4-2 ルイーズとエドワードの婚約②
エドワードが去ってから、エントランスに残る伯爵夫妻とルイーズの3人。
強い者に巻かれるルイーズの父親は、スペンサー侯爵家に顔を立てるため、慌てて厨房へ走った。
エドワードが婚約者に望んでいるルイーズが、屋敷の中でいじめられていると知られては、大問題だと計算を始め、伯爵夫人が何を言おうと、ルイーズの食事は自分たちと同じにするよう命令しに動きだした。
そうなれば、ルイーズは継母と2人きりになってしまった。
にやにやと笑う継母が何を考えているのか分からず、一刻も早く立ち去りたいが、継母がルイーズの目の前に立ちふさがり、そうもいかない。
「ルイーズ……。お前、今日は本当にエドワード様と一緒にいただけなのかしら?」
「はい、ずっと彼と2人でしたが。……えっと、この指輪を買って貰うのに、時間が掛かってしまったので」
「エドワード様のことで隠していることはないかしら」
「あっ。いえ、とっ特に何もありません」
彼と2人だけの秘密なら、心当たりがいくつもあるルイーズは、落ち着かない目で周りをきょろきょろ見始めた。
「ふふっ。以前、どうしてお前に貢ぎ物のような贈りものが届いたのか、不思議だったけど、そう言うことなのね。さすが泥棒猫の女の娘、うまいことやるわね」
その継母の言葉に、ぽかんと固まるルイーズ。
自分の思考と継母の話が、かみ合っていない気がしたルイーズは、真顔でゆっくりと聞き返した。
「あのー、意味がわからないのですか」
「白々しいわね。お前がこの家で育ててもらった恩を忘れるんじゃないわよ。1人だけ、良い思いをするのは、私が許す訳ないでしょう。あははっ」
継母は高笑いをしながら、女主人の部屋へ戻っていった。
(ど、どういうこと。エドワードとわたしが入れ替わったのを、気付いていたってことなの? エドワードに何か言った方がいいのかしら……。いや駄目ね。これは屋敷の中の話だし、エドワードも何だか大変なんだもの。頼ってばかりはいられないわね)
エドワードからもらった指輪が、ルイーズの指でキラキラと輝き、存在感を主張するようになって数日。
ルイーズに会えるのを心待ちにするエドワードが、伯爵家を訪ねていた。
ルイーズを送り届けた日。伯爵夫人が見せた違和感から、夫人は、自分の正体に疑念があるとエドワードは思っている。
そうであれば、「自分に直接物申せ」と挑む気でいるエドワードは、当主ではなく、伯爵夫人を見ながら話を始めた。
「ルイーズとは、すぐにでも結婚したいと思っている。できれば、次の舞踏会の後に、そのまま我が家へ迎え入れ、正式な婚姻の前から侯爵家に慣れてもらうつもりだ」
「エドワード殿がルイーズにそこまで入れ込んでいるとは思ってもいませんでしたが、我が家の資金では、ルイーズに持たせる土地はおろか、嫁入り道具は少しも準備ができませんでして……」
当主は、遠慮がちに口を開く。
「スペンサー侯爵家の当主は、何も望んでいないから問題のない話だ。確かに一等地を持参すると申し出た者もいたが、それよりも、ルイーズが良いと俺は判断したんだ」
「えっ⁉」
何が起きればエドワードが、この家のルイーズなんかを選ぶのか理解できない当主は、自分の耳を疑った。
だが継母は、エドワードがルイーズに弱みを握られたせいだろうと、さらりと納得すると、無意識ながら、微かにうなずくように頭を動かした。
「俺が彼女を迎えに来るまで、よろしく頼む」
そう言ったエドワードは、深々と頭を下げる。
ルイーズの父は、目を丸くして驚くしかなかったが、あの日、すぐに厨房へ走って良かったと胸をなでおろす。
その反面、笑いをこらえるのに必死な継母の口元は、固く力が入っていた。
「……本当に我が家の娘でよろしいのですか」
「俺は彼女に弱いんだ。あー、それとだが、アランに家庭教師を雇っておいたので、明日から来るだろう」
「そ、そこまで……どうして」
驚きのあまり、のけ反る当主は、ソファーから転げ落ちそうなほど、ずり落ちていた。
「ルイーズがアランを心配して、我が家へ来られないと、また言われては、俺が困るからな。悪いが勝手に手配した」
口元をつり上げる継母は、笑い転げそうになるのを必死にこらえている。
(あの娘、まさか売るより高くなるとはね。彼が隠している秘密でルイーズを脅せば、侯爵家のお金を、我が家へ運んでもらえるじゃない。こうなったら、ミラベルの結婚資金をしっかり、持ってきてもらうわよ)
(この継母、気味の悪い笑いを浮かべやがって。どうせ碌なことを考えていないんだろうが、まあ、なんとかなるか)
「ルイーズが我が儘を言ったようで、申し訳ありません。後で言って聞かせます」
「その必要はない、それは俺の我が儘だからな。舞踏会の日、ルイーズを迎えにくるが、彼女はもうこちらに帰ってこないので、そのつもりでいてくれ。それと、今からルイーズに会っていきたいが、彼女は部屋にいるか?」
「はい、部屋におります」
「承知した。勝手に向かわせてもらう」
待ち切れず、言葉よりも先に体が動いているエドワード。彼は、ルイーズとの約束のリンゴを抱えて既に歩いていた。
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