2-9 気まずかったはずなのに、大爆笑
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げっそりとしたルイーズの視界に、プラチナブロンドの髪が飛び込んできた。
「あぁー、わたしの体は無事だわぁ。会いたかった」
そう小さくつぶやきながら、エドワードを目指して一目散に駆け寄っていく。
そうして対面したルイーズとエドワード。
2人とも早く会いたい気持ちは同じで、向かい合うまでは互いの顔を見て、安堵していた。
……だが、互いに気まずい。
双方に視線をずらし、もじもじとしている。
不思議な緊張感に包まれた2人は、「そっちから何か言え」、と言いたげに目を泳がせる。
いつだって「おはよう」の代わりは、エドワードが発していた「今日も来たのか! 来るなと言っているだろう」そんな会話から始まっていたのだ。
会った直後から、普通の会話に行き詰ってしまった。
そうは言っても、このまま休憩室にいられるわけもなく、訓練開始時刻が差し迫る。
互いの空気を読みながら、じれじれの2人は剣を持って訓練場へ向かうことになった。
そんなルイーズは、剣を持った瞬間、おかしな感覚に見舞われる。
……そして、どうしてだろうと、こてんと首を傾げた。
「ねえ、今日の剣は何か違うのかしら? すごく軽いんだけど」
ルイーズの発言にエドワードは、口を開けて呆れている。だが、彼に笑う余裕はなく、むしろ、青い顔に冷や汗を流し焦っていた。
「……お前、本当にあほだな。それは俺の体だからだ。俺には、馬鹿みたいに重く感じる。よくこんなんで、お前は毎日訓練に来ていたな。悪いが今日は剣を振るな。ここに立っているだけで、やり過ごすぞ」
弱気なエドワードの意見に従い、ルイーズは教官たちの目がある中、剣を下に向けたまま会話を始めた。
「体を動かしているなら、もっと食べろ。あの食事の量では筋肉が付くどころか、運動で消費したエネルギーが足りずに痩せるだけだ。3か月もたてばそろそろ体が仕上がってくる頃なのに、一向に細いのはそのせいだろう」
「エドワードは、いつでも悪口ばっかりね。どんな猫をかぶったら、パトリシア様が、あなたなんかを良いって言うのか、さっぱり分からないわ」
「はぁぁーっ、俺はいつだってこうだ。お前の方が猫をかぶっているだろう。さっき、カーティスからドレスを贈るから舞踏会のパートナーに誘われた。カーティスのために、しっかり断ってやったぞ」
エドワードの勝手な行動に、ルイーズは耳を疑った。「ドレスを贈ってくれる!」そんなウソのような話は、まさに奇跡。
それを断るとは、容認できない。
エドワードにじれていた気持ちはどこかへ消え去り、彼に真っすぐ視線を向けた。
「はぁぁーっ、なんでそんな勝手なことをしているのよ。その日はわたしも出席する予定なのに、パートナーがいなくて困っていたんだから、カーティスと一緒に行くわよ。あー良かった、助かったわ」
ルイーズは、最近の大きな悩みだったドレス問題の解決に、うれしさのあまり小さく飛び跳ねていた。
「お前はどうしてそんなに尻軽なんだ?」
エドワードは、ムッとしており、明らかに不機嫌である。
一方のルイーズは、エドワードの発した「尻軽」。その単語から、何かを思い出したようで、エドワードを真剣に見つめていた。
「そんなんじゃないわよ。ねぇ、それよりわたし、昨日大事なことを伝え忘れていたの」
「ん? 何だ」
「わたしの体を必要以上に触らないでね。ただでさえ、関係のないエドワードに体を見られるのは恥ずかしいのに」
虫の居所が悪くなったエドワードは、隠そうか悩んでいたはずのことを打ち明ければ、ルイーズがどんな反応をするのか楽しみになり、悪い顔をした。
「くくっ、こんな貧相な体の持ち主がよく言う。残念だったな、昨日のうちに細部まで全部確認した。頼むのが遅いから俺は悪くないぞ。だからのろまなんだ、お前は」
焦るルイーズは、エドワードの両肩をグッとつかんで、言い寄った。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと何を確認したのよ!」
「体の構造と感覚もろもろの確認だ。女の体について、よく分かって助かった。お前の体のお陰で、この先色々役に立つだろうな」
乙女の体で何をしている! と、ルイーズは真っ赤になるのと同時に、あっけらかんと、悪びれる様子のないエドワードにブチ切れた。
「はぁぁーっ、何やってくれてんのよ」
「くくっ、まあ怒るなって。悩む俺への人助けだと思えよ」
「何が人助けよ! 結局わたしたち戻っていないでしょう。わたしの体に何をしたのよ!」
「何をしたか教えて欲しいなら、俺の部屋で見せてやる。今日は、俺の屋敷へ行った後、着替えてすぐに町へ出掛ける。お前も付き合え」
「見せるって! エドワードって、本当にデリカシーがないわ」
「はぁぁーっ、お前、何を想像しているんだよ、馬鹿」
「えっ、違うの。あ、いや」
「違わない。しない方がよっぽどおかしいだろう。くくっ」
エドワードに見られた。いや、そもそも見るくらいは当たり前だ。自分だってエドワードの大事なところを……。
ハッと何かを思い出したルイーズは、彼と帰るのを躊躇った。
「わたし、救護室へ行きたいから、一緒に帰るのはちょっと困る……」
耳を疑うエドワード。
まさか、目の前のルイーズは、エドワードの体で救護室に入ろうとしている。
……それは、超絶まずい。
ルイーズの発言に鳥肌が立つエドワード。動揺しつつも、俺の体に何かあったのかと、心臓をバクバクさせながら詰め寄った。
(このあほが、のほほんと間違って救護室へ足を踏み入れれば、大ピンチだ)
「おいっ馬鹿! なんだって救護室へ行こうとしているんだ。絶対に駄目だ。何故行こうとしているか、言えっ」
鬼気迫るエドワードの様子に、ルイーズは観念したものの、ルイーズは、ボソボソと言いずらそうに話し始めるのがやっとだ。
「相談したいことがあって……。だって、病気かも知れないから」
「はぁぁーっ、どういうことだ! 俺の体に何をしたっ!」
「昨日、化粧室へ行くのを我慢していたら、今朝、エドワードの大事なところが大きく腫れていて……。どうしよう……」
「へっ?」
拍子抜けした顔をするエドワード。だが、次の瞬間大きな声を上げる。
「あはははっ」
ルイーズがあまりに深刻な顔をしているから、おかしくなり、おなかを抱えて大笑いを始める。
だが、きょとんとするルイーズは、何が何だか分かっていない。
……その後、エドワードから揶揄われるようにルイーズは理由を聞かされた。
その瞬間、ボッと全身に火が付いたように熱くなる。あまりの熱気に、頭から湯気が出ているかもしれない。
周囲の人物たちには、あのエドワードが耳まで真っ赤になり、ルイーズに何か強く訴えている姿が見えている。
彼の瞳は潤んでいるが、それまでは見えていない。
エドワードに熱烈な視線を送る令嬢たちに、どよめきが起きているのは、当の2人は知るわけもなく、エドワードが笑い転げ、ぷりぷり怒るルイーズの、2人きりの楽しい世界を作っているのだ。
訓練の時間中、エドワードがルイーズの肩に手を置き、時々激しくルイーズの肩を揺さぶりながら会話をしたり、時々胸をボカボカと叩いたりていた。
その姿を目撃したカーティスとパトリシアが、焦りを募らせている。
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