3-6 エドワードとルイーズの元婚約者①
本日1話目の投稿です。
できれば、次話も今日の昼には投稿できればと思っています。
救護室とヒーラーたちの自室の間には、部屋を繋ぐための空間がある。
いわゆる、居室と浴室の間にある、脱衣所。そういった部屋だ。
その繋ぎの間に、何としてでも治療をして欲しい人物が、入り口とは違う扉を見つけて入ってきたのだ。
「頼むから、左目を治してくれ」
「とにかく、この場所から出ていけ!」
エドワードの補佐官であるビリング侯爵が、侵入者を追い払おうと応対している。その侯爵こそが、パトリシアの父だ。
興奮している侵入者は、ビリング侯爵と直接の面識はなく、まさか、騒ぎを聞き駆けつけた人物が侯爵とは思ってもいないようだ。
「お前は関係ない。そこにいるヒーラー様2人へ言ってるんだ」
「治療して欲しければ、決められた報酬を払え! でなければ話にならん」
ビリング侯爵は冷静に話しているが、内心気が気ではないのが顔に出ており、彼の額に汗が光っている。
なぜなら、エドワードはこの場にいないが、貴族だと名乗るモーガンは、エドワードの顔を知っているだろう。
そろそろ彼が仕事を始める時間である。エドワードがひょっこり、ここに入ってくるのを気にしていた。
「金なんてあるか! 無料で治せって言っているだろう! 俺は貴族だっ! 正体の分からない奴より、俺の方が偉いに決まっているだろう」
ヒーラー2人は、目深にかぶったフードによって、互いに見えていない顔を見合わせると、暴言を喚き散らすモーガンのことを、鼻で笑って見ていた。
この国で3人しか存在しないヒーラーは、国王に並ぶ職位として認められており、ヒーラーと名乗っているときに、命令できる者はいない。
これは、この国の常識で、もちろんモーガンも承知の事実。
けれど、窮地に陥った彼は、脅して従わせようとしていたのだ。
エドワードの父でさえ、ヒーラーとしてのエドワードへ頼みごとをするときは、エドワードに「様」を付け、使い分けるほどなのに。
実際、貴族の治療希望者の中には、勘違いする者は多い。
だが、それは当主であったり、上位貴族だったり、それなりに身分の高い人間がほとんどであり、ビリング侯爵がその場に顔を出せば大半が引いていくのだ。
救護室の取次係が貴族の対応で困れば、ビリング侯爵を呼ぶことで、常に丸く収まっていた。
何度も頼みに来る金のない平民で、思わず同情してしまう治療希望者は「午後に来い」と伝えて追い返す。
……すると、午後にいるヒーラーは、何の文句も言わず黙々と治療してくれるのだ。
救護室の取次係は、金にならない患者を入れても、これまで1度だって言い掛かりを付けられたことはない。
それに薄々気付いているエドワードも、陛下に当たり散らす程度で、深く気にしていないようだ。
希少なヒーラーの存在価値を守るために、あえて高く定められた治療費。
そして、王族と並ぶ給金が3人には支給されている。場合によっては、それ以上だ。
エドワードが、時間外だと陛下に文句を言っているときには、陛下のポケットマネーから報酬が払われているのだから。
エドワードは、個人的な伝手で治療を行えば、次第に際限がなくなるのを危惧し、安易に職位を話していない。
元々貴族ではないヒーラー2人は、迂闊に知られれば、親兄弟に危険がおよぶと考えて、その身を明かしていない。
モーガンが騒いでいるとは知らないエドワード。
彼は思い悩んだ表情で、外套を羽織っただけで入ってきた。
ビリング侯爵の応戦もむなしく、ぼんやりとしている彼は、その直前まで他のヒーラー2人の背中しか見えていなかったのだ。
「何かあったのか? ん? お前、見たことがあるな……、あっ」
冷静ではない彼は、思ったままのことを口に出してから、しまったと言わんばかりに青ざめている。
「エドワード様! エドワード様がヒーラー様とは知りませんでした」
王家の紋章の付いた外套を羽織るエドワードは、はっきりと、それを証明していた。
(ちっ、こんな所に治療希望者がいるとは思わず油断した。俺の部屋で顔を隠してからここに入るべきだったな。
こいつ、やっぱり俺のことを知っているのか……。顔は、はっきり分からないが、大した面識もないよな、面倒だな。どこかで会った奴だったか……?)
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