表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
第3章 離れたふたり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/89

3-1 さようなら、あなたが好きでした

 もう少しで午前も終わる。そんな時刻に起きたルイーズのアクシデント。

 その日の訓練は、ルイーズが運ばれた時点で終了となり、訓練生がぞろぞろと休憩室へ戻っていく。


 そんな中、呆然自失(ぼうぜんじしつ)のエドワードは、体をぴくりとも動かせず、そのまま訓練場に立ち尽くしていた。


 ……その彼の頭の中は、これから向かおうとしている救護室で、「ルイーズは既に事切れているのでは」と、悪い想像を払拭できずにいる。


 しばらくして、拳を握りしめたエドワードは、確かめる決意を固めたものの、救護室へ向かう足取りは酷く重い。

 そうして彼が救護室へ着いたときには、治療希望者は誰もいないように見えた。

 状況を確かめたいエドワードは、視界に捉えた、目深にフードをかぶる人物へ問い掛ける。

 だが、むしろ、そちらの人物の方が、久々に見るエドワードの顔色の悪さにギョッとして、何かを言いたげにしていた。


「……ル、ルイーズは?」

「ん? ああ、先ほどの騎士の候補生か」

「そうだ」

「彼女なら、深い傷だったがヒールで綺麗に塞がり、少し前に元気に帰っていった。あの調子なら、明日も訓練に参加できるだろう」

「そ、そうか……。申し訳なかった。俺がそばにいたのに煩わせてしまったな」


「はぁぁ~っ」と、安堵(あんど)のため息を漏らしたエドワードは、一気に解けた緊張から、その場でしゃがみ込むと、しばらく動けなかった。


 彼は、ルイーズが無事と聞いても、表情はまだ()えず、彼女を危険に(さら)した原因は自分であったと、自責の念やら、後悔やらで、気持ちの整理が追い付かない。


(ルイーズが、「救護室まで持たなかった」のではないかと思い、生きた心地がしなかった。本当に、彼女が無事で良かった……)


「会えるのは……明日か」


 このときのエドワードは、顔を隠さず、自身の部屋から救護室にいたのだ。彼の顔を知らない救護室の受付係が入って来ようものなら、大騒動になることも忘れ、ルイーズのことをひたすら考えていた。



****


 その一方、屋敷へ帰ったルイーズは不思議な感覚に襲われていた。


 屋敷に着くまでは、いくら傷が塞がったとはいえ、怖くて動かせずにいた彼女の右手。

 それが、何だか違和感があり、自分の部屋に着いてから、ゆっくり確認してから動かそうと思っていたのだ。

 手や腕に付いていた血は洗い流されていたが、騎士服に付いたものはそのままであり、手首の辺りが冷たく濡れている。

「そのせいだろうか?」と、気にし過ぎないようにしながら戻ってきたが、ルイーズの右手の指先は冷え切っており、感覚がおかしい。そう、治療後からずっと変なのだ。


 取りあえずルイーズは、着ている服を脱ぐために、騎士服のボタンを外そうとした。

 だが、右肘は動かせても、右手の指先は、だらりと床に下がったままで力が入らない。

 右手を動かしたくても上手く動かせず、正確には、けがをした手首から指先の感覚を失っている気がする。


「ナニコレ、ボタンが外せない」

 利き手である右手が使えない。何が起きたのかと、青くなったルイーズは困惑を隠せない。

 それでも、ようやっと、使いにくい左手で汚れた騎士服を脱ぎ終わった。


(救護室のヒーラー様から『できることは全部した』と、言われたんだもの、わたしの右手は、このまま動かないのか。それは、自分の不注意だから仕方ないけど。

 剣を持てないなら、明日から、訓練にはもう行けないわね。せめて、エドワードに声を掛けてから……。

 いや、駄目だ。そうなれば、右手のことをエドワードへ話さなきゃならないもの。こんなことを知ったら、一緒にいたエドワードは嫌な気持ちになるだけだわ。自分で招いた事なんだもの、彼には絶対に知られないようにしないと。

 伯爵家の居候の私が、自分の身もわきまえず、彼のそばにいようとして、本当に馬鹿なんだから。住む世界の違うエドワードのことは、一刻も早く忘れなきゃ)


 恋心以前に厳しい現実も待っていた。

 ルイーズが持っている服は、(ひも)の多い服が数着あるだけだ。さて、どうやって着るかと悩みながら、ゆっくりクローゼットを開いた。

 するとルイーズの知らない新しい服が、クローゼットの中いっぱいに入っているのが目に飛び込んできた。


 思い当たるふたりでの買い物。だが、ルイーズ(エドワードの体)は、どの店でも別室で待っていただけで、エドワードがルイーズのために買っていた服のことを、彼と共にいたのに知らなかったのだ。

 それに、入れ替わり中、毎日一緒に過ごしていたエドワード(ルイーズの体)は、騎士服のまま、いつも自分の前にいた。


 そして今、ルイーズは初めて買い物の意味を知らされた。

 

 こらえきれない感情で、かすかに唇が震える。


 あふれんばかりのクローゼットを見たときから、ルイーズの視界は、にじみ始めていた。

 それが、しみじみと服を見ているうちに、涙はこぼれ落ちる限界だ。

 


(……エドワードってば、随分とたくさん買っていたのね。

 わたしのクローゼットの中に、こんなに洋服があるのは初めてだわ。

 エドワードは、体に戻れないことを落ち込んでいたんだもの、あのときは、彼がここで生活するつもりは少しもなかったのに。

 ……これ、どう見たって、全部わたしのためでしょう。

()れられるのは迷惑だ』って、あんなに言っていたのに……。本当、馬鹿なんだから……。

 こんなに優しくされたら誰だって好きになっちゃうでしょう。

 もう、とっくに好きだったのに。

 それなのに……もっと、好きになったじゃない。

 ……こんなことをされて、どうやってエドワードを忘れたらいいのよ……。

 わたし、あなたに合わせる顔もないのに……。ちゃんとエドワードにお礼も言えないまま、お別れになっちゃった)

 

「離れたくないくらい大好きだったのに。あなたが困るっていうから……、何も言えなかった」


 

 エドワードと入れ替わり中、彼と過ごす時間があまりに自然に流れ、一緒にいると楽しくてたまらなかった。

 でも、自分の体に戻れば、彼との関係は終わり。それはルイーズは痛い程分かっていた。

 今はまだ、エドワードを忘れられそうにないルイーズは、長い時間が経てば、いつか月日が忘れさせてくれる。

 そう信じるしかなかった。


 これまで、自分の右手が動かないと分かっても、ルイーズの涙はこぼれることはなかったが、エドワードを想うルイーズは、開けっ放しのクローゼットの前で、顔を抑えて泣き続けている……。


「……さようなら。あなたが好きでした」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ