3-15 変わらないふたり
3章の最終話となります。
次章は4章「祝福されるふたり」です。
最終話までよろしくお願いします。
2人が見つめ合っている、そのときだった。
エドワードの部屋へ入室を求める音が響いた。
彼は時計を見ると、施錠した鍵を開けるために、入り口へ向かった。
訪問者は鍵が開いたのが分かると、腰を低くしながら入ってきた。
「相変わらず、時間に正確だな」
入室を許可したエドワードは、入ってきた人物へ「来るのが分かっていた」という顔を向け、至って冷静に招き入れる。
けれど、入ってきた宰相はルイーズの姿を見るなり血相を変えて、駆け寄った。
「どうやって入ってきたっ! エドワード様、申し訳ありません。すぐに侵入者を警備へ突き出しますので」
「やめろ! ルイーズに触るなよ。彼女は俺がここへ連れてきたんだ。1度振られたのを、今、やっと口説き落としたんだ。ったく水を差すな」
「……はっ? 振られた? 口説いたって……」
「まあ、そういうわけだから、俺、ルイーズと早々に結婚するつもりだ」
呆然と突っ立っている宰相は、返す言葉が出てこないようだ。
少しして正気に戻ったのか、首を左右に振ると眉間にしわを寄せた。
「どうして。そんな令嬢より、他にもっと良い相手が……」
エドワードが宰相をギロッとにらむと、まずいことを口走ったと察した宰相は、両手を口に当て後ずさり、それ以上、話を続けることはない。
「俺にとってはルイーズが特別で、一緒にいるのは、彼女しか考えられないからな。宰相は、何か余計なことを言いかけていなかったか? 俺を侮辱した気がするが、それ以上何か言えば警備へ突き出すぞ」
「気のせいです……」
「それならいいが、スペンサー侯爵家の当主がルイーズを気に入らないと言うなら、俺はあの家を出て好きに暮らす。早めに適任の後継者を探しておいた方がいいだろう」
「いや、私は何も言うことはないが、あちらは、どんな反応をするか」
「まあ、なんとかするさ。それと、今日はルイーズと2人で食事にするから、ビリング侯爵にそう伝えて欲しい」
その親子の会話を、ぽかんと口を開けて見ていたルイーズは、何が何だか分かっていない。
ルイーズが怪我をした日の朝。
訓練へ向かう直前に、エドワードの父から向けられた視線は強烈なものだった。
それは、相当不満があるような気配を漂わせ、怒鳴りつけられそうな鋭い顔をしてた。
あの日、何かを言われる気がして、ルイーズは逃げるように屋敷を飛び出したのだから。
それなのに今は、当主に向かって啖呵を切っているエドワードの姿と、何故か、それに言い返すことのない宰相の様子に、ルイーズは呆気に取られ、目をしばたかせる。
そんな放心状態のルイーズの動揺は置き去りにして、宰相は、ぺこぺことルイーズに礼をしながら立ち去ったのだ。
「一体、何がどうなっているの? さっぱり分からないわ……」
「最近俺が仕事をしていなかったから、いちいち確認に来ているだけだ。あの1週間、サボッてルイーズと遊びほうけていたと思われているからな。煩くてかなわない。寄ってたかって俺をこき使うことしか考えていないから、俺がここに居なければ、父が動いて探す気でいるんだろう」
「いやいや、聞きたいことは違うわよ。お父様にあんな偉そうに話をするなんて、あり得ないでしょう」
「この部屋にいるときの俺はヒーラーだからな、まあ、いつものことだ。当主として俺に何か文句を言いたいなら、屋敷へ帰ってから言ってくるだろうさ」
それから少しして、パトリシアの父のビリング侯爵が、2人の食事を運んできた。
この救護室を管理しているビリング侯爵は、毎日エドワードと対面しているけれど、パトリシアに関する頼みごとを彼に直接言ってくることはない。
いつだってエドワードの父を通して頼み込んでいるのだ。
ハッとするエドワードは、思い出したようにビリング侯爵の顔をのぞきこむ。
「娘のことを俺の父へ頼むなよ。俺にはルイーズがいるから話にならないからなっ!」
それを聞き、ビリング侯爵はゴクリと唾を飲んだ。
「ははっ、そのようですね。スペンサー侯爵夫人でさえエドワード様のことを知らないのに、まさか、ここに女性を連れてくるとは、全くの予想外でした。そのように言われなくても意味は理解しております」
早口でそれを言い終えると、ビリング侯爵は、エドワードに深々と礼をして部屋を後にした。
「ねぇ、どうしてあんなにビクビクしているの? さっきのお父様もだけど」
「有名な話だと思うが、ルイーズは知らないのか? ヒーラーの身を守るために、俺たちは特別な権限があるからな。もちろん、そんな権限を使う気はないが、俺が警備へ突き出せば、斬首刑と決まっているんだ。どうせ、やましいことを2人でしているんだろうさ」
「そうなのね」
そんな話は当然知らないルイーズだが、あまり気にしていない様子だ。それよりも、目の前の昼食を見て青ざめている。
「エッ、エドワード! 私、バチが当たらないかしら。誕生日でもないのに王宮の祝い膳が食べられるわ」
「くくっ、何だそれ。相変わらずズレたことを言ってるな。どうせ、また碌に食べていなかったんだろう。バチは当たらないから食べるぞ」
宝飾店では、げんなりしていたルイーズが、目をキラキラ輝かせている姿を見て、エドワードは、くすくすと笑っている。
「俺はこの後に仕事があるが、終わったらルイーズを伯爵家まで送って当主と話をする。1人で帰すわけにはいかないから、勝手に帰るなよ。何より、この部屋を出て1人で廊下にいるのが見つかれば、不審者として捕まるからな」
はむはむと食事に夢中のルイーズは、うなずいて返事をしていた。
が、それを飲み込んだ彼女は、部屋に掛けてある外套に目が留まり、気になって問い掛けてみた。
「分かったわ、ちゃんと待っているわよ。そういえば、どうしてヒーラー様はみんな素性を隠しているの?」
「そんなのがバレたら、まともに暮らせなくなるからだ。高額な治療費を理由に門前払いをしているこの王宮でさえ、毎日、大勢の一般人が情を訴えて治療を求めてくるからな。素性を知られれば、屋敷まで来るのが現れるだろう。まあ俺の場合は、侯爵家の肩書もあるから庶民は押し寄せないだろうし、父を脅してまで俺を従わせるやつはいないだろうけど」
「そっかぁ~。エドワードも色々大変なのね」
軽くウンウンとうなずいて、あっけらかんと話すルイーズ。
その姿を見たエドワードは、まずい、何も分かっていないと焦りを募らす。
「……他人事のように言っているが、俺と一緒になればルイーズも巻き込まれる話だからな。いいか、あの扉からは絶対に入ってくるなよ」
入り口と反対側にある扉を、エドワードは指さした。
実際は扉を開けても、さらにもう1部屋、繋ぎの空間があるのだが。
……けれど、先日その場所にモーガンが入り込んでいたのだ。
「大丈夫、わたし部屋にこもるのは得意だから大人しくしているわ」
「くくっ、そこ、自慢するところか?」
「そうよ、数少ない特技の1つだもの。こんな日のために極めていたのね」
以前のままのルイーズの反応。それを見たエドワードは、胸の中が温かくなり、うれしそうにルイーズをじっと見つめている。
「ルイーズが、ルイーズのままで良かった」
そう小声で、つぶやいた。
「うん? 何か言ったかしら」
「さあな」
「さては、わたしの悪口でしょう」
「悪口ではないが、あほだな、って思っただけだ」
「はぁーっ。それって、悪口以外ないでしょう」
「くくっ、俺は、そんなルイーズが好きなんだよ」
楽し気なふたりの会話も、食事の終わりと共に終りをむかえ、エドワードはルイーズの額に軽いキスを落とし、部屋を後にした。
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