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◆完結◆突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~猫かぶり令嬢は、素性を隠した俺様令息に溺愛される~  作者: 瑞貴
2章 入れ替わりのふたり

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2-2 距離感ゼロのふたり①

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

大変嬉しいです。最後までよろしくお願いします。

 馬車の中、エドワードの低い声が少し前から響いている。

 ……それは、まるで試験勉強を暗記するような、ルイーズの独り言だ。


「……エドワードは23歳。この国の名門、スペンサー侯爵家の当主は宰相。グレイヘアの人が家令で名前はマルロ。部屋は2階の階段を上がって右。浴室は部屋に付いている。食事は1階の食堂で、扉が違うからすぐ分かって、座る場所は窓側の右端……」

 これから襲い掛かる危機に備え、苦悶(くもん)の表情を浮かべるルイーズ(エドワードの顔)が、エドワードについて語る。


「ねぇ、これ以外に覚えておくべきことは、あるかしら」

 不安そうな表情のルイーズ(エドワードの顔)

 彼女は、エドワードの大きな手で、華奢(きゃしゃ)なルイーズの両肩をガシッと(つか)むと、ルイーズの体をゆさゆさと揺すりだす。


 ……もちろん、それをされているのはエドワード。

 ルイーズは、それが自分の体だと思っているから、彼の扱いに、全く遠慮がない。


 エドワードは、力加減を知らないルイーズによって、とんでもない勢いで体を振り乱され、ガックンガックンと大きく振れている。


 そんなことをされても、エドワードはされるがままで、むしろ、相手はルイーズだから仕方がないと思ったエドワードは、おかしくなって笑いだした。


「くくっ。……明日(あした)会うまではそれで十分だ。それ以上長く続くなら、話は別だ……。とにかく、2人の体が戻る方法を考えておく」


「ぅうー。わたし大丈夫かしら……、エドワードの屋敷で上手(うま)くやれるか心配だわ」


「お前は堂々としておけ。誰とも(しゃべ)らなければバレないだろう。屋敷で話しかけてくるのは、父と家令のマルロくらいだ。父に会わないようにすれば問題はない。バレたらそのときだ。上手いことをやれ」


 エドワードに、投げやりに言われ、ルイーズは今にも泣きそうな、しわくちゃな顔になる。


 それを見たエドワードは、ルイーズが不憫(ふびん)に思え、ルイーズの小さな掌で、ルイーズの頭(彼の頭)()でていた。


 基本的に単純な性格のルイーズ。それで元婚約者に騙されたのだ。

 そんな彼女は撫でられただけで安心してしまい、トロンとした表情を浮かべた。だけど、それはエドワードの顔だ。


 ……そんなゆったりとした時間は、つかの間。

 馬車が止まった瞬間に、穏やかな空気はかき消された。


「よし! 着いた」

 気合を入れるようなルイーズの高く澄んだ声。それは、エドワードが発した言葉だった。


 そう言われて、馬車を降りたルイーズ(エドワードの体)は、屋敷の壮大さにあっけに取られてしまい、ポカンと口を開けたまま、大き過ぎる屋敷に魅入っていた。


 同じ長さにそろえられた青々とした芝生。咲き乱れる花々。けれど枯れた花がらは、1つも見当たらない。澄んだ水をまき上げる噴水は、もちろん(こけ)など生えていない。


 隅から隅まで管理の行き届いた庭園は、少しの隙もない程に整えられ、屋敷の厳格さが伝わってきた。


 それにおじけづいたルイーズ(エドワードの体)は、足を前に出せなかった。


 それに気付いたエドワードは、動けと()かす


「馬鹿! お前が先に行かなかったら、俺が行けないだろう。マルロへ適当に声を掛けたら、すぐに階段へ向かえっ!」

「ねえ、エドワードは、自分の屋敷へ令嬢を頻繁に連れてくるの? すごいわね。我が家はなんて言うかしら」

 そんな彼女は周りが全く見えていない。

 すぐ近くには、スペンサー侯爵家の御者がいるにもかかわらず、ルイーズは項垂れて動けずにいた。


 ……近くにいる御者は、自分の見ているものは夢か? と 疑っているようで、何度も目をこすっている。


 その御者の目に飛び込んだものは、肩を落としたエドワードが泣きそうな顔で、ルイーズの肩に手を置いている。

 いつも、紳士そのもののエドワードが、涙目になりながら、令嬢に何かを懇願しているのだ。


 まさか……、エドワード様が令嬢を口説くのに失敗したのか。

 どういうことだと、2人を食い入るように見ていた。



 その御者の視線に焦っているのはエドワード(ルイーズの体)本人で、いら立ちからプラチナブロンドの髪をわしゃわしゃと、かき始める。


「令嬢を連れてくるのは初めてだ。屋敷の奴らに、連れ込もうとしている令嬢と()めていると思われたら(しゃく)だ! つべこべ言わずに部屋へ行くぞ」


 そう言って、エドワード(ルイーズの体)ルイーズ(エドワードの体)の背中をボンッと手で押し、歩けと誘導した。


 それをきっかけに意を決したルイーズは、大きな扉に向かってゆっくりと歩きだした。

 だが、いつも風を切って歩くエドワードが、自信なさげにへっぴり腰で歩いているのだ。


 ……自分の体が、何とも情けない動きをするのを見たエドワード。

 もう見ていられないと、赤くしたルイーズの顔を両手で覆った。



 そんな2人が屋敷へ入るなり、家令のマルロが立っていた。

 ハッとするルイーズは、自分はどこで見られていたんだと理解が追い付かない。

 何が起きたのかと、左右をキョロキョロ見回し始めた。


 それを見たエドワード(ルイーズの顔)は、「だから伝えただろう」との意味を込めて、冷めた視線を向ける。

 それは、エドワードにとってはいつものこと。門番から知らせを受けた家令が扉の前に立っているだけの話。



「お帰りなさいませ」

 自分の方を見て、出迎える家令のマルロ。それを見て、ゴクッと唾を飲むルイーズ(エドワードの体)

 グレイヘアの知らない人物が、さもさも当たり前に自分に話しかけてきた。


 躊躇(ためら)う彼女の様子に気付き、エドワード(ルイーズの体)は彼女を肘で小突いて「返事!」と合図を送る。


「ああ……」

 エドワードの低い声が妙に弱弱しく、怪訝(けげん)な顔を向けられている気がする。


 だが、そんなことを気にしていられない。長くいればボロが出る。そう思ったルイーズは、見えている階段へ一目散に向かった。


 2階へ着くと、遠くにメイドの姿があった。

 でもそんなことはお構いなしだ。事前に教えてもらった部屋の扉を、ルイーズ(エドワードの体)をサッと開いた。


「ウソでしょう……。何これ……」

 彼の部屋に入ってからも、この空間が1人の専有スペースとは思えない広さに青ざめる。

 びっくりしたルイーズは、バタバタと走り回って確認を始めた。

 広いリビングには足を伸ばして座れるソファーが2つ、それがL字に置かれ、執務用の大きな机もある。


 次々と扉を開ければ、何故か大きなベッドが置かれた寝室が2つもあるのだ。

 その上、片方の寝室にはシャワー室まで付いており、1人でこんなに要らないでしょうと、顔を引きつらせる。

 それとは別にある広い浴室は、何人で入るつもりの浴槽だと、ルイーズ(エドワードの体)は顎が外れかけている。


「聞きたいことはないか?」

 エドワードがルイーズに問い掛ける。


 質問……。そんなものはルイーズに浮かんでもこない。

 部屋を見て回ったが、さっぱり理解ができないのだ。

 それなら、なるようにするだけだと諦めた。


「ないけど、疲れたわ……」

 そう言ってソファーに腰掛けた、ルイーズ(エドワードの体)は、次第にソファーの上で猫のように丸まり、伯爵家のことを考え始め、感じる不安と静かに戦っていた。


「信じられないな、お前は男の部屋で、瞬時にくつろげるんだな……。まあいい、お前はそこで休んでいろ。俺は少しだけ仕事をする」

 そう言って、木製の大きな机に向かって座り、何かを始めたエドワード(ルイーズの体)


 彼は、王宮の仕事を休むために、何通か書面にしたためていた。

 頻繁に顔を合わせている国王陛下を相手に、適当なウソで仕事を休むのだ。

 簡易な文書では信用されないだろう。

 日頃の自分の行動を思い返せば、自分の機嫌が悪く、何かの冗談だと思われるはずだと頭を抱える。


 少しでも信用度が増すようにと、エドワードは自分を証明する印章が必要だった。

 それは、この部屋と王宮の彼の部屋にある。


 けれど、どう見ても王宮の部屋に入れるわけがない。

 色んな意味で話にならないため、この部屋で手紙を書く必要があったのだ。


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