を誘う。
それまで冗談めかしていたエドワードの口調が、少し低い、緊張を含む声色に変わる。
「……俺のために、ごめんな。ルイーズが、こんなに濡れてしまって……。もし、ルイーズが動いてくれなかったら、明日、他のヒーラーに会うまで、うなされ続けるところだった……。ルイーズのお陰で助かった、ありがとな」
「もう、大げさなんだから。わたしが飛び出さなくても、エドワードなら、ちゃんと避けていたんでしょう」
「……いや。普段ならそうだが、あの時は、あのまま動く気はなかった」
「はぁーっ、何を考えているのよ」
目を丸くして怒るルイーズとは裏腹に、エドワードの口調は落ち着いたままである。
「以前、令嬢からアレを少し掛けられ、皮膚が焼けたのを父は知っているからな。グラス一杯となれば、俺も平然と立っていられないし、父が伯爵夫人を、警備へ突き出すのが分かっていた。好都合だったんだよ」
「馬鹿なの! どうして、そんな無茶なことを考えるのよ!」
「アランが……、伯爵夫人が急に話し掛けてくるようになって、怯えていたからな。ルイーズがいない伯爵家へ、俺が訪ねる理由もなくなるし、泣いてる弟をこのまま放っておけないだろう」
「えっ……、わたし、そんなの知らないわ。どうしてアランは、わたしに言ってこなかったんだろう。あの子に嫌われたのかしら……」
おろおろするルイーズは、眉をハの字にして困惑している。
(馬鹿だな。アランが泣くのなんて、ルイーズのことしかないだろう)
「さあな。危なっかしいルイーズじゃあ、頼りないから言わないだけだろう」
「はぁーっ、エドワードの方が、わたしより、よっぽど危なっかしいでしょう。そんなんだから、皆に知られてしまったのよ!」
今夜の出来事によって、明日から何かが起きるのか、ルイーズは恐怖を感じている。
だが、不安なのは自分よりもエドワードだろうと、怒った振りで誤魔化すと、不安げな顔を見られないようにと、再び顔を背けた。
「すまない……。つい、カァーッとなって、あの場で正体がバレるようなことをしてしまった……。このあと、俺のことで、どんな反応が起きるか正直なところ分からない。明日は、ルイーズ1人を屋敷に残すのは心配だ。退屈だろうけど王宮の俺の部屋で過ごして欲しい」
「うん」と、ルイーズは静かにうなずく。
エドワードと一緒なら、なるようになるから大丈夫だと、ルイーズは気持ちを切り替え、聞きたかった質問をする。
「ねえ、お母様が言っていたけれど、どうして青いドレスには家紋が入っていて、このドレスには、ふたりのイニシャルが内側に入っているの?」
「あー、あっちは万が一俺が自分の体に戻っていなければ着るつもりだったから、婚約者として紹介する意味で家紋が絶対に必要だった。母はあのとおり、あら捜しが趣味だし体裁を繕う必要があったからな」
「そうなんだ。ふふっ、じゃあこっちは?」
「今着ているのは、……申し訳ない。このドレスを頼んだときは、俺がまだルイーズへの気持ちに気付いていなかったから、片方に家紋を入れて、もう片方に何も入れない訳にいかず、そうなった」
「でも、うれしいわ。この指輪もドレスもふたりの名前でしょう。それに、さっき気付いたけど、ネックレスもそうだった。本当に何でも名前を書くのね」
「持ち物には名前を書けと父から言われて育ったからな。うちの家紋入りは使用人の窃盗対策で、質屋に持っていっても、当主の許可がなければ売れない仕組みだ。屋敷の中の物は、それを従者へ伝えるために目立つように付けてあるしな」
「あのアゲハ蝶、そんな意味があるんだ……。すごいわね……」
弾んだ声で質問したルイーズの口調が弱々しく変わると、ルイーズを抱きしめるエドワードの腕に力がこもる。
「自信なさげだけど、ルイーズは俺のものって意味じゃないからな。それなら家紋で十分だ。指輪を渡したときから、俺はルイーズのもの、ってことだ。もし、俺みたいなのが嫌になれば、それなら売れるし、ルイーズが馬鹿なことを考えなくても生活できるだろう。まぁ、俺も簡単にルイーズを諦める気はないけどな」
全く予想をしていないことを言われ、どきりとしたルイーズは、潤んだ瞳でエドワードを見つめる。
「エドワード……」
「……ルイーズの気持ちは言われなくても、十分に伝わるからな……。単純だから」
「もう、ひどい。馬鹿にしてばっかりなんだから」
「違う。こう言ってごまかさないと、キスしたくなるから……。リンゴの酒が付いていなければ、とっくにしてた……。俺にとっては今日が特別な日だから、ずっと楽しみにしてたんだ」
顔を赤くして、エドワードが珍しく照れている。
「ふふっ、子どもみたいね。アランでもそんな拗ねた顔はしないわよ」
「馬鹿だな。俺がアランより、子どもな訳ないだろう。それは、とにかく風呂に入ってからだ」
「だから、一緒には入らないわよ」
そんな2人は、風呂についていまだに、ぎゃぁーぎゃぁーと、騒ぎ立てながら帰ってきたのを、マルロに出迎えられる。
それを見たマルロは、ルイーズを止めるべきかと思ったが、侯爵夫人のストールをまとっていることに気付き、エドワードに手を引かれて横を通り過ぎるルイーズを見送った。
すると、その瞬間、リンゴの甘い香りがふわりと漂うのを感じたのだ。
優秀なマルロは、リンゴアレルギーのお坊ちゃんを真っ先に心配し、手厳しい侯爵夫人の指導が行き渡った優秀な仕事を見せる。
「うわぁ~、変わっていないわ」
しばらくぶりのエドワードの部屋に、懐かしさを感じ、その様子を見回したルイーズ。
だけど、そんな感動に浸る暇はない。ルイーズはエドワードに強引に浴室に押し込まれた。
「いいから、風呂に行くぞ。ぼけっとするな」
そんなエドワードも、マルロの指示を受けた有能な侍女たちに追い出され、ルイーズは侍女3人がかりで、入念に洗われることになる。
少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。




