2-19 元に戻るふたり②
いつもの調子で訓練を始めるルイーズは、エドワードの懸念に少しも気付く様子はない。
久々の手合わせに、取りあえず軽く剣を振ってみた。
ガッチーン――!
思いの外、2人の剣が大きな音を立ててぶつかり、驚いた顔を見せる。それと同時、エドワードの腕はジンジンと痺れ、開始早々、エドワードは既に辛そうな表情を浮かべている。
(こいつ……。俺が手加減していたことに、全く気付いていないのか。そもそも、こいつ相手に本気で剣を振っていたことはないから、力加減も分からないよな。……どうする、ルイーズの細腕では、このままでは危険だ)
じとりと手に汗をかいた彼ひとりが、激しく焦りを募らせた。
エドワードはいつも、ルイーズに合わせて、適当に剣を受けているだけだった。
エドワードが力を入れて剣を振れば、ルイーズを容易に傷付ける。それを理解した上での、余裕の手加減だ。
「お前、落ち着けって。俺の体だって分かっているのか? みっともなく剣を振り回すな」
「何よ。みっともなくないし、習ったとおりにしているだけだもん」
教官に注意を受けた手前、適当にしてはいられないと、ルイーズは、いつもの調子で剣をエドワードに振り下ろした。
「おい馬鹿、そんなに力を入れたら、危ないってっ――っつ!」
ムッとした顔のルイーズには、必死の制止の意味は伝わらない。
ルイーズが力強く降ろした剣。
それを、エドワードは、ルイーズのか細い腕では受け止めきれず剣をはじかれてしまう。腕が痺れていたのだ。当然、力も入らなかった。
……だけど。
エドワードの手から剣がないことに気付き、自分が振り下ろす剣を止められるルイーズではない。そんなセンスがあれば、「全く見込みがない」と評価されていないのだ。
ハッとした表情を見せたルイーズだが、剣の勢いは、そのまま止められない――。
ルイーズの振り下ろした剣で、エドワードは右手首を大きく負傷した。
慌てるエドワード。だが、職位柄無知ではない。左手で傷を抑えたエドワードは、出血を抑えようと必死だ。
けれど、相当に深い傷はどう見ても、圧迫止血では間に合わない。
その様子を目の当たりにし、ひゅっと息をのんだルイーズは、青白い顔をしている。
そして、彼女は自分の体よりも、すぐにエドワードの心配をした。
激しく動揺したルイーズだったが、優先したい気持ちに少しの迷いもなかった。
自分が消えても、誰も悲しまない。だけど、エドワードは違う。
このままではエドワードが消えて、彼の華やかで幸せな彼の未来がなくなる。愛しい彼には生きていて欲しい。
そう思ったルイーズは、彼を失うのを避けたい一心で、自分の体に戻ることを強く願う。
(ごめんなさい。わたしのせいだ……。もし、わたしの体と一緒に、あなたが命を落とすことになるのは……、絶対に駄目だ。戻れ、お願い、わたしがわたしの体に戻れ)
それと同時にルイーズは、感じる痛みと共に自分の体に戻ったことを自覚した。
(――っ! 右手が痛い。も、戻った! よ、良かった……。待って……、エドワードに謝らなきゃ……。……大丈夫だって手を振らなきゃ……)
ルイーズは朦朧とする意識の中。エドワードへ掛ける声も出せずに、駆け寄ってきた他の訓練生によって、救護室へ運ばれてしまった。
(――何が起きた⁉ まともに食事を取らずに貧血だった彼女の体が、こんなに失血すれば身が持たないだろう。早く傷を塞がなければ間に合わない! 救護室に向かうより、俺が治療した方が早い。頼む戻ってくれ。俺がルイーズにもっと、違う声を掛けていたら、こんなことには……。頼む早く戻れ、俺の体に戻れ。――あっ、腕に傷がない。もしかして体が戻っていたのか⁉)
自分の体に戻ったエドワード。止血に必死だった彼は、体が戻ったことを捉えるのが遅れていた。
遅れをとった彼が呆然としている間に、既にルイーズは自分の目の前から、離れた位置にいる。
「あっ……、待て……」
その彼の声が、誰の耳にも届かないほど、周囲のざわめきは大きい。
遠くに見えた、ルイーズの左手が、力なくだらりと垂れた瞬間。彼は、心臓が凍り付くようなショックと喪失感を味わい、そのままそこから動けずにいた。
(……ウソだよな)
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