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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第3章 離れたふたり

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3-3 緊張の食卓

 青白い顔のルイーズは、ベッドの上で仰向(あおむ)けで寝転がっている。


 この少し前まで、さまざまなことを試したルイーズだが、何をどうやっても、右手はぴくりとも動かなかった。


 今は、寝ている自分の顔の上に両手を伸ばし、その手を見ているが、右手だけはだらりと垂れ下がたままだ。 


 どこか楽天的なルイーズだが、今回ばかりは違う。


 そんな彼女の頭の中は、フル回転を続け、必死に自分の身の振り方を考えていた。

 騎士になれば道が開ける気がしていたし、もし駄目でも、住み込みの仕事を探せば上手く逃げ出せるつもりだった。


 けれど、片手が使えないこの状況では、仕事に就きたくとも、雇ってもらえる見当が付かない。

 ……実際。この国の情勢で片手が使えなければ、仕事を探すのはまず無理だろう。


(エドワードは、カーティスから婚約の話があったと言ったけど、それは、騎士を目指していた、わたしに向けてだ……。今の自分ではないもの、彼は頼れない。

 うーん、駄目だ。

 どう考えても誰かを頼る選択肢は、なさそうだわ。

 私の手が動かないと継母に知られたら、すぐに娼館(しょうかん)へ売られる気がする。

 取りあえず、継母と姉には手が動かないことは、隠すしかない。

 大丈夫よ。顔を合わせるのは食事のときだけだもの、パンは片手でちぎってスープに浸せば食べられるし、気付かれないわ。

 当面は誤魔化せるはずだけど、長くはもたないでしょうから、何とかしなきゃ。

 うーん、……どこかにある修道院。行き方は分からないけど、明日から調べてみるか)


**


「ルイーズ様、夕飯のお時間です」

「……はい」

 いつもどおり、ルイーズは食事の席に着いたのだが、目の前に並べられた皿を見て、ゴクリと唾をのむと、そのまま固まっている。

 よりによって、今まで自分に出されるはずのない、牛肉のステーキが目の前にある。


(ちょっと待ってよ。何が起きたら、こうなっているのよ。エドワードは、わたしと入れ替わっている間に何をしたの……。何も言ってなかったでしょう。どうしよう、食べないと怪しまれるけど、ナイフとフォークは使えない。どうやっても無理だわ)


 悩むルイーズへ、めずらしく父から声を掛けられた。


「エドワード様に、粗相はなかったか?」

「っ!」

 唐突な、エドワードに関する質問。

 それを聞かれたルイーズは、椅子から体が飛び跳ねてしまい、ガタンッと大きな音を鳴らした。


 今日に限っては大失態を犯した自覚がある。心底合わせる顔がないとへこんでいる。

 今、どうしてそれを聞くのかと、焦りの色を見せる。


 だが、気を取り直したルイーズは、明日から騎士の訓練に行かないことを思い浮かべた。

 いや、行かないではなく、行けないが正確である。

 それも含めて今なら誤魔化せる。


 当主の質問を言い訳のチャンスととらえ、そこは包み隠さず正直に話すことにした。


「今日は、自分の不注意でエドワードに合わせる顔もないほど迷惑を掛けてしまって。だから、もう騎士の訓練には行かないことにしま……」

 ルイーズが静かに話し終える前に、言葉は遮られた。


「ルイーズ。お前、あれほど逃がすなと言ったのに!」

 突然、口を挟んできた伯爵夫人は、頭から湯気が出そうな剣幕だ。

 ルイーズが、まさかの大物を捕まえてきた。

 あまりにも想定外の出来事。だが、それは、それで都合が良い。

 この国の名門スペンサー侯爵家との縁談に、文句はない。

 ましてや、あれだけの宝石をさらっと屋敷へ届ける財力を目の当たりにしたばかり。

 感情の納まりが付かない伯爵夫人は、わざわざ立ち上がって怒り出した。


(なっ、何よ。逃がすなって、エドワードのこと? わたしと入れ替わっている間に、一体何があったのよ。

 駄目だ。何だか分からないけど、すごい剣幕。この家に少しでも長くいようなんて、甘えたことは言っていられない)

 

 うつむいて顔色の悪いルイーズを見て、姉は高々と笑い始めた。


「キャハハ。まあ、そもそもルイーズにエドワード様を狙うのは無理があったのよ」

「そうね、役立たずに食べさせる料理はないわよ。あの子の料理を下げてちょうだい」


 目をつり上げた継母が、ルイーズの主菜と副菜を下げるように言ったお陰で、ルイーズの食事は、パンとスープだけの食事に逆戻りしていた。


 これにほっとしたルイーズは、小さく「はぁ~っ」と、ため息をついた。



 そして、思ったよりも左手が上手く使えずに、おぼつかない手つきで、何とか食事を済ませて席を立った。


 いつも物言わぬ弟が、その様子を不思議そうに見ていたのを、ルイーズは気付いていない。



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