0-4 17歳の舞踏会①
宜しくお願いします
ルイーズ・フォスター伯爵令嬢は、少し前に17歳になったばかり。
ルイーズは姉と共に、1年に1回開催される王家主催の舞踏会に参加していた。伯爵夫妻は後からやって来る。
みんなで来ればいいものを、毎年わざわざ2手に分ける理由。
それは、夫人がルイーズと一緒の馬車は嫌だと、譲らないからだ。
あえてそれをルイーズに聞かせる伯爵夫人。何とも性格が悪い。
ルイーズと一緒に到着した姉のミラベルは、他の令息たちと会場の中心で踊っている。
勉強は大の苦手なミラベル。こと体を動かすことに関しては、難曲でも見事に踊りこなす才能を見せているようだ。
せっかくダンスで令息から興味を持たれても、読み書きができなければ次につながらない。
お礼状の1つも書けないミラベルは、いつだって恋に進展することはない。
ルイーズは壁の隅にある立食ブースで、独り食事を楽しむ。15歳のときから既に3回目の舞踏会。誰にも見つからないよう身を隠すのは、慣れたものだ。
例年自分の誕生日頃に開催される舞踏会。
自分のために王宮が祝い膳を用意してくれていると、ルイーズは前向きな解釈をしていた。
このときばかりは、日頃は食べられない甘味にもありつける。
独りで過ごすルイーズは、大好きなリンゴをシャリシャリと食べ、「うーん、おいしい」と顔がほころんだ。
そして、次は何を食べようかと、王宮の食事を満喫中だった。
その会場では、ホイットマン子爵家の3男モーガンが、自分の手駒になりそうな令嬢を探している。
子爵家当主から「働け」と言われているが、そんなことは勘弁願いたい。そうならない生き方を模索中の男だ。
彼は楽して生きるため、自分のために稼いでくれる令嬢を求めていた。
彼の理想は、単純な性格で、モテなくて、欲がなくて、他の人物から入れ知恵をされないような令嬢。
会場をぐるりと見渡すモーガン。
……そこで目に付いたのが、独りでリンゴを食べているルイーズだ。
(あの女……宝石はおろか、アクセサリーの1つも着けていないな。型遅れで丈の短いドレスは、お下がりだろう。それを自分で工夫してしゃれた作りに見せているのか。すれていないこいつなら使えそうだなっ!)
15歳の時に姉からお下がりとして譲り受けたドレス。それは姉が紅茶をこぼして要らないと言ったものだ。ルイーズは、自作のコサージュで染みを隠して着ていた。
そんなことは、分かるわけもないモーガンは、ルイーズの3歳年上。
麗し、とは言わないものの、容姿はそれなりに整っている。
自分の容姿に自信があるモーガンは、令嬢を口説き落とせる自信は満々。
意気揚々と、彼女の元へ向かっていた。
ルイーズは、突然現れたモーガンから、挨拶もそこそこに口説かれ、始めは放心状態だった。
「ねぇ、この舞踏会だけで振る舞われるリンゴのこれは、もう飲んだ?」
モーガンは、そう言いながらコハク色の飲み物が入ったグラスを、ルイーズへ差し出した。
「これって、リンゴでできたお酒でしたよね。わたし、お酒は飲めないので申し訳ありませんが受け取れません……」
モーガンが勧めるグラスを、ルイーズは片手を前に出し、左右に首をブンブン振って断る。
年に1度しか出されないそれは、令嬢たちに人気が高かった。
ルイーズも興味を持つかと思ったが、失敗に終わる。
だが、彼にとっては、リンゴの酒はただの小道具に過ぎないのだ。多少断られても彼が気に止める様子はない。
むしろ、さらにルイーズとの距離を詰めようと、グッと1歩近づいてきた。
それにドキリとしたルイーズは、モーガンの顔を、ぽーっとしながら見上げる。
「よしっ、いける!」そう思ったモーガンは、ルイーズの美しい髪をなでながら、口説き始める。
「ルイーズ嬢はかわいいね。それにその髪がとてもきれいだ。是非、僕のお嫁さんにしたいよ」
モーガンから片手をギュッとつかまれ、食い入るように見つめられるルイーズ。
生まれて初めて、自分に向けられた甘い言葉と触れられた手が、ルイーズの体温を一気に熱くする。
「かわいいなんて、初めて言われたわ。それに、お嫁さんだなんて……」
頬を赤くしたルイーズは、彼の真意を考える余裕はない。
素直に心臓がドキドキと大きく脈打ち、速まる自分の鼓動がルイーズの耳に響き始めた。
令息と話すことに憧れていたルイーズは、次第に警戒心は薄れてしまう。
彼女は内心焦りつつも、突然のアプローチで間近に迫ってきた令息を、既にうっとりと見つめている。
(お嫁さんって……。これって、本当にわたしに言ってくれているのよね……。もしかして、この優しい方が、わたしをあの屋敷から連れ出してくれるかもしれないわ)
ルイーズは、一目ぼれだと自分を口説くモーガンにキュンと胸を高鳴らせる。
あっと言う間にほだされたルイーズを見て、不敵な笑みを浮かべるモーガン。彼は、ちょろい女を確保し優越感に浸っている。
「お世辞ではないよ。ルイーズ嬢が宝石も装飾品も着けていないのは、プラチナブロンドの髪が美しいから必要ない、そうだろう」
その言葉で照れたルイーズは、はにかんだ笑顔を返す。
(こう言っておけば、この先も宝石に興味も持たずに、俺のために身を粉にして働いてくれるだろう。俺のために使ってやるさ。見た目は悪くないし、騎士試験に受からなければ#娼館__しょうかん__#でも稼げる。好条件だ)
そんな2人のすぐ近くを、取り繕った笑顔を見せているエドワードが通り過ぎていた。
彼は、陛下に懇願されて、嫌々ながら王女とダンスを踊っている。
……それが3人目の王女ともなり、うんざりしているのがありありだ。
(あのじじぃ。俺が王女と踊りたいと申し出ただって。王女にウソをつくなよっ! 自分の娘をだましてまで、俺と王女を結婚させつもりか。誰がその手に乗るかよ。ったく、何で3人もダンスの相手をしなきゃならないんだ)
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