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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第4章 祝福されるふたり

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4-8 大波乱の舞踏会⑤


「ふぅ〜、終わったわね」

 会場に流れる音楽が終わり、ルイーズが大きく息を吐けば、優しい笑顔を浮かべるエドワードから、頭をなでられた。


「ルイーズにしては、なかなか上出来だったな」


「まぁね。言ったでしょう。必要に迫られたら、ちゃんと出来るのよ、ふふっ」

 満足げに笑うルイーズ。2か月前から、アランの目を盗んで練習を始めたダンスも無事に終え、充足感で満たされている。


 そんな彼女を優しく見つめるエドワードの気分も、晴れやかそのもの。


「くくっ、おかしいな、騎士の訓練は最後まで酷かったけどな」

「それはおかしいわね。教える人が悪かったんじゃない?」

「はぁーっ、どっちも俺だろう」

「ふふっ、本当だわ」


 会場の中心で向かい合ったままの2人は、互いの顔を見ながら、噴き出して笑っている。



「さてとっ! これで帰っても文句は言われないだろう。じじぃに挨拶をして、さっさと帰るぞ」


「えっ。まっまっ待って。どどど、どうしよう。わたし、陛下と挨拶なんて……。そんなの、うまく出来ない。無理よ」


「大丈夫だ。じじぃも、父も、何も言ってこないから気にするな。……一番厄介なのは、むしろ別だ……。捕まるとまずい。何か言いだす前に逃げるぞ」


 真面目な顔で会場を見渡すエドワードは、遠くを見やり、口角が少し上がった。そして、今がチャンスとばかりに動きだした。


 ルイーズの様子を気にするエドワードは、彼女が引け腰であるのは承知しているが、早々に会場を立ち去るのを優先したい。

 そうして、気が(はや)る彼に連れられたルイーズは、会場を見渡せる壇上にいる陛下の元へ来た。


 もちろん、ここへ登ったのは初めてであり、陛下と宰相しかいない厳格な場所は、易々と踏み入れる場所でもない。


 楽観的なルイーズも、会場と隔離された、この場の空気におののき、緊張でガチガチである。


 身を隠して生きてきたルイーズは、社交界の挨拶なんて、真面にしたことがない。

 それが何段飛びにもなって、国王陛下へ挨拶するのだから、ルイーズの心臓はバクバクと大きな音を立てる。


 それに加え、こちらを見るレベッカ王女から、突き刺さる視線を感じるルイーズは、王女の威圧にも挟まれていた。

 エドワードとは別の意味で、会場から早く逃げ帰りたい。



 緊張とは無縁のエドワードは、平静そのものである。

「陛下、帰る前に挨拶に来ました」


 陛下は、エドワードはスペンサー侯爵家の嫡男として挨拶に来ているにもかかわらず、手袋をはめていないことに驚くと、彼を凝視した。


 だが、動じる様子のないエドワードは、そのまま陛下と軽く握手を交わす。

 すると、「まったく、もう……」と言いたげな顔のエドワードは、陛下が手を離さないように、強く握り返したのだ。


 ……少ししてから。

 エドワードは、握っていた手とは反対の手で、陛下の手の甲に2回合図を送ると、2人の交わした握手はとかれた。


 その様子を、エドワードの父である宰相も目の当たりにし、目を丸くし驚いた顔をする。

 


「婚約者を連れてきたので、紹介します」

「……ぁ」


 ルイーズは、緊張のあまり、どこで名乗れば良いのかタイミングを見失い、ぎこちなさに拍車をかけたカーテシーをしておいた。


 また、しかめ面をされるかもしれないと、ビクビクと顔を上げるルイーズだが、予想だにしない明るい声が返ってくる。


「おー、待っておったぞ。そう言えば、結婚式はいつになったんだ?」

「あー、もう自分の中では妻ですが、まぁ色々ありまして……。形式的には3か月後の結婚式と同時に正式な夫婦になる予定です。面倒な披露パーティーはしませんので陛下へ声を掛けることはないでしょう」


「そうか……。そうだ、私のむす」


「断る。あんたたち2人から、王女と踊れと言うのを聞く気はない。この会場にいる間は、王宮の仕事の時間だと思い、今、陛下の手を触れたからな。さっきのヒールもそういうことだ。もし、レベッカ王女に何か頼まれていたとしても、俺には関係のない話だ」

 語気を強めたエドワードは、早口で言い終えた。


「ははっ。気付いていたのか」


「当たり前だ。レベッカ王女が俺たちに文句を付けた直後に、じじぃのところへ向かっているのが見えたからな。俺はルイーズと結婚すると何度も伝えたのに、王女へ説明しなかったのはそっちだろう」


「レベッカが、怒るから面倒でな」


「そこを面倒がるなよ、国王のくせに」

 ぽかんと口を開け呆れているエドワード。その様子をルイーズは横目で見ているが、今の状況が上手く飲み込めずにいる。


 エドワードは『今後、自分には影響力はない』そう言ったレベッカ王女の申し出に、ルイーズをやきもきさせる程、困っていたはずだ。

 それなのに、陛下の前では、この態度である。一体何事なのかと、目が点になっている。


「最近、庶民からの礼状が増えたし、治療に金を取るなと要望もある。エドワード様は駄目だと言うが、救護室の規則を変えてもいいだろう。ルイーズ嬢もエドワードに、何か言ってくれないか」


 そう言った国王は、ルイーズを見ている。


「駄目だ。俺の知らないところで勝手にやっている分には良いが、救護室の規則は変えるなと言っているだろう、しつこいな」


「そこを何とか頼む、エドワード様」


「無理だ。それは他の2人が困るからな。俺らにも限界があるんだ。今だって金を払わない奴には手を抜かなきゃ、自分たちの体力が持たないんだろう。元々ある規則には理由があるんだ」

「いや、だがな。エドワード様は問題ないだろう。ルイーズ嬢なら分かってくれるはずだ」


「ルイーズ、返事をする必要はない。俺は救護室の規則を曲げる気は、一切ないからな。誰に頼まれようが、駄目なものは駄目だ。俺は、こんな話をしに来たんじゃない。帰る前に声を掛けに来ただけだからな、この後は飲み過ぎるなよ」


「そっれは一番困ったな」

「ったく、どうしようもないな。あとは知らん」


 最後に少々いら立ったものの、エドワードは、これで全ての用事を終えた。

 そうなれば、ルイーズを見て表情が緩む。

「よし、ルイーズ帰るぞ」

「あっ、うん」

 ルイーズは、静かにうなずいた。



 スペンサー侯爵家のエドワードが、婚約者と会場の中央で踊り、彼の婚約者が誰かを知らせ、国王陛下への正式な挨拶も、今しがた終えたのだから、もう文句はないだろう。

 そう思う彼の頭の中は既に、ルイーズと2人きりになることでいっぱいだ。



 だが、それを第3者に妨害されるとは、ここにいる者、全てが予想していなかった。



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