3-5 迫られる王女との結婚
ヒーラーである自分を隠しているエドワード。
そんな彼は、自分の職位を知っている数少ない人物たちへ、日頃は自分をその名で呼ぶなと命じてある。
そのため陛下の側近は、エドワードが1人になったときしか声を掛けてこないのだ。
入れ替わり中のエドワードは、何度か陛下の側近であるブラウン公爵を目にしていた。
その度に、ルイーズと腕を組み、自分が常にエドワードの体にピッタリと張り付いていた。
わざわざ訓練場まで来ているのは、陛下の依頼であることくらい、お見通しで逃げていたのだから。
陛下の執務室へ平然と入っていくエドワード。陛下の姿を見るなり、声を掛ける。
「最近、王宮にいなかったから、陛下のことが気になって。たまには俺から来たけど、用事はなかったですか?」
しばらく仕事を休んでおり、後ろめたい気持ちのエドワードは、ヒーラーとして接するには随分と丁寧だ。
文句を言いつつも、付き合いの長い陛下のことは、彼なりに心配している。
その上、事前の承諾もなく、一方的に仕事を放棄したのだから。
「ずっと待っていたぞ。腰と肩が凝って痛くてな。エドワード様が捕まらないから他のヒーラー様に頼んだが、やはり、いまいちだった」
「待っていた」と言われ、一瞬だけ、申し訳なくなり目を伏せたものの、その原因を聞いて白目を向いたエドワードは、結局いつもの調子へ戻っていく。
「まさか、肩こりで俺を探し回っていたのか……。大概にしてくださいよ、ったくとんでもないな。魔法の調子がいまいちだから、しばらく休むと報告したでしょう」
「そう水臭いことを言うな」
「はいはい、分かりましたよ」
くすりと笑ったエドワードは、陛下の手を握った。
しばらくして、エドワードが治療の終わりを告げる合図を、握った手と反対の手で、陛下の手の甲へ送る。
治療の終了を理解した陛下は、おもむろに口を開く。
だが、その表情も口調も辛気臭さく、明らかに落ち込んでいるようだ。
「エドワードは、フォスター伯爵家のルイーズ嬢がお気に入りなのか? 最近あちこちからその話を耳にする。恋人同士のように2人で腕を組んで歩いているんだって」
「どっから、そんな出鱈目……あ、いや、まあ、親しいのは事実ですけどね」
(ブラウン公爵を見る度に、俺が、エドワードの腕を組んで逃げていたからな。そのときの話か。まあ、2人は元に戻ったわけだし、もうそんな機会はないんだろうな……)
「ルイーズ嬢を伴侶にするつもりなのか?」
「……あ、いや、そんな予定はないけど」
「良かった。ならばレベッカと婚約してくれないだろうか。レベッカがやたらとエドワードに執心していてな」
「分かってますって……」
「それが……、スペンサー侯爵家を公爵にする話を出したにもかかわらず、婚約の申し出がないと憤慨している。挙句にスペンサー侯爵家は王家への反逆とまで言いだした」
「はぁっ、何ですかそれは。そんなわけないでしょう。俺の体質が面倒なだけだ」
「ああ、言いたいことは分かる。だが、私では王女へ説明する言い訳が見つからず、正直なところ困っている」
ずんと沈んだ顔の陛下は、全身に重苦しい空気をまとっている。
レベッカ王女から、「なるべく早く婚約の話をちょうだい」と言われ、既に10か月以上経っていた。王女の年齢的に、これ以上曖昧にするわけにいかないのはエドワードも分かっている。
どう考えても、レベッカ王女を選ぶべきで、誰もがみんな、それが順当だと見立てているのが現状。ただ、エドワードの気持ちを除いては、だが。
(レベッカ王女ね……。俺の性格も全くの勘違いをして、変な期待をしているんだよな。それなら、ルイーズと一緒にいる方が落ち着くんだよな……)
「少しだけ考えさせてください。断るなら理由は探しておきます。でも、俺が王女の誰かと結婚しなくても、陛下の所にはいつでも来ますから、そう落ち込まないでください」
それを聞き、顔を上げてぱぁぁーっと笑顔になる陛下。
「そう言ってくれるのを待っていた」
「くくっ、ったく調子がいいな。そういえば、左膝も動かしにくかったでしょう。硬くなっていたから、ついでに治しておきましたよ」
「ああ、先日転んだときのだな。エドワード様が捕まらないから、他のヒーラー様に頼んでな。痛くはなかったんだが、助かった」
「そうでしたか。それじゃ、また呼んでください」
エドワードは陛下へ笑顔を向けて退室していたが、独りになった途端、真顔へ戻った。
そして、彼の頭の中では直前の発言を撤回すべきかと、心がムズムズしている。
(冷静になれって。何故、王女よりルイーズの方が良いって思ったんだよ。そんなわけないだろう。
ルイーズは駄目だ。あんな何も知らないあほでは、侯爵家の中も、ままならないだろう。母にいびられるのがオチだ。どう考えても、レベッカ王女の方が好都合なのに。
王女に比べてルイーズの方が良い理由なんて、いや、……俺の気のせいだろう。
どうしちまったんだ……、何であんなことを陛下に言ったんだよ)
悶々とするエドワードは、救護室へ向かっていた。
心が乱れ、いつもより警戒心が薄れているエドワード。
彼は、いつもとは違う行動をとり、救護室で暴言をはいているモーガンと遭遇することになる。
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