4-7 大波乱の舞踏会④
エドワードへ怪訝な顔を向けるレベッカ王女は、ルイーズをちらちらと見ながら口を開く。
「悪いけど、エドワードには不釣り合いに思えるわ。どうしてエドワードは彼女と婚約したの? 何か困っているなら力になるけど」
エドワードを「心配している」と伝えるために、とても穏やかな口調だ。
「俺が一方的にルイーズに惚れて、彼女と一緒にいたいだけですよ。ルイーズ以上に気が合う女性は他にいませんから」
「……なんか、エドワードらしくないわね……。今日のファーストダンスの楽曲が始まるわ、一緒に踊りましょう」
王女自ら、エドワードにエスコートを求める手を出した。
「申し訳ありません、王女。今日は、ルイーズとしか踊る気はないので遠慮いたします」
表情をピクリとも変えずに言い終えたエドワード。
だが王女は、エドワードから断られようが、少しも引く気はないようだ。
エドワードの婚約者はレベッカ王女だと目されていた。
……にもかかわらず、蓋を開ければ全くの別人で、どこの誰かも分からない令嬢だった。
今も会場中で、その話題で盛り上がっている。
王女のわたしが笑い者?
……そう思う王女は、エドワードに何か言われても、簡単に折れる気はなく、強引にでも連れ出すつもりだ。
何年も思わせぶりに自分とだけ踊っていたエドワードが、突然浮上した伯爵令嬢へ、一方的に好意を寄せるのは納得がいかない。
自分は、1年前にエドワードと結婚の話をした上、今日まで返答を聞かされていないのだから。
王女のプライドが今の状況を許せず、2人の結婚に黒い噂をたてる気なのだ。
舞踏会のファーストダンスを踊るのは相思相愛のレベッカ王女で、婚約者のルイーズではない。
なぜなら、この婚約は何か裏があり、王女とエドワードの関係は、ルイーズの企てによって引き裂かれた。
そんな印象を会場中に与えたい狙いがある。
エドワードにしがみつくルイーズへ、いら立ちを隠せない王女。
エドワードからルイーズを引き離そうと、鋭く睨みつけ、詰め寄ってきた。
「エドワードはこう言っているけど、別にあなたは構わないでしょう。エドワードが一方的にあなたが好きって、どういうことかしら? 彼に何をしたのか知らないけど、エドワードを借りるわよ」
王女はエドワードの腕を、ルイーズから無理やり、引きはがそうとする。
「いや、駄目です! 今日はエドワードにそんな予定はないのでお断りします。エドワード、違うところへ行こう」
それ以上王女に絡まれないようにと、ルイーズは彼の手を引っ張り、その場から退散した。
少しすると、エドワードは、けらけらと笑いだした。彼は内心腹を抱えている。
王族相手に正々堂々と喧嘩を売ったルイーズが、おかしくてたまらないのだ。
自分でさえ、侯爵家の息子でいるときは、角を立てないよう気を遣っている。
今も、言葉を選びながらレベッカ王女を説得するつもりだった。
こういう事態もあり得るだろうと、馬車の中で、あれほど何も喋るなと釘を刺したにもかかわらず、王女相手に言い放ったのだから。
自分を笑うエドワードに、ルイーズは嫌な予感がした。
「ねぇ、わたし何かまずいことをしちゃったかしら?」
「俺は問題ない。これからどこかへ嫁ぐ王女の力なんぞ、ご夫人とご令嬢たちへの影響くらいだろう。ルイーズが今後、茶会や夜会で王女の派閥から虐められる、それだけだ。くくっ」
それを聞いて、大事をやらかしたことが分りルイーズは青くなる。
自分は手袋を持ってきていないエドワードを守っただけなのに、とんだ失敗だ。
「えー、エドワードは良くても、わたしには大問題じゃない」
しゅんとするルイーズの横で、エドワードは遠くにいる国王陛下へ視線を向け、渋い顔をする。
「じゃあ、不満は直接陛下へ言えばいい。あのじじぃが、レベッカ王女に説明をしていなかったんだろう。今の曲の後に一曲踊ってから文句を言いに、じじぃの元へ行くぞ。隣に父もいるし丁度いいだろう」
ルイーズは衝撃を受け、泣きそうな顔でエドワードを見つめる。
(ちょっと待ってよ……。どうしてエドワードから出てくる人物たちは、大物ばかりなのよ。
しかも陛下を、「じじぃ」って呼んでいたわよね、エドワードと陛下って、どういう関係なの……。
わたし、本当にとんでもない人と一緒にいるんじゃない……)
舞踏会の会場に流れる音楽は、ルイーズが踊ろうとしたときから、テンポの速い曲調に変わっていた。
ルイーズは至って楽し気に踊っているけれど、その様子をエドワードに笑われている。
「わたし、知らないうちに踊れているわね。もしかして、アランの練習を見ているだけで、素敵な令嬢は踊れるようになるのかしら」
決してルイーズの踊りがうまくなったわけではない。それを、自信ありげに話している。
本当のところは、頻回に足がもつれて転びそうなのを、エドワードに支えられているだけだ。
「っなわけあるか! 足がドレスで隠れて出鱈目なステップが見えないだけで、俺にはバレバレだぞ。よく、そんなあほみたいなことが言えるな」
「違うわ、これは前向きって言うのよ。一度意識し始めたら、ますます分からなくなるでしょう。初心者が、こんな早いテンポで踊れるわけないのに、どうして今なのよ。誰も踊っていないでしょう」
「だからだよ。目立って丁度いいからな」
音楽が早くなったことで、踊るのを諦めた参加者が多い。だが2人は、楽し気に会話をしながら、悠々と会場の中央で踊っていた。
おかげ参加者の視線が自然と、ルイーズとエドワードへ集まっている。
エドワードの狙いは、ここまで順調に進んでいた。
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