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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第4章 祝福されるふたり

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4-5 大波乱の舞踏会②

 騒々しいミラベルが立ち去ると、ルイーズの部屋は一気に静まり返った。


「王女様と……エドワード」


(エドワードは、王女様からの結婚の申し出を断っていると言っていたけど、本当は違ったのかな……。そういえば、わたしの好きなところは、あほなところだったわよね……。うーん、どう考えても、胸を張って自慢できないでしょう。そう考えると、わたしって、エドワードに何ができるんだろう)


 姉から嘲笑(あざわら)われ、うつむきかけたルイーズだったが、その瞳に、ドレスの眩しい黄色が映る。


(まあ、いいっかぁ。こんなに綺麗(きれい)なドレスを着て、落ち込んでいる場合じゃないものね。だって、エドワードは、いつも楽しそうだし。わたしが婚外子であることも気にしていないんだから、今更エドワードが、かわいそうなんてことはないわよね)


 ルイーズは、自分の姿を確認しようと、クローゼットの扉の裏に貼られた鏡の前で、全身を余念なく見ている。

 以前の自分とは、まるで別人のような姿が鏡に映る。

 十分な食事にありつけたおかげで、以前より健康的で肌艶も良くなり、美しくまとまるほど髪だって潤いがある。


 その自分の姿に自然と自信がみなぎり、もう少しでエドワードに会えると思えば、笑えてきた。


「ふふっ、エドワードが早く来ないかしら」



 鏡の前のルイーズは、左右交互に体をひねり、その度にスカートがふわっと広がるのを、楽しげに見ていた。

 だが、そのときだ。


「ルイーズ! エドワード様が迎えにきたわよ」


 ルイーズの想定外の人物から突然呼びかけられ、体をビクつかせた。


 青いドレスを両手で抱えたミラベルは、部屋の扉を閉めずに立ち去っていたのだが、開けたままの部屋の入り口に、ルイーズの様子を(うかが)うように見る継母がいたのだ。


「えっ、お継母様がわざわざ声を掛けに来てくれたのですか!」

 自分のために動くわけのない継母がいることに驚くルイーズは、笑顔から瞬時に真顔へと変わった。


「あら、おかしいかしら」

「いいえ、そんなことはありません」

 そう言ったものの、床を見ながら返答するルイーズの態度が「おかしいに決まっている」と、本音を語っていた。


「ミラベルにドレスを貸してくれたんですって」

「いえ、あのドレスは貸す気はありませんから持っていきます。そうしないと、エドワードが怒ると思いますので」


「無理よ。今、メイドたちがドレスの丈を調整しているもの。そんなのを持っていくわけにはいかないでしょう。明日、取りに来なさい、それまでには元に戻しておくから」


「そんな、勝手に……。では、そうしますが、あれをお姉様が着るのは、お願いですからお止めください」


「ふんっ。お前だけに独り占めはさせないから」

「それはどういう意味ですか?」


「ふふっ、別に。ほら、早くしないとエドワード様がお待ちかねよ」


 継母の前から早く立ち去りたいルイーズ。そう言われてしまえば、一刻も早くエドワードの元へ向かいたい。


「承知しました。あのドレスは明日取りに来ます」

 そう言い残して、継母の横をすり抜けると、ルイーズはエドワードの元へ駆けて行った。


 金を運ぶ小間使いが、侯爵家に上がり込む日を心待ちにしていた継母は、そんなルイーズの背中を、冷酷な目で見ている。

 エドワードに家庭教師まで雇わせたのだ。

 ルイーズが渋れば、アランを持ち出し脅せばいいだろうと、継母の計画には余念がない。



***


「エドワード。見て、見て、見て!」

 大はしゃぎをしているルイーズを見て、感慨深げのエドワードの顔がほころぶ。


「想像以上に綺麗になっているな」

 そう言われてしまえば、その場でクルッと回って、もっと見てのアピールをするルイーズは、高級品だと言われたことも、すっかり忘れて浮かれている。



「ほらね、わたしだって、まんざらでもなかったのよ。おっとっと」

 ルイーズにとっては、初めて履くピンヒール。石畳の隙間にヒールの先端がはまり、即行で転びかけた。


「危ないな、何やってるんだよ」

 よろつくルイーズは、出足早々にエドワードから両肩を掴まれている。


「こんなに綺麗なドレスを着て、わたしだって素敵な令嬢になれた気がしたんだもん、うれしくてつい」


「くくっ、ルイーズは素材で勝負しているんじゃなかったのか? それならついでに、この石ころも着けてやるよ、誕生日だしな」


 そう言ったエドワードから、たくさんのダイヤがちりばめられたネックレスを着けられた。

 だが、宝飾店でその値段に驚愕したルイーズは、素直に受け取って良いのか困惑の色を見せる。


「エドワード、これ……、こんな高そうなもの」

「前に言っただろう。要らないとか高いとか、俺がセコいと思われるから言うなって。ほら、耳にも着けといてやる」

「ふふふ、くすぐったいわ~」


 ルイーズにイヤリングを着けようとしたエドワードの手が、彼女の耳に触れる。

 すると、それにドキッとしたルイーズは、首をすくめている。


「こらっ。こんなの触ったことがないから、よく分からないんだ。ルイーズは動くな」


「ふふふっ、わたしだって着けたことも、誰かに着けてもらったこともないわ」

「初めてだと言われると、なんかうれしいな」


 ルイーズはあまり興味はないだろう。そう思いながらも用意した装飾品。

 だが思っていた以上に、喜ぶルイーズを見て、エドワードは満足げだ。


「すごい! 耳で揺れてかわいいわ。もしかして、わたしも、キラキラしているんじゃないかしら?」


「ああ、元からかわいかったけど、今日は、もっとかわいく見える」


「本当! 『さっぱり分からん』って言われたら、どうしようかと思ったけど、良かったぁ」


 くすくすと笑うルイーズは、エドワードと楽しそうに馬車へ乗り込んだ。



「そうだ。驚いたわよ、いっぺんにドレスが2着も届くと思っていなかったもの。あんな短時間で、ぽんぽんっと買うものじゃないでしょう。店主だって驚いていたわよ」

 ルイーズは、エドワードを揶揄(からか)うような話しぶりをしている。


「あ……、すっかり忘れていた。万が一、俺が着るのに必要だと思い、青いのも頼んでいたんだ……。もしかして伯爵家に置いてきたのか……」


「ごめんなさい。明日、ちゃんと持ってくるから」


「……。悪い、あれは何も考えずに適当に頼んだから、申し訳なくてルイーズには着させられない。でも放ってもおけないものだから、俺が取りに行く」


「いえ、ちゃんと持って来なかった、わたしが悪いから」

 声の調子が下がるルイーズは、姉のことを自分でなんとかする気でいる。


「別に気にするな。そうだ、あの女店主から、いっぺんに2着も欲しがる欲張りだと言われなかったか?」


 店主の言葉を思い起こしていたルイーズ。自分の人差し指で、自分の顔を指さし、変な顔をしている。


「待って! アレって、全部わたしが1人で勝手に買ったと思われていたからなの……。ひっどーい、違うでしょう!」


「くくっ、そうだな。ルイーズはお茶を飲んでボケッとしてただけだろう」


「もっと他に言い方があるでしょう、……」

「いや、無いな。何してたんだ?」

「お茶をおいしく飲んでただけよ」

 顔を見合わせて笑うエドワードとルイーズ。

 

 もう誰も入る余地のない、2人の関係。


 そんな2人を知らない周囲の人間たちが、大混乱を招きそうな気配。


 それは、2人きりの楽しげな馬車の中で、すっかり置き去りにされていた。




 その少し前のこと。

 ルイーズとエドワードの姿を、伯爵家から見ている者たちがいた。


 エドワードは、淑女のかけらもないルイーズの行動に不愉快な感情を露わにしたにもかかわらず、屋敷の前で貢ぎ物を差し出した。


 それを窓から悔しそうな顔で見ている姉と、したり顔で見ている継母。


(あの子でエドワード様を落とせたんだもの、わたしだって着飾れば、侯爵家以上の相手が見つかるわよ)



 2人が出発した後、姉のミラベルは、ルイーズから奪うように借りたドレスと、以前、ルイーズのために届いた宝石を身に着けて舞踏会へ向かった。


 姉の馬車に伯爵家の当主が同乗していれば、違ったのかもしれない……。


 例年の習慣で、伯爵家は今日も、二手に分かれて舞踏会へ向かってしまったのだ。



 買ったドレスの存在を忘れるようなエドワードが、以前、姉によって持ち去られた宝飾品の行方を放っておけなかった理由。


 それは、ルイーズを心配したエドワードが、スペンサー侯爵家の家紋を彫ったからだ。一見すると、美しいただの模様にしか見えない家紋。


 侯爵家から相手にされていない伯爵家の娘が、彼らの家紋が見える距離へ近づくこともないのだ。


 姉はそんなこととは全く気付いておらず、舞踏会の華になるべく、着飾った自分にうっとりしていた。





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