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0-6 女性騎士を目指す

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とても嬉しいです。

 ホイットマン子爵家の3男のモーガンが、熱烈にルイーズの両親を説得していた。


 照れる様子もないモーガンが、自分への気持ちをサラリと口に出す。

 それに動揺するルイーズの心は、素直にドギマギとし、彼女は真っ赤になっていた。


「ルイーズ嬢を愛していますし、お金がなくても何とか2人で暮らしていきます。フォスター伯爵家にルイーズの政略結婚の当てがあったなら話は別ですが、そうでないのなら、僕との結婚を認めてください」


 モーガンの顔は真剣そのもの。フォスター伯爵に向けた視線は少しもブレることはない。むしろ、目を泳がせているのは、ルイーズの父。


「いや、だがな……」

 中々首を立てに振らない当主に、詰め寄るようなモーガン。

「何か問題でもありますか?」

「私はルイーズが望むなら、それでも良いと思うが、妻がなんと言うか……。どう思う?」

 横を向いて、伯爵夫人にバトンを託す。


 ルイーズの父である当主は、モーガンと娘の結婚に食い気味に承諾したい。けれど、それをしては、伯爵夫人の逆鱗に触れる。

 当主は、この状況では妻もさすがに断れないだろうと高を括りながら、最終判断を伯爵夫人に委ねていた。

 当主の狙いどおり、体裁を気にした伯爵夫人は考え込む。

 ……だが、良い案が浮かばず唇を噛むと、悔しそうな顔を見せる。


(何なのよ、本当に役に立たない男ね。誰がこの場でルイーズは娼館に売るから無理だって言えるのよ。まさか、ここまできたのに金にもならない、こんな男に掻っ攫われるなんて……。あんなにさえない格好で舞踏会に参加して、どうして男を捕まえてきているのよ。あぁー、悔しくてたまらないわ)


 夫人は腹の中では納得しないが、断る理由が見つけられなかった。

「分かったわ。ルイーズが良いって言っているなら、いいんじゃないかしら」

 不快な感情を隠しきれない夫人の顔は、少しも笑っていなかった。

 少しも折れる様子のないモーガンに、フォスター伯爵夫人が折れた格好。

 支度金の当ては全くないホイットマン子爵家の3男と、ルイーズの婚約を渋々ながらに承諾した。


 モーガンが帰った後。この場に残った伯爵夫妻とルイーズ。

「お前、夜会で何かをホイットマン子爵家の男に話したのかい。そうでなければ、おかしいでしょう。どうして、お前なんかと結婚したがるのよ」


「わたしは何も言っていません。突然モーガンから話し掛けてきたんです」

 ルイーズは、そのときの光景を思い出し、嬉しそうに頬笑む。

 すぐにハッとした表情をした彼女は、何かに気付いたが、もう遅い。


 ……ルイーズが、まさかの恋愛結婚。目の前で幸せそうな顔をした。

 それが、伯爵夫人の感情をえぐったのだ。

 

「チッ、上手くやったものね。18になる前に家を出るなんて。今まで育ててもらった恩も感じずに、我が家にとって、少しも金にならない男の元に嫁ぐとは、――このあばずれ女っ!」


 そう言った継母の言葉と、バシンッと大きな音が部屋に響く。

 ルイーズは頬が赤くなるほど強く叩かれ、苦痛に満ちた顔をする。


 継母がルイーズの左頬を2回叩いたところで、やっと父が夫人の手を取って制止した。

 だが、遅すぎるだろうと、恨めしく思う。

 自分の左頬に手を当てると、ジンジンと鈍い痛みが残る頬。


 ルイーズは、引け目のある生い立ちのせいで、継母の暴力でさえ、何の抵抗もなく常に受け入れていた。


 カッッとしやすい継母は感情的になると、すぐに手が出たり、グラスの水を掛けたりするのが日常茶飯事。

 ルイーズは幼い頃から、夫人に当たり散らされていたせいで慣れている。

 そうは言っても、今回は過去最高の力が込められていた。


「さすがに手を上げるのは、よさないか? 顔が腫れたら、あのモーガンに何を言われるか分からんだろう」

 父が継母をなだめるも、夫人は、キィーッと力強く当主を睨みつけ、感情を抑える気は微塵もない。

 

 当主は夫人ににらまれて、すぐに夫人の手を離している。


 当主は既にだんまりを決め込んだ。そう、ルイーズには映っている。


 夫人の鋭い目つきは、ルイーズの方に再び向けられた。


「自分1人だけ幸せになる気で、忌々しい。どこまでも、あの泥棒猫の娘ね」

「いえ……」

「口答えを、お前に認めた覚えはないわよ。男ができたからって調子に乗って。お前の顔は見たくないわ。不用意に屋敷の中を歩いていたら、その不愉快な髪を切ってやる。娼館に売れないなら、あんたの見た目なんてどうでもいいわよ」


 その言葉にサァーッと血の気が引き、青ざめるルイーズ。


(娼館って、噂に聞くあの場所……。信じられない……、まさか、そんなところへ、わたしを売るつもりだったなんて。

 モーガンが、わたしを好きになってくれていなければ、そこに行く派目になっていたってこと!

 彼が好きかどうかは、よく分からないけど、きっと、これから好きになれるはずだもの。

 わたしにとって彼は恩人だわ)


 フォスター伯爵家の問題を、詳しく知らないモーガンは、ルイーズの部屋を頻繁に訪ねていた。

 ルイーズは、自分の空っぽの部屋を見ても何にも言わないモーガンは、本当に自分のことが好きなのだと信じ、嬉しくてたまらないのだ。

 ここ最近のルイーズは、少しずつ彼へ心を開き始めていた。


「ねえ、ルイーズは女性騎士になるといいんじゃない。この国では女性騎士は王妃や王女の警護のために配置されているから、貴族の娘しかなれないのに、騎士の訓練に参加希望者がいなくて、毎年困っているだろう」

 モーガンからの突拍子もない提案。

 全く予期せぬ話に、困惑の表情を見せる。


「う~ん、わたしにできるかしら……。わたし剣を握ったこともないのよ、ちょっと自信がないわ」


「大丈夫だよ。真面目で一生懸命なルイーズならできるよ。僕だって剣技は、ほとんど経験がないけど、父が騎士を勧めるくらいだ。あの訓練では1から教えてくれるんだろうさ」


 それを聞いて、ルイーズの気持ちは一変する。

「知らなかった! そうなのっ! 素人でも大丈夫なら期待が持てるわ。騎士の給金だったら2人で、余裕で暮らせるわよね。うん、わたし騎士を目指すわ」


 女性騎士と聞いても、考え込むように表情が晴れなかったルイーズ。

 だが、未経験者でも一縷の望みがあると知り、俄然やる気になった。


(騎士になればモーガンと2人で余裕のある暮らしもできるし、弟のアランに家庭教師を雇ってあげられるわ。わたしが屋敷を出ても、弟が困ることはないもの。なんか希望が見えてきた。令嬢たちの婚約者や両親が、訓練が危険だから嫌煙をするのに、わたしの場合は、そんなことはないのだから)


 モーガンが、ただ自分を好きになったと思っているルイーズは、嬉しそうに声を上げて笑っていた。



 その2人の楽しそうな声をルイーズの部屋の外で、聞き耳を立てた姉が聞いている。


(どうしてあのモーガンって男は、わたしには目もくれないで、ルイーズなんかを選んだの! あの女の何が良いのよ! あいつを娼館に売りつけたら、わたしに新しい宝石を買ってもらう約束だったのに。それなのに、楽しそうに笑いやがって……、このまま平穏に家を出られると思うのは、大間違いだわ)


 何かをたくらみ始める姉のミラベル。


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