3-7 エドワードとルイーズの元婚約者②
本日2話目の投稿です。
前話をお読みでなければ、そちらからお読みください。
「エドワード様。以前の夜会でご挨拶したことがあります」
「生憎だが、お前のことは覚えていない」
「ホイットマン子爵家のモーガンです。見てのとおり、傷を負ってしまい、治療をお願いしたくて参りました」
「はっ、お前か!」
エドワードは表情を一変させると、モーガンを問い詰めるように、彼の左胸あたりの服をガッと掴んだ。
「おい、誰にやられた。ルイーズに何をした……。彼女が来ないのは、お前のせいか……」
青ざめたエドワード。ルイーズの身に、何かあったと怒りの感情を抱き、モーガンの服を握る手が、わなわなと震えている。
「フォスター伯爵家のミラベルにやられました。治療費はそちらから請求してください。お願いします、このままでは左目が」
「なんだ、そうか。それなら知らん」
ミラベルの名を聞いた途端、エドワードの険しい表情は真顔に戻った。
既に手袋をはめていないエドワードは、モーガンの顎をつかみ、ぐいっと下げる。
「あー、酷いな……。これは、失明だな。安心しろ、頭の傷はそんなに悪くない」
「失明……。お願いします、それだけはご勘弁ください。どうか治してください」
「報酬は、ヒーラーに依頼する者が払うのは常識だろう。お前の知っているところで、騎士半年分の給金ってところだな。払えなければすぐに立ち去れ」
「そんな薄情なことを言わないでください。どうかお願いします。知らない仲でもないですし」
「決まりは決まり、曲げることは一切ない。仕事以外でヒールは使わない主義だ」
「そこを何とかお願いします」
「無理だな。お前のことは卑劣な男だと、よく知っている。俺がかわいがっているルイーズに何かしたら、この部屋でヒーラーを侮辱した件でお前を処刑する。嫌なら真面目に働け、馬鹿っ! 分かったなら、さっさとここから出てけ!」
「エドワード様がルイーズを……いや、そんなわけない、あんな……」
エドワードは獲物を見つけた獣のように、モーガンに鋭い視線を向ける。
「あんな……? その後に、何と言うつもりだ? あんなにかわいいとでも言うつもりか? ふん、お前に言われる筋合いはない」
「いえ、違います。あんな単じゅ……」
「おい。もし、ルイーズを侮辱するなら、このまま警備に報告だ。良かったな、失明した不便を感じることもなく、首をはねてもらえる。それに、俺がヒーラーだと余計なことを社交界で喋られる前に、お前を処分できるな。俺にとっては、そっちの方が好都合だ。よし、そうするか。ビリング侯爵、こいつを警備へ連れて行け」
「いや違います。侮辱なんて滅相もありません。エドワード様のことは誰にも言いませんし、僕はすぐに立ち去りますから。申し訳ありませんでした」
そう言い切ったモーガンは、入ってきた扉から、走って逃げ去っていった。
「エドワード様、あの男を連れ戻しますか?」
「いや、ほっとけ。あいつが何か喋ったところで、俺が否定すれば誰も信用しないだろう」
「まあ、あまり聞き慣れない子爵家の人間ですし、そうでしょうね。では、何かあれば、私もエドワード様に協力いたしますので、おっしゃってください」
「迷惑をかけるな」
「いや、そのおかげでこちらも助かっていますので」
「どういう意味だ」
「ははっ。エドワード様を求めて、面倒な令嬢が殺到しないって意味です。……ははっ」
エドワードは頭に手をやると、わしゃわしゃとかき乱す。
「あぁー! それよりあいつのせいで、ルイーズのことを思い出しただろう。何で、来ないんだよ。イライラするな」
「ルイーズ嬢……。やはり恋人なのですか?」
ビリング侯爵は、娘のパトリシアをエドワードの父へ頼んだことを、まずい、と顔に書いてある。
「はぁーっ! 違うに決まってるだろう。カーティスの婚約話を、喜ぶようなルイーズなんか、俺が相手にするかよ……。もしかして、あいつ戻って直ぐにカーティスと」
(さっき、ルイーズを好きなのかと思ったが、俺の思い過ごしだ。俺の横で、カーティスとの婚約をケラケラ笑ってたような尻軽だぞ。しばらくルイーズと一緒にいたせいで、情が湧いただけだろう)
首を横に振ったエドワードはフードを被ると、救護室へ入っていった。
ルイーズを訪ねた午前中のガランとした空間とは打って変わり、多くの人があふれる現状を確認し、彼は顔を引きつらせている。
だが、文句も言わずに淡々とこなすだけだ。
その一方。
(ルイーズの奴、エドワード様のお気に入りなのか……。
単純なあいつを丸め込んで、あいつからエドワード様にお願いしてもらえば治してもらえる。
このけがだって、あいつの姉のせいだ。そうだ、まだ何とかなる気がしてきた)
寄生虫のようなモーガンは、そんなことを考えていた。
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