2-4 翌日、エドワードの病気? の原因
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ルイーズが侯爵家の嫡男を連れて、一目散に自分の部屋へ向かったという話は、すぐに姉の耳に届く。
妹に興味を持つならば、同じ家名の自分にも必ず関心を持つ。いや、妹以上に自分に惹かれるはずだ。
そう思っている姉は、エドワードを虎視眈々と狙い始めた。
姉の心情を知らないエドワードとルイーズ。その2人は、小さなベッドと机、ほぼ空のクローゼットと本棚、そしてソファーが置かれただけの質素な部屋にいた。
ルイーズの殺風景な部屋にエドワードが動じていないのは、壁一面のクローゼットには扉が付いており、一見では分からないからだろう。
エドワードはルイーズを、能天気なことばかり言うあほだと思い込み、彼女が勉強するようにも見えていない。本棚が空っぽなのは、むしろ案の定くらいに思っていた。
横並びに座ったソファーで、目を合わせて向き合っている2人。
ルイーズは真剣そのもの。彼女は険しい顔で話をしている。
それなのに、エドワードの反応がどこか上の空のため、彼女は気が気ではない。
ルイーズは、日頃自分が心掛けている処世術を伝えているのだ。
彼が継母を刺激すればどんな仕返しがあるか分からない上、ルイーズはエドワードの日頃の性格を知っている。
エドワードであれば、あっという間に、継母と言い合いの喧嘩をする確信がある。それは何としても避けたいところ。
「いい? 継母と姉には近づかない。食事は執事が呼びにくるから、ここにいるだけでいいし、無言で食べたら逃げるように戻って部屋から出ない」
それを聞いて、エドワードが愉快そうに笑っていた。
「ふ~ん。お前って、屋敷の中で嫌われているのか? くくっ、男を漁ることばかり考えているから、みんな、呆れているんだろう」
「だから、そうじゃないから。あっ、もし弟のアランに勉強を聞かれたら教えてあげて」
「はぁぁっ、どうして俺がそんなことを。そもそも家庭教師に任せておけばいいだろう」
「家庭教師なんて、お金が掛かるでしょう。お願い、10歳の子の勉強くらい見てあげてよ、できるでしょう」
「お前の弟ってのは気に入らないが、……分かった」
エドワードの適当な返答。……この男、少しも分かっていないようだと、ルイーズは顔をピクピクさせる。……が、話しの先を急ぐ。
「あと、このリンゴ。これはわたしがもらったの。だから、エドワードが食べて、そして、明日カーティスにお礼を言ってちょうだい。できれば1個、アランにも分けてあげて」
ルイーズは紙袋いっぱいに入ったリンゴを、エドワードにぐいっと押し付けた。
「俺がカーティスに礼を言うって、……何だそれ」
「お願い。食べるのはエドワードなんだから、いいでしょう」
「ああ、分かったよ。そうだ言い忘れていたけど、俺の体で、その辺のものを拾い食いをするなよ、出された食事以外禁止な。お前は食い意地張っているから」
「ひっどーい。わたし食い意地なんか張ってないわよ」
「はぁぁーっ、よくいう。ケーキを食い損ねたと騒いでいただろう。その前はチョコレートだったな」
「それは……、あのときのケーキがおいしそうだったからで……。もう分かったわよ、ちゃんとエドワードとの約束は守るから安心して」
反論したいが、ルイーズは余裕がない。もじもじと、何かをこらえている。
素っ気ないのもそのせいだ。
そんなルイーズの気も知らず、部屋の中を見回すエドワードは、壁に貼っている1枚もののカレンダーに目が留まった。
それには、2か月以上も先の日にちに丸印が付いており、エドワードは、滑稽に思えて仕方がない。とうとう我慢できずに、けたけたと笑いだした。
「くくっ、お前、どれだけ王宮の舞踏会を楽しみにしているんだ?」
それを聞いてもピンとこないルイーズ。
「何のことだ?」と、首をかしげるルイーズに向けて、エドワードはカレンダーの10月30日を指差した。
ほんの少しだけ、ルイーズは表情を曇らせる。
「今年の舞踏会は、その日だったのか……。それは、わたしの18歳の誕生日よ。他に言いたいことと聞きたいことがないなら、わたしを馬車まで送って」
今はまだ、その意味を伝えるわけにはいかなかったルイーズは、そっけなく話を受け流す。
だが、彼に伏し沈むような口調で伝えてしまい、あらぬ詮索をされないかと彼の反応が気になり、じっと見つめていた。
「お前って、元婚約者にそんなことまでしていたのか? 随分と尽くしていたのに残念だったな」
エドワードからは相変わらずな反応が返ってくる。
「はぁ~っ」
ルイーズから気落ちした、ため息が出る。
(もう、どうしてエドワードはこんな言い方しかできないのよ……。
尽くしていたと言われると、否定もできない。分かっている……、モーガンが喜んでくれるのがうれしくて、馬鹿なことをしていた気がするけど、見送ったことはない。彼はいつも1人で、スタスタと帰っていたんだから……)
馬車まで送って欲しいと言ったルイーズの真意は、全く違った。
決して、平常時のルイーズに見せるためではないのだ。
ルイーズは、エドワードの姿でこの屋敷の中を1人で歩けば、姉に絡まれるのを警戒している。
姉の姿を見ると、上手く話せずに萎縮する自分が、エドワードとして、切り抜ける自信がないために、エドワードに馬車まで送って欲しいと頼んだ。
けれど、これを上手く説明する言葉をルイーズは見つけられず、面倒になって肯定する。
「そうね。忘れていたけど、この部屋に触られて困るものは置いていないから、何でも見ていいわよ。もし、すぐに戻れなければ自分のことが分からないと困るでしょう。それに、騎士服なら自分で着られるでしょうから、その格好で明日は屋敷を出るだけね」
「ふ~ん。お前のことなら大体分かっている。人の助言を聞かない馬鹿だろう」
「……いつだってエドワードは、わたしの悪口しか言わないのね。でも、ここに長居はできないわ。限界だから帰る」
エドワードがいつもの調子で揶揄ってきたけれど、膀胱事情がいよいよ本格化してきたルイーズは、悠長にしていられない。
「だから、俺は見ないって、さっさと行ってこい!」
「嫌よ。わたしが化粧室から出てきたら、エドワードのことだもの色々聞いて馬鹿にしてくるでしょう」
「俺を何だと思っているんだ!」
「はぁぁーっ、偉そうにする嫌な奴。それ以外にないでしょう。もういいわ、帰る」
ルイーズが動きだすと、エドワードはその後を追うようにして、侯爵家の馬車が出発するのを見送っていた。
ルイーズがエドワードを追いかけるように歩く姿を、廊下で見ていたのが姉だったが、自分の体に戻ることを必死に考えているエドワードは、周囲のことまで見ておらず、気付いていなかった。
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前話に誤字報告を送っていただきました読者様ありがとうございます。助かります。気になって読みにくかった読者様、申し訳ありませんでした。




