3-13 ルイーズの捕獲③
自分がヒーラーであることを、ルイーズに気付いて欲しいエドワードは、はっきりと分かる言葉を付け足した。
「ルイーズの右手を傷付けてしまい、俺は、なんとしても自分の体に戻って、ルイーズを治療したかった」
「ちっ、治療? エドワードが?」
「ああ。そのつもりだったのに、直ぐに動けなかった自分が情けない。ルイーズを不安にさせて、ごめんな」
悔しそうに唇をかむエドワード。
(うっ、うっ、ウソでしょう。そんなわけないわよね。まままさか、それってエドワードはヒーラー様だと、そっ、そういうこと⁉)
気安く接していたエドワードが、至上者であるヒーラーだと知ったルイーズ。
目の前にいるエドワードのことを、目を見開き凝視する。
(全然知らなかった。……とはいえ、これまでエドワードに散々好き勝手なことを言ってきたわよ。もしかして、わたしって、とんでもない無礼者なんじゃないの……)
瞬時に、ルイーズの頭の中は大混乱に陥った。
これまでの自分の言動を思い起こすルイーズは、あたふたし始め、やっと口に出した言葉も、シドロモドロで何を言いたいのか分からない。
「も、もももしかして……、エッ、エドワードって、えっ、えー、ひっ」
「やっと分かったか」
エドワードは柔らかな笑顔を見せる。
「わ、わたしったら、エドワードに失礼な態度で、どうしよう」
「どうだっていいだろう。俺がヒーラーでも、ルイーズとの関係は変わらないからな。いいか、何があっても今までのルイーズでいてくれ。俺に要らない気を使う必要はないし、隠す気はないから全て伝える。ほら、王宮に着いたぞ」
「は、はぁ」
エドワードにエスコートされて、ルイーズが馬車を降りると、思っていた方とは違う向きへ歩いている。
「えっ? ねぇ、どこへ行くつもり? 訓練場は通り過ぎたわよ」
及び腰のルイーズをよそに、真剣な表情のエドワードはグイグイとルイーズを引っ張っている。
「部屋へ行けば何か食べられるから」
「エドワードの?」
「言っただろう。俺の体でその辺のものを食べるなって。わけあって、普段は王宮と屋敷の食事以外口にしないんだ。この先、俺とはぐれるとまずいから離れるなよ」
エドワードは、さもさも当然のように関係者以外の立ち入りを固く禁じている通路を通り、自分の部屋へ向かっていた。
ルイーズは、怯えながら周囲をキョロキョロと見回せば、これまでとは違う、重厚な扉に変わっている。
部屋の中から少しの音も漏れてこない廊下は、重苦しい程に静まり返っていた。
自分なんかが、厳重な警備を抜けて王宮の奥に入り込んでいるのが分かり、怖くなってきたのだ。
……夢なのかと、現実が理解できずにいるルイーズが、たどり着いた部屋。
そこは豪華絢爛な家具で整えられ、2人以外誰もいない。
ルイーズは、突然連れられてきた場所が実際のところ、どこか、よく分かっていない。
けれど、あまりにも自分が場違いに思え、気まずさを感じたルイーズは、ふいっとエドワードから目をそらす。
困惑の色を見せるルイーズを気に止めないエドワードは、ルイーズと向かい合った。
「右手が動かなくて困っているんだろう、どうして言わないんだよ! 何かあったら俺に相談しろって言わなかったか?」
「えっ、何で右手のことがバレているの……」
「俺のかわいい弟が教えてくれたし、ヒーラーは、触れれば相手の体のことが分かるんだ……。ルイーズの承諾も無しに俺が手を握ったことは悪いと思っている。もし、こんな俺とは怖くて一緒にいたくないなら、それで構わない」
申し訳なさそうなエドワードは、伏し目がちに伝えると、ルイーズと繋いでいた手を離した。
「別にそんなことは怖くないし、エドワードに今更何か気にする必要なんて、ないでしょう」
「……ルイーズ、本当にいいのか? 俺は、もう手放す気は毛頭ないから、ルイーズが嫌だと言わなければ、引かない。ルイーズの右手が動かなくても、俺は結婚するつもりだ。それでもルイーズは、結婚相手が俺だと困る理由は何かあるのか?」
「エドワードが嫌いなわけじゃなくて、むしろ好きと言うか……。でも、右手のことを知ったら、エドワードが嫌な気分になると思って、知られたくなくて。だから、それで……」
自分を信用せずルイーズは何も打ち明けてこない。
それどころかルイーズは、自分に誤魔化そうとする魂胆が見え見えであり、エドワードはそれに気が立っていた。
だが、何も言わないのは自分を思ってのことだと分かり、一安心したエドワード。
エドワードは、うれしそうに笑みを浮かべると同時に、大きなため息をつく。
「ふぅぅ~。そんなところだろうと思っていたが、……良かった。俺は、ルイーズと一緒にいたくて仕方ないんだ。俺の妻はルイーズしか考えられないし、入れ替わるほど相性が合う相手は、この先お互いにいないだろう。結婚するぞ」
口調に真剣さが増すエドワードの一方、不安そうな表情のルイーズ。
「わたし、エドワードの役に立てることなんてないけど、それでもいいの?」
「ルイーズがいるだけで俺にとっては癒されるし、安心するんだ。余計な心配はしなくていい。ほら手を出せ、指輪をはめるから。今度は、裏にルイーズと俺の名前を彫ってもらったからな、こっちは盗まれるなよ」
そう言いながらエドワードは、ルイーズの左手をとり、薬指にそっと大きなダイヤが埋め込まれた指輪をはめた。
そして、そのルイーズの左手をエドワードの両手で優しく包み込む。
……しばらくして。
上に乗せていたエドワードの手で、ルイーズの手の甲へ軽く2回、いつもの癖で合図をすると、その手を今度は、ルイーズの右手に添えた。
「たった数日会えないだけで、冷静でいられないほど辛かった」
「エドワードが?」
「ルイーズ以上に欲しいものはなかったのに、どうして悩んでいたのか不甲斐ない。自分の気持ちに気付くのが遅くなって、ごめんな。ルイーズを愛してる」
そう言ったエドワードは、ルイーズの白くてなめらかな右手の甲に、優しいキスを落とした……。
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