2-1 入れ替わり
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ここ以降が本格的な物語の始まりです。
犬猿のふたりの関係を最後まで見守ってください。
騎士候補生の掛け声が響き、賑やかな訓練場。
ルイーズは久しぶりに剣の訓練を始めてみたものの、外まで歩いて来るだけで既に息が上がっていた。
それでも、なんとか訓練を乗りきるために剣を振ると、大きく肩で息をする羽目になる。
元々、運動量と食事量が見合っていなかったルイーズは、そもそも栄養不足。その上、この2週間は、具無しのスープしか口にしていなかった。
自身の体調が万全ではないと自覚しながらも、これ以上休めば候補生の資格がなくなると思い、無理を押してやって来たのだ。
だが、立っていられず、剣を杖のように地面へ刺し、何とかその場を保つ。
「馬鹿。剣を地面に刺すな。剣先が痛むだろう」
「……」
エドワードに言い返す元気もないまま休憩所を見やるルイーズは、今日は無理だと諦めをつけ、帰る決意を固める。
「エドワード、悪いけどここまでにして。疲れたから下がるわね」
外の日差しの中、このまま居ては倒れる気がしてならないルイーズは、それを言い終えると、エドワードの返事を待たずして、他の訓練生の間を縫うように動き始めた。
「おい、馬鹿っ。これだから女は……」
と、エドワードは大きな声で叫んだが、ルイーズに止まる気配は見えない。
「ったく、他のやつらが剣を振っている間を通って、危ないだろう」
ここで叫んでも意味がないと思ったエドワードは、小さな声で呟く。
馬鹿と言いつつも、不安気な表情を浮かべるエドワードは、ルイーズに駆け寄ろうと思い、周囲の様子を確認していた。
すると、エドワードの目に飛び込んだのは、どこかの訓練生の手から滑り、空高く飛んでいる剣だった。
その剣の軌道の先を追えば、ルイーズがいるのだ。
これはまずいと、目を大きく見開くエドワード。
……その剣の真下にいるルイーズは、案の定、全く気付く気配も感じられないのだから。
「ルイーズ危ないっ!」
再び叫んでみたが、ルイーズに警告の言葉は届かず、無反応に終わる。
それと同時。
ルイーズには、「おい、馬鹿っ」と、エドワードの叫ぶ声は、しっかりと耳に届いていたが、反応できる余裕はなかった。
その彼女の心の中では、自分の気持ちをストレートに言えるエドワードを、羨ましく思っていたのだ。
もし、自分がエドワードであれば、姉に「お前は馬鹿か」と言ってやれるだろう。そんな日が来ることを心から願った。
ただでさえ騒がしい訓練場。
意識がぼんやりする中、全く違う思考を巡らすルイーズには、エドワードの危険を知らせる「ルイーズ危ない!」の声は届いていない。
全く動く気配がないルイーズに、焦りを募らすエドワード。彼は、ルイーズに剣が直撃した後、すぐに治療をすれば助けられるだろうか? と、エドワードは思考を巡らせた。
……その結果は否。
血の気がサーッと引くのを感じたエドワードの中では、ルイーズが死ぬとの結論に至る。
そんなのは許さないと拒絶したエドワードが、ルイーズと代わりたい、そう思った瞬間――。
ルイーズを見ていたはずの自分の視界に、ルイーズはいない。
そして、何が起きたのか周囲を見渡せば、離れた所に自分が青くなって立っているのだ。
それから直ぐに見上げた先には、真っ逆さまに落ちてくる剣がある。
……それで悟った。
――ルイーズとエドワードが入れ替わった。
それに気が付いたエドワードは、落下してきた剣をあっけなく避けると、自分の体の元へ駆け寄り、何も言わずに、その人物の手を引き訓練場を後にした。
休憩室へ着くなり、踵を返したエドワード。
彼は知り尽くしている目の前に立つ体、その両方の肘を強く掴み対面する。
「おいっっ、お前、ルイーズだろう!」
動揺を隠しきれないエドワードが、耳に響く甲高い声でエドワードの体へ問いかける。
「そうよ。ねぇ、一体何がどうなって、こうなっているの。意味が分からない」
ルイーズが唇を震わせながら、不安気に答えた。
「お前、俺の体で気持ち悪いから、そんな喋り方するな」
「はぁぁっ! そっちこそ、わたしの体でガサツな言い方をしないでよ」
エドワードの言葉にカッとしたルイーズは、エドワードとヒートアップしたテンションに早変わりしている。
「ヤバい、全然戻り方に心当たりがない。お前、何かしたのか?」
「するわけないでしょう。エドワードの方が何かしたんじゃないの?」
(自分の回復魔法が働いたのかもしれない。だが、魔法は使っていない……)
天を仰ぐエドワードは、苦悶の表情を浮かべ考え込む。
だが、どう考えても答えは分からなかった。イライラするエドワードは、自分の体に当たり散らすように、ルイーズの長い髪をぐちゃぐちゃとかきむしる。
「あー-っ、分からん! そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
エドワードがいつもの調子で、ガリガリと頭をかいたせいで、髪はまるで鳥の巣のように、ぐしゃぐしゃになった。
その姿を見てギョッとするルイーズだけど、おかしな見た目に笑い出す。
「ふふ、女の子はこんなことをしないわよ」
と、ルイーズが笑いながらルイーズの髪をなでて整えた。
ルイーズにされるがままのエドワードは、険しい顔を見せているものの、この先のことを考えるのに必死だ。
「いつ戻れるか分からないから、取りあえず、俺の屋敷へ行く。その後はお前の屋敷だ」
「えぇー、エドワードの部屋へ行くなんて、ちょっと困る。わたしに何するつもり」
「馬鹿か! お前、今日はどっちの屋敷へ帰るつもりでいるんだ! 今日中に自分の体に戻れなかったら、お前は俺の屋敷で過ごすんだぞ。俺の部屋の場所も分からないだろう。俺が狂ったと思われるから、『わたしルイーズです』と、馬鹿なことを屋敷で言うなよ」
「はぁぁーっ、何それっ! そんなのお互い様でしょ、分かっているわよ」
ルイーズの屋敷の馬車を帰し、2人でスペンサー侯爵家の2頭引きの豪華な馬車に乗り込んだ。
息の上がるエドワードは、自然とルイーズに腕を組んで歩いていた。
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