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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第4章 祝福されるふたり

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4-12 大波乱の舞踏会⑨

応援ありがとうございます<(_ _)>

 ミラベルが、去り際に大声で叫んだ。

「知らないなんて、ルイーズのウソつき! それが届いたあの夜、私と宝石の話をしたじゃない! どうして私だけ投獄されるのよ、おかしいわ!」


 それを聞いた伯爵夫人が、ルイーズから少し離れた所で、わなわなと怒りで体を震わせていた。

 

 泥棒猫の娘のルイーズが、大ウソを言ったのだ。まさか、そのせいでミラベルが投獄される事態に陥ったのだから、これは見過ごせない。

 今ここで、「宝石はミラベルに貸した」とルイーズに言わせなければ、撤回する機会を失うだろう。


 このまま放っておけば、ミラベルは一度入ると二度と出てこられない「チルベルにある修道院」に送られるのだ。

 あの場所は「修道院とは名ばかりの劣悪な所」である。そこに自分のかわいい娘を行かせるわけにはいかない。

 そう思う伯爵夫人は、一瞬で火がついた。


 忌々(いまいま)しいルイーズへの怒りと、かわいい娘の行く末を案じ、相当、頭に血が上り激昂(げっこう)した伯爵夫人。

 履いているヒールで、カツッカツッと大きな音を立てて動きだした。


 伯爵夫人は怒りに満ちているものの、発言を撤回させる自信も相当にある。


 何故なら確かにあの晩、ルイーズのクローゼットに入りきらない服や靴が届いたのと同じく、ネックレスなどの宝飾品も目にしている。


 エドワードの貢ぎ物には、間違いなく宝石が何点も含まれており、目玉が飛び出しそうなものを、記念日とは関係のない日に贈ることへ違和感を抱いたのだから。


 それを知る伯爵夫人は、ルイーズがウソをついていることに、少しの疑いもない。



 急ぎ足で近づく伯爵夫人は、手に持つ琥珀(こはく)色の酒を大きく揺らしながら、エドワードとルイーズの前に現れた。


「ルイーズ! ウソを言うのは大概になさい。わたしも宝石が届いたのは見たわよ。貸していると撤回なさい」


 表情を硬くするルイーズは、あからさまに困惑している。

 2人からなんと責められようが、自分は本当に知らないのだ。何も言いようがない。

 それに、自分と入れ替わり中、「姉が何か企んでいる」と告げたエドワードが、ミラベルへ家紋入りの宝飾品を貸す訳がない。


 そう思ったからこそ、姉が侯爵家でエドワード以外から、適当な理由を付けて借りてきたとしか、考えられなかったのだ。


 だが、自分の想像と、継母と姉の言い分が、どうも噛み合わない。


 そうなれば、思い当たる出来事は確かに1つある。

 エドワードが自分へ、「ドレスがなくて困っているのだろう」と言い、買い物へ行った日の事だ。

 

 ルイーズが初めて入った宝飾店。エドワードの体の自分は、「彼女の好きなように」と店主へ伝えたが、結局、エドワードは誰のために何を買ったのか、自分は知らないのだ。


 でも、今、エドワードが着けている紫色の宝石が付いたネクタイピン。

 それは、あの日の夜、部屋に届いており、あの宝飾店では、てっきりそれを買ったと思っていた。

 けれどおそらく、あの日に購入したのは、それだけではなかったのだろう。


 となれば、どう考えても、知っているのはエドワードだと思い、チラリと様子をうかがう。

 だが、彼が何か言う気配もない。


 買ったのも、受け取ったのも全てエドワードだが、当人は、全てを分かった上で「盗まれた」と言った……。

 自分に彼を否定することは出来ない。


「……いえ。だから……。知らない」

「そんなはずはないわ。貸していると言いなさい」

「わたし……、貸していない」


 その言葉を聞いた伯爵夫人の怒りは頂点に達する。

 いつもの調子で、持っているグラスの中身をぶちまけようとルイーズの方へグラスをかたむけた。


「まだ、ウソを言うつもりっ!」


 怒鳴る継母が、グラスの中身をぶちまけることに、ルイーズは当然すぐに勘付いた。

 もう何年も、そうされ続けているのだから、分からないはずがない。


 いつもなら、怖くて目をつむる。でも、これは絶対に目を離しては駄目だ。

 大好きなエドワードに何かあったら、申し訳が立たない。そう思ったルイーズは、すっと胸を正して継母を見つめた。


 伯爵夫人が琥珀色の酒を、ルイーズへ、いつものように掛けようと思った瞬間。目に入る豪華なドレス。汚すのが(はばか)られ、迷いが生じて狙いが定まらない。


 だが、既に勢いがついた液体は、伯爵夫人の手元が狂っていようが関係なく、飛び出していた。


 ……まずい、その先にはエドワードがいる。


 ……彼に、掛かるのは絶対に駄目!


 そう思ったルイーズは、咄嗟(とっさ)にエドワードの前に立ち塞り、継母がぶちまけたグラスの飲み物を、自分自身の顔で受け止めた。


 エドワードと頭一つ分背の低いルイーズが飛び出したことで、彼の服の胸元は汚れることはなかった。

 けれど、ルイーズの顔はずぶ濡れになり、伝って落ちるリンゴの酒が、最高級のドレスも濡らした。



「キャー、あのドレスが!」

 と、会場の1人が上げた悲鳴を発端に、会場全体にどよめきが起こる。

 令嬢として、自らドレスを汚すなどあり得ない。

 ましてや、あれ程の代物を……と、ルイーズを批判する声が上がっている。


 周囲のざわめきを受けて、にやりと笑う伯爵夫人。せいせいしたと言わんばかりの顔をルイーズへ向ける。


「ミラベルは、あの宝石を盗んでいないわ。借りているだけよ、そうでしょうルイーズ」

 ルイーズを諭すように話し始めた伯爵夫人。


 だがしかし、今のルイーズは、継母の話どころではない。


 これはまずい。とんでもないことをしでかした。見なくても分かる。

 ……背後にいる彼の気配が、何かおかしいのだ。顔は見えないが、彼の影が小刻みに揺れている。

 ……背中から伝わってくる恐怖心から、ルイーズは冷や汗をかきはじめた。


「だから、ルイーズが貸しているものよね」

 継母はエドワードの怒りに気付かず、止まることなく訴え続けた。


 それもそうだろう。

 エドワードが、ルイーズを愛しているとは、継母は微塵(みじん)も思っていないのだ。


 むしろエドワードは、ルイーズに脅された側であると信じているのだから。


 何を差し置いてもルイーズが一番だと思っているエドワードは、伯爵夫人の話などお構いなしで、ルイーズしか見ていない。


「ルイーズ、大丈夫か……」

 エドワードは、自分が持っていたハンカチを出し、ルイーズの顔を拭こうとする。

 だが、エドワードの手がぶるぶると震え、眉間のしわが深い。


「……だ、大丈夫よ。自分で出来るわ……」

 ルイーズは、エドワードにそんなことをさせられないと案じて、そのハンカチを彼から奪い取り、慌てて自ら()れた顔を拭き始めた。


「どうして俺の前に飛び出して来たんだ。あんなのは俺が一歩下がれば、避けられるだろう」


「あっ、あっ、……そっか。……そうよね、ごめんなさい。わたしって馬鹿だな。エドワードのことが心配で、守らなきゃって思って、そんなことを考える前に体が動いたんだもん……あなたに掛かるのが怖くて」

「……ルイーズ」


「本当にごめんなさい。エドワードに申し訳が立たないと思ったけど、余計なことをして、もっと申し訳が立たないことをしたわ。仕立屋の店主に高価なものだって、何度も教えてもらったのに、それなのに、ドレスを汚して……ごめんなさい」


「馬鹿、そんなのは気にするな」


「エドワード、わたし、姉の馬車でもう屋敷へ帰るわね。お詫びは、ゆっくり考えてからするわ」

「なぁ、もしかしてルイーズは酒が体に合わないのか? リンゴの酒が掛かった所が赤くなっている……」


 エドワードが、動き出そうとするルイーズの手を触れようとしたけれど、ルイーズは、伸びてくるエドワードの手をさらりとかわした。


「駄目よ。わたしに触れないで、どこにお酒が付いているか分からないから、あなたに触れる自信がないし、濡れたドレスがエドワードに触れてしまうから、近くに来ないで。わたしが赤いのは、すぐに治るから大丈夫よ、いつものことだもの。エドワードは掛かってない? 大丈夫?」


 アルコールによって、顔中が赤くなっているのが徐々に目立ち始め、相当に痛痒(いたがゆ)く見える。

 ……それなのに、不安そうな顔でエドワードを心配していた。


 その瞬間、怒りに震える彼の感情は、最高潮に達する。



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