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0-5 17歳の舞踏会②

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とても嬉しいです。

 エドワードは、第1王女のレベッカと踊る前に、15歳の第3王女、16歳の第2王女とダンスを済ませ、陛下の命令の3分の2を遂行した。

 エドワードは、それでもまだ1人残っていると、いら立ちを覚える。

 そのせいで、もうすっかりダンスから逃げ腰。作り笑いをする気力を失い、表情がさえない。


 疲労の色が濃い彼の顔を見て、レベッカが頬笑みを向ける。


「15歳で成人。とは言っても、あの子たちは子どもっぽいから、エドワードが相手をするのは大変だったでしょう」

 そう言うレベッカは18歳、エドワードは23歳だ。


「いや、そんなことはありませんが……、堅苦しいダンスが少々苦手でして」

「まあ、それならわたしとだけ踊りたいと、父へ伝えれば良かったのに。わたしだって、エドワードなら大歓迎よ」

「ははは、ありがたいお言葉です……」


 エドワードの本心を知らないレベッカ王女。彼は自分に気があると、盛大な勘違いをしている。

 控え目な彼が「自分への婚約の申し出を、ためらっている」、そう思い込んでいた。

 これまでの舞踏会。エドワードがダンスを踊っていたのは、第1王女の自分だけと知っていたのだ。


 レベッカ王女とだけ踊っていた本当の理由。

 それは、エドワードは陛下とスペンサー侯爵家の当主から「第1王女とのダンス」を命じられ、その気もないのに声を掛ける羽目になっていただけ。

 けれど、その事情を王女は知らない。


 エドワードの本音は、「王女と話すのもめんどくさい」といったところ。


 王女からすると、エドワードは自分にダンスを申し込み、1曲踊った後は他の誰とも踊らないのだ。

 そのエドワードの姿勢にレベッカ王女は、ほくそ笑んでいた。


 端正な顔立ちのエドワードは、数多(あまた)の令嬢たちからダンスの申し出を受けているが、それを全て断る。

 それほどまで、エドワードが自分を立てていることに快くしていた。


 そして、いつまでも煮え切らないエドワードとの結婚を後押しするため、自分から積極的なアピールを始めてきたのだ。


「ふふっ。そう言うと思ったから、わたしとエドワードが結婚するなら、スペンサー侯爵家を公爵家にしてと、父へ頼んでみたの。父からはお許しが出たわ」

 それを聞いてエドワードは、じわりと額に汗がにじんだ。


「いや、でも我が家は」

「大丈夫よ、スペンサー侯爵家が、ご両親と一緒に暮らしていることでしょう。それなら、わたしの父が王家所有の、王宮から近い土地を譲ってくれるから。新居を建てれば、わたしも義母に気兼ねなくお茶会が開催できるし、いいと思わない?」

 王女からのあり得ない提案が、エドワードの顔をピクピクと引きつらせる。


「俺には過分な条件が次々と用意されて、少し気が引けてしまいます。何より、俺ではレベッカ王女殿下の夫としては、務まらないと思いますよ」


「わたしはわがままだから、エドワードみたいに、落ち着いて、包容力のある人が良いのよ。あなたは優しいから、何でもわたしのお願いを聞いてくれるでしょう」


「いや、俺は王女が思っている人間とは違うだろうから、ご期待に沿えなくて申し訳ない……」

「ふふっ。すぐに謙遜するのね。エドワードからの婚約の申し出、できるだけ早く頂戴ね」


(俺が、落ち着いている? 包容力? 優しい? おいおい、そんな人間じゃないだろう。謙遜じゃねーよ。そう感じているなら、俺が精いっぱい、王女に気を遣っているからだ)


 エドワードの表情はこわばっているが、周囲の人間からは「エドワードが王女に照れている」ぐらいに見えてしまう。

 黒髪に黒い瞳の見目麗しい、体躯の良いエドワード。

 彼は令嬢たちの視線を一身に集め、音楽の終わりと共に、適当な言い訳で王女と別れた。


 婚約者のいない侯爵家の嫡男へ、令嬢たちが熱い視線を送っている。だが、当のエドワードは、それに全く興味がなかった。


 言い寄ってくる令嬢の中には、モーガンのように、この舞踏会だけで振る舞われるリンゴの酒を、是非にと差し出す者も多い。

 それを、しきりに断り続けるエドワード。

(王家主催の舞踏会で、令嬢たちが食いつくような珍しい酒を振る舞うなよ……。次から次へとやって来て、迷惑だっ)


 エドワードは内心相当に怒っている。

 そのエドワードへ、陛下の側近であるブラウン公爵が、周囲の様子をうかがいながら声を掛けてきた。

「エドワード様、陛下がお呼びになっています」


 エドワードは、その側近へ不愉快だと言わんばかりに、眉間に皺を寄せた顔を向ける。


「それは、スペンサー侯爵家の俺か? それとも、もうひとり、としてか?」

「陛下が『エドワード様』と呼ばれていたので、もうひとりとして、だと思います」


「何が起きてんだか知らんが、王宮の仕事中じゃないからな。後で正規の報酬を払えと伝えておけよ」

 ブラウン公爵へ、強い口調で言ったエドワード。


(ったく、あのじじぃ。俺を無理やり娘と躍らせた後は、これか……。今は仕事の時間じゃないだろう)

 不承不承のエドワードは、おもむろに両手にはめていた手袋を脱ぎながら、陛下の元へ向かっていった。


 全く住む世界の違うルイーズとエドワードが、モーガンの企てによって出会うことになるとは、このときの会場にいる誰もが知らなかった。


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