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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第3章 離れたふたり

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3-10 ルイーズが逃げた

 エドワードが、ルイーズを町で見かけた翌日。

 訓練場の前に、ルイーズの弟のアランが姿勢を正して立っていた。


 アランは自分から声を掛けず、大人から声を掛けてもらうのをひたすらじっと待っている。

 ……当然ながら、貴族の令息たちが、自ら子どもに声を掛けるわけもないのだが。


 少年もそれを分かっているのか、全く動じる様子はないが、この時間、既に大半の候補生が無情にも素通りしていた。


 そこに女豹(めひょう)の群れから逃げるように、エドワードが足早に通り過ぎようとした。

「こんな所に子ども?」


 不審に思ったエドワードが、少年の顔をのぞき込めば、ハッと驚いた顔をした。

 その子どもが、ルイーズの弟だと気付いたのだ。

 

 アランは、エドワード(ルイーズの体)を気づかってリンゴを置いていった少年であり、えらく気に入っていた。

 エドワードに時間があれば、わざわざ自分から部屋を訪ね、勉強をみてやった。その上、アランからダンスのことも聞かれ指導までしたのだ。


「ルイーズにダンスが分るのか?」と疑問に思いながら教えてやると、弟から尊敬のまなざしを向けられた。

 そんなアランがかわいく思え、入れ替わり中、まるで本当の弟のように接していたのだ。


「おうっ! こんな所でどうしたんだ? 誰かに用事か?」

 今だって、入れ替わり中の感覚が抜けず、気さくな態度で声を掛けた。


「あっ、あの。フォスター伯爵家のアランと申しますが、姉のルイーズにチョコレートとリンゴをくれた方を探していまして」


 ()に落ちない顔のエドワードは、アランがカーティスを探していることに首をかしげる。

 リンゴとチョコレート。そう言われれば、弟の探し人は、自分ではないは承知済み。

 だがエドワードは、ルイーズを一番知っているのは自分だと認識しており、エドワードはアランへ、当たり前のように話を聞き出した。


「何かあったのか?」

「いや、僕はあなたのことを知らないから……用件はお伝えできません。姉にチョコレートのような高価なものをくれた、その方とお話をしたいんです」


「うっっ」

 痛い所をつかれ、思わず声を詰まらせるエドワード。


(ルイーズの話なら、カーティスに伝えるより俺の方が良いだろう。ルイーズに落ちているリンゴを拾ってやったし、ルイーズの中に俺がいたとき、チョコレートのケーキは食べていたし……、いいよな)


「リンゴはルイーズが高熱を出して訓練を休んでいたから、快気祝いに俺が渡した」

 とは言ったものの、気が引けたエドワードはアランから目をそらす。


「あっ、それは申し訳ありません、大変失礼なことを申しました」

「そんなことはいい。わざわざ弟がここまで来て、なんの話だ?」

「姉が、屋敷を出ていったのですが僕には行先が分からなくて。僕は姉にお世話になりっぱなしだったのに、このままでは将来、姉を探せなくなります。もしかして、姉を気に掛けていた方であれば、行先を知っているかと思って伺いにきました」


 子どもの口からそんなことを聞かされるとは思っていなかったエドワードは、目を丸くして弟を凝視する。

「そんなに心配しなくても、どうせ帰ってくるだろう。昨日も町でルイーズを見かけたぞ」



「そ、そうですか……、分かりました。それと、姉が書いた候補生の辞退届ですが、どちらに届けるものか教えていただけませんか」


「はぁぁーっ。あいつ勝手に辞めるのか……。弟を使って……、どうして自分で届けに来ないんだよ。チッ、騎士団長には俺から届けておく」

 いら立つエドワードは、アランから奪い取るように辞退届を受け取った。


(あのルイーズが何も言わずに辞めるって、ウソだよな……)


 すると本当に「ルイーズ・フォスター」と書いてある。間違いない。

 ……エドワードは、へこんだ顔を見せたが、その字体を見た瞬間、目元がピクリと動いた。

 

「お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」

 そう言ったアランは、(きびす)を返してすぐに立ち去ろうとした。


 だが、そんなアランの襟を捕まえて、慌てて制止するエドワード。その所作に妙な既視感を覚えたアラン。エドワードの顔をまじまじと見るが、やはり全く見覚えがないため、不思議そうな顔をする。


「ちょっと待て! この辞退届はルイーズの筆跡じゃないだろう。屋敷で一体何が起きている? 継母か? それとも姉がルイーズに何かしているのか?」


 目を見開き驚くアラン。

 まさか、この人物が姉の筆跡が分かるとは夢にも思わなかったのだろう。

 フォスター伯爵家でも、ルイーズの筆跡はアランしか分からないのだから。


「もっ、申し訳ありません。説明が足りませんでした。……それは、間違いなく姉のルイーズが書いたものです。何十回も自分の署名を練習したノートが机の上にあったので、おそらく、利き手が動かないから、左手で書いたためです」


「はぁぁーっ、何であいつ俺に相談しないんだよ。ルイーズに、エドワードの所へ来いと伝えておけ」


 毅然(きぜん)に取り繕っていたアランの感情は、限界を超え、今にも泣きそうな顔に変わった。

「……エドワード様。それは無理です。もう姉は屋敷に帰ってこないから、その言伝(ことづて)は受け取れません」


「おっ、おい、どうして突然そんな話になるんだよ。……あいつ、舞踏会へ行くのを楽しみにしてたんだ。出ていくわけないだろう」


「舞踏会? そんな話は聞いたこともありませんが……。うちの母は、姉が18になればどこかへ売ると言うのが口癖でしたから。その前に逃げたのだと思います。今、母は姉を探しています……。まさかこんなに早く、何も言わずにいなくなるとは思ってもいなくて……」


「は。……ウソだろう。ルイーズから一度もそんな話は聞いていない……。そんな……どうして」

 見る見る青ざめるエドワード。


(俺の部屋でカーティスとの婚約話をあほみたい話して、笑っていただろう。もしかして、もう2度とルイーズに会えないのか……)


「アランは、やっぱりしっかりしているな。俺は心当たりがあるから、急いでルイーズを捕まえる。アランは屋敷で待っていろ、1人で帰れるだろう」


 エドワードに圧倒されて、うんうんとうなずいているアラン。

 だが、切羽詰まった顔を浮かべるエドワードは、既に走り出していた。


(だからルイーズは練習に来なかった、いや、来られなかったのか。

 ルイーズは昨日、郊外へ向かう(つじ)馬車を調べていたのか。あー畜生、昨日のうちに声を掛けるべきだったな。何時に出発するんだよ、間に合うのか……。

 知らなかった。あの、ルイーズの部屋のカレンダーは、誕生日を楽しみにしていたわけではなかったのか……)

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