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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第3章 離れたふたり

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3-14 動く右手

 ルイーズの右手の甲に触れていたエドワードの唇が、ゆっくりと離れていった。


 人生で初めてされた敬愛のキス。

 ルイーズは、うれしいやら恥ずかしいやらで、ドキドキと胸が高鳴った。

 そして顔を上げたエドワードから、甘い笑顔がルイーズへ向けられ、照れくさくてたまらない。

 そんな彼女は、頬を赤く染めている。


 いつもであれば、エドワードに言いたいことをすぐに返しているけれど、言葉がうまく出てこないでいた。


 そんな中、ルイーズに触れていたエドワードの温かい手が、ゆっくり離れていく。

 駄目。もっと、エドワードのぬくもりを感じていたい。

 そう思ったルイーズは、右手で彼の手を握り、咄嗟(とっさ)に引き止めた。


 ……何の違和感もなく右手が動いたのだ。ハッとするルイーズはそれに驚いている。


 けがをしてから、何をどうやっても一切動かなかった。


 何が起きたのか分からない。でも間違いなくエドワードが治してくれたと理解する。


 ルイーズは、喜びのあまり、見る見るうちに表情を変えていく。


「エドワードっ! 信じられない。右手が動くわ、ほら見て見て」

 何度も手を開いたり握ったりして動かし、まるで子どものようにはしゃぐルイーズ。

 そんな彼女を、エドワードはうれしそうに見ている。


「今まで大勢の人間にヒールを使ってきたけど、治した後に、初めて俺もうれしいと思った。これまでは治して当たり前みたいな感じでやっていたからな」


「ありがとう、すごいわ、こんな奇跡が起きるなんて」

「いや、奇跡って程じゃないだろう。切れたままの腱を(つな)げただけだ。実際よくある話だからな」


「あれっ、でも、元々救護室で治してもらったのに、どういうこと?」

 できることは全部したと言われていたのだから、ルイーズは不思議そうに首をかしげる。


 だが、こんなことが起きれば、気位の高い騎士たちは、ルイーズと違いすぐに救護室へ文句を言いに来るのだ。

 面倒な治療は、「午後に来い」と伝えれば、何も言わないエドワードが黙々と対応する。


 これが受付係と、エドワードがヒーラーだと知る人物たちの共通認識だが、エドワードは気付いていない。

 

「朝から働きたくない」と不満を言い出したエドワードへ、彼らは喜んで「午後だけで良い」と承諾したのだから。


「さあな? 陛下は俺のヒールが一番効くと、いつも言っているけど、相性か何かあるんじゃないのか? 入れ替わったときからルイーズの体は全部知っているし」


「その言い方、ちょっと恥ずかしいわ。もう、相変わらずデリカシーがないんだから」

 ルイーズの言葉を聞いたエドワードは、表情をこわばらせる。


「悪い。のぞくつもりはないけど、触れるとどうしても勝手に何でも見えてくる。だから普段、手袋を着けているのはそういう理由だ……、嫌だろうから……」

 そう言って、エドワードは手袋をはめようとする。

 それに気付いたルイーズは、彼の手にそっと手を置き、制止した。


「なんだ、カッコ付けているわけじゃなかったのね、ふふっ。ちょっと恥ずかしいけど、嫌じゃないし、どうせ、わたしのことは色々知っているんでしょう。じゃぁ気にしないわよ」


「おい、いいのか? ルイーズの腹が減っているのも聞かなくても分かっていた、そういう意味だぞ……」


「いいわよ。考えようによっては便利でしょ。だって、手を繋ぐのは直接がいいもん」


「便利って、どんだけお気楽なんだよ……。いや、そうでもないのか。ルイーズはあの家を出るのか? それならこのまま、俺の所へ来て欲しいけど」


(弟が言っていた、ルイーズを売るって話……奴隷、いや娼館(しょうかん)だろうな。そんなことを考える母親がいるなら、あの屋敷から早急に出るべきだろう)


 ルイーズは首を振って、申し訳なさそうに断りを入れた。

「ううん大丈夫。だってエドワードが手を治してくれたから、何とかなる気がするもの。それに、アランのこともあるから、すぐにはちょっと……」


 今日からずっとルイーズと一緒にいられると期待したエドワード。

 申し出を断られ、見るからに肩を落とした。


(俺は弟のせいで断られたのか? まあ、いいか。アランが来なければ、この先2度とルイーズに会えなくなっていたんだろうから)



「アランに礼を言っておけよ。ルイーズのことを心配して、わざわざ訓練場まで来ていたからな」


「え、もしかして、エドワードの弟って、アランのことだったの? エドワードに兄弟はいないのに、なんか変だなと思ったのよ」


「入れ替わり中、俺が伯爵家にいるときは、ほとんどアランと一緒にいらからな」


「そうだったの、エドワードはアランを嫌がっていると思ってたわ。……ねぇ、あの子は訓練場で危ないことをしてなかった」


「危なっかしいルイーズと違うから大丈夫だ。チョコとリンゴをくれた人であれば、姉の居場所を知っているだろうって探してた。あんなに俺に懐いていたのに、今日は、俺が渡したと言うまで随分と素っ気なかったな」


 危なっかしいとは聞き捨てならない。エドワードにそう言い返そうとしたものの、心あたりがあるルイーズは大人しく飲み込むことにした。


「あの子、わたしのことを気にして……、かわいすぎるわ。でもあれはカーティスから貰ったものよ。子どもをだますなんて、酷いわね」


 カリカリと頭をかくエドワードは、バツが悪そうだ。


「あのリンゴは俺が食べたから、今度ルイーズに返してやるよ。そうすれば、リンゴをくれた人になるからいいだろう。チョコレートは、この前ケーキを食っていたから、それだ」


「じゃあ、そうしておくわ」

 ルイーズのくすくすと笑う声が、部屋に響き渡る。


 そんなルイーズを早く屋敷へ連れてきたいエドワードは、何かを考え始めていた。

(アランのことか……、それにあの継母)



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