2-14 騒がしいふたりのディナー
本日2話目の投稿です。前話をお読みでなければ、ご注意ください。
ルイーズ姿の彼の買い物に、散々付き合わされたエドワード姿のルイーズの2人は、スペンサー侯爵家御用達のレストランに入店した。
個室で向かい合って話す2人。
料理が書かれたメニュー表を店員から渡されたが、チンプンカンプンのルイーズは、目玉の飛び出そうな料金しか目に入らず、汗がたらりとこめかみを伝う。
「お前、勝手に注文するなよ。俺が決める」
「令嬢とのデートは、エドワードが選んであげているの? なんだかモテる人って大変なのね」
「はぁぁーっ、違うって。どうせお前は分からないだろう」
「ふふっ、なんだ、バレていたか」
いつもの調子で揶揄ったもののバツが悪いルイーズは、ぺろりと舌を出して笑ってみせた。
「そうだ、お前のことを仮病だと言って悪かったな。弟が、お前を心配していたぞ」
「そうなの? アランは、いい子でしょう」
「あの家で、唯一まともなやつだな。どうやったら、ああなるんだ?」
「なんでだろうね。ミラベルお姉様が、自分よりチヤホヤされていた、幼いアランが、嫌いだったお陰かしら」
それを聞き、何かを思い出したエドワードはハッとした顔を見せる。
「――お前、もし俺と体が戻ったら、元婚約者には気を付けろよ。姉が何かたくらんでいるぞ」
「あはは、大丈夫よ。もう色々と慣れているもの」
自分の情けない話を、早々に切り上げたいルイーズは笑って誤魔化し、気にしない素振りをした。
「何かあれば俺に言え。助けてやるから」
「まあ珍しい。エドワードでも、そんなことを言えるのね。ふふっ。ねえ、そういえばエドワードもチョコレートが好きだったの?」
「いや別に。前にお前が食べたがっていただろう」
「うわー覚えていてくれたの! 実は、チョコレートって初めて食べるのよね。しかも、ケーキに乗っているなんて贅沢過ぎるわね」
ルイーズは大喜びでぱくりと食らいついたが、笑顔は見る見るうちに真顔に戻り、それをゴクッと飲み込んだ後の表情はさえない。
「あれ、思ったよりも……」
「くくっ。俺、甘いものもが嫌いだから残念だったな。今食べても体が受け付けないだろう」
彼は、自分のケーキを食べ終わり、ルイーズが食べるのを躊躇っているケーキをひょいっと奪う。悪い顔をするエドワードは、舌を出して笑っている。
「えー、ひどいわー」
「食べるのはお前の体だから、いいだろう。仕立屋の女店主が、胸がないからもっと太れだってさ。このままだと、ドレスが合わないって言っていたな」
「はぁぁーっ、なんて会話をしているのよ。どうせエドワードから言い出したんでしょう」
「くくっ、そういうことにしたいなら、そうしておいてやるよ。お前はお茶でも飲んで待っていろ。だけど、お前のために、こうして俺の分のケーキも食べているんだから、感謝しろよ」
「はぁぁーっ、エドワードがわたしの分まで、おいしく食べているだけでしょう。あれっ、この紅茶おいしいわね」
口の中に残る甘さが気になって仕方ないルイーズは、ひたすら紅茶で流し込んでいた。
そんなルイーズは、その紅茶が、以前のお茶会でパトリシアがルイーズに勧めてくれたものと同じものだと気付き、エドワードがお茶を飲む姿を凝視し始めた。
ルイーズから、じーっと見られているとも気付かずに、エドワードは至って平然とアールグレイの紅茶を口に含んでいる。
「ねえ、エドワードは、その紅茶を飲んでも気持ち悪くないの?」
「ん? 別に。嫌いだったのか?」
「う~ん、どうなんだろう。茶葉を買うときの試飲はおいしかったんだけど、その後にパトリシア様のお茶会で勧められたときは、喉を通らなくて」
「お前でも、貴族の間で流行っている茶葉を買うこともあるんだな。……誰かに贈ったのか?」
「それが、せっかく買ったのに落として全部ぶちまけちゃったのよね」
「お前って……、本当にあほだな。奮発したのに落としたのがトラウマだったんだろう、どうせ」
「ふふっ、そうだったのか。わたしね、町の中をこんなに歩いたのは初めてなんだ、今日は楽しかったな」
「それは良かったな。俺はお前の間抜けな言動にずっと腹がよじれてた」
「はぁぁーっ、失礼しちゃうわね」
デート中のカップルにしか見えない楽し気な2人は、屋敷の中で発狂している姉の存在を知らなかった。
2人が食事をしている間に、エドワードがその日のうちに届けて欲しいと言って買った品々が、スペンサー侯爵家からルイーズ宛てに大量に届いていたのだ。
それは、ルイーズの空っぽなクローゼットの中を、びっしりと埋め尽くすほどの量だった。中には、高価な宝石の付いた装飾品もある。
困っていることを言えずにいたルイーズに、何かをしてあげたかったエドワード。
恋人や婚約者でもないルイーズへ贈り物をするのは、気がとがめる。けれど、今の彼にとっては、自分のためでもあるから言い訳が立つ。
だから、ルイーズに遠慮されることもなく受け取ってもらえると思っていたのだ。
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