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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第3章 離れたふたり

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3-15 変わらないふたり

3章の最終話となります。

次章は4章「祝福されるふたり」です。

最終話までよろしくお願いします。

 2人が見つめ合っている、そのときだった。


 エドワードの部屋へ入室を求める音が響いた。

 彼は時計を見ると、施錠した鍵を開けるために、入り口へ向かった。


 訪問者は鍵が開いたのが分かると、腰を低くしながら入ってきた。


「相変わらず、時間に正確だな」

 入室を許可したエドワードは、入ってきた人物へ「来るのが分かっていた」という顔を向け、至って冷静に招き入れる。


 けれど、入ってきた宰相はルイーズの姿を見るなり血相を変えて、駆け寄った。


「どうやって入ってきたっ! エドワード様、申し訳ありません。すぐに侵入者を警備へ突き出しますので」


「やめろ! ルイーズに触るなよ。彼女は俺がここへ連れてきたんだ。1度振られたのを、今、やっと口説き落としたんだ。ったく水を差すな」


「……はっ? 振られた? 口説いたって……」


「まあ、そういうわけだから、俺、ルイーズと早々に結婚するつもりだ」


 呆然(ぼうぜん)と突っ立っている宰相は、返す言葉が出てこないようだ。

 少しして正気に戻ったのか、首を左右に振ると眉間にしわを寄せた。


「どうして。そんな令嬢より、他にもっと良い相手が……」


 エドワードが宰相をギロッとにらむと、まずいことを口走ったと察した宰相は、両手を口に当て後ずさり、それ以上、話を続けることはない。


「俺にとってはルイーズが特別で、一緒にいるのは、彼女しか考えられないからな。宰相は、何か余計なことを言いかけていなかったか? 俺を侮辱した気がするが、それ以上何か言えば警備へ突き出すぞ」


「気のせいです……」


「それならいいが、スペンサー侯爵家の当主がルイーズを気に入らないと言うなら、俺はあの家を出て好きに暮らす。早めに適任の後継者を探しておいた方がいいだろう」

「いや、私は何も言うことはないが、あちらは、どんな反応をするか」


「まあ、なんとかするさ。それと、今日はルイーズと2人で食事にするから、ビリング侯爵にそう伝えて欲しい」


 その親子の会話を、ぽかんと口を開けて見ていたルイーズは、何が何だか分かっていない。


 ルイーズが怪我をした日の朝。

 訓練へ向かう直前に、エドワードの父から向けられた視線は強烈なものだった。

 それは、相当不満があるような気配を漂わせ、怒鳴りつけられそうな鋭い顔をしてた。


 あの日、何かを言われる気がして、ルイーズは逃げるように屋敷を飛び出したのだから。


 それなのに今は、当主に向かって啖呵(たんか)を切っているエドワードの姿と、何故か、それに言い返すことのない宰相の様子に、ルイーズは呆気(あっけ)に取られ、目をしばたかせる。



 そんな放心状態のルイーズの動揺は置き去りにして、宰相は、ぺこぺことルイーズに礼をしながら立ち去ったのだ。


「一体、何がどうなっているの? さっぱり分からないわ……」


「最近俺が仕事をしていなかったから、いちいち確認に来ているだけだ。あの1週間、サボッてルイーズと遊びほうけていたと思われているからな。煩くてかなわない。寄ってたかって俺をこき使うことしか考えていないから、俺がここに居なければ、父が動いて探す気でいるんだろう」


「いやいや、聞きたいことは違うわよ。お父様にあんな偉そうに話をするなんて、あり得ないでしょう」


「この部屋にいるときの俺はヒーラーだからな、まあ、いつものことだ。当主として俺に何か文句を言いたいなら、屋敷へ帰ってから言ってくるだろうさ」


 それから少しして、パトリシアの父のビリング侯爵が、2人の食事を運んできた。

 この救護室を管理しているビリング侯爵は、毎日エドワードと対面しているけれど、パトリシアに関する頼みごとを彼に直接言ってくることはない。

 いつだってエドワードの父を通して頼み込んでいるのだ。


 ハッとするエドワードは、思い出したようにビリング侯爵の顔をのぞきこむ。


「娘のことを俺の父へ頼むなよ。俺にはルイーズがいるから話にならないからなっ!」

 それを聞き、ビリング侯爵はゴクリと唾を飲んだ。


「ははっ、そのようですね。スペンサー侯爵夫人でさえエドワード様のことを知らないのに、まさか、ここに女性を連れてくるとは、全くの予想外でした。そのように言われなくても意味は理解しております」


 早口でそれを言い終えると、ビリング侯爵は、エドワードに深々と礼をして部屋を後にした。


「ねぇ、どうしてあんなにビクビクしているの? さっきのお父様もだけど」


「有名な話だと思うが、ルイーズは知らないのか? ヒーラーの身を守るために、俺たちは特別な権限があるからな。もちろん、そんな権限を使う気はないが、俺が警備へ突き出せば、斬首刑と決まっているんだ。どうせ、やましいことを2人でしているんだろうさ」


「そうなのね」

 そんな話は当然知らないルイーズだが、あまり気にしていない様子だ。それよりも、目の前の昼食を見て青ざめている。


「エッ、エドワード! 私、バチが当たらないかしら。誕生日でもないのに王宮の祝い膳が食べられるわ」


「くくっ、何だそれ。相変わらずズレたことを言ってるな。どうせ、また碌に食べていなかったんだろう。バチは当たらないから食べるぞ」


 宝飾店では、げんなりしていたルイーズが、目をキラキラ輝かせている姿を見て、エドワードは、くすくすと笑っている。


「俺はこの後に仕事があるが、終わったらルイーズを伯爵家まで送って当主と話をする。1人で帰すわけにはいかないから、勝手に帰るなよ。何より、この部屋を出て1人で廊下にいるのが見つかれば、不審者として捕まるからな」


 はむはむと食事に夢中のルイーズは、うなずいて返事をしていた。

 が、それを飲み込んだ彼女は、部屋に掛けてある外套(がいとう)に目が留まり、気になって問い掛けてみた。


「分かったわ、ちゃんと待っているわよ。そういえば、どうしてヒーラー様はみんな素性を隠しているの?」


「そんなのがバレたら、まともに暮らせなくなるからだ。高額な治療費を理由に門前払いをしているこの王宮でさえ、毎日、大勢の一般人が情を訴えて治療を求めてくるからな。素性を知られれば、屋敷まで来るのが現れるだろう。まあ俺の場合は、侯爵家の肩書もあるから庶民は押し寄せないだろうし、父を脅してまで俺を従わせるやつはいないだろうけど」


「そっかぁ~。エドワードも色々大変なのね」

 軽くウンウンとうなずいて、あっけらかんと話すルイーズ。

 その姿を見たエドワードは、まずい、何も分かっていないと焦りを募らす。


「……他人事のように言っているが、俺と一緒になればルイーズも巻き込まれる話だからな。いいか、あの扉からは絶対に入ってくるなよ」

 入り口と反対側にある扉を、エドワードは指さした。


 実際は扉を開けても、さらにもう1部屋、(つなぎ)ぎの空間があるのだが。

 ……けれど、先日その場所にモーガンが入り込んでいたのだ。


「大丈夫、わたし部屋にこもるのは得意だから大人しくしているわ」

「くくっ、そこ、自慢するところか?」

「そうよ、数少ない特技の1つだもの。こんな日のために極めていたのね」


 以前のままのルイーズの反応。それを見たエドワードは、胸の中が温かくなり、うれしそうにルイーズをじっと見つめている。


「ルイーズが、ルイーズのままで良かった」

 そう小声で、つぶやいた。


「うん? 何か言ったかしら」

「さあな」

「さては、わたしの悪口でしょう」

「悪口ではないが、あほだな、って思っただけだ」

「はぁーっ。それって、悪口以外ないでしょう」

「くくっ、俺は、そんなルイーズが好きなんだよ」


 楽し気なふたりの会話も、食事の終わりと共に終りをむかえ、エドワードはルイーズの額に軽いキスを落とし、部屋を後にした。

 

 

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