1-16 騒動の予感
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今回で「第1章いがみ合うふたり」が終わります。次章は「入れ替わりのふたり」と、なります。
最後までよろしくお願いします。
とぼとぼと元気なさげに歩くルイーズが、訓練場に到着すると、周囲の視線がいつも以上に自分に刺さってくる。
おそらく理由は、自分が2週間ぶりに訓練に来たからだろうと、ルイーズは向けられる関心に大して興味もない。
ルイーズは、お茶会に出席した翌日から熱を出してしまい、しばらく寝込んでいたのだ。
視線を向ける理由。それは、他の候補生はルイーズの婚約解消を耳にして、彼女自身に興味があった。
真面目に騎士を目指す姿に好感が持て、ましてやルイーズは、騎士の仕事に理解がある。
ルイーズの姿も、化粧せずともかわいらしい。
もし結婚する相手となれば、ルイーズは理想的だろうと、ある日の休憩室で話題に上がった。
ただ、ルイーズが痩せ過ぎなのは間違いなく、ルイーズも訓練に参加してから、さらに細くなったことを気するほどだ。
十分な食事も取らず日差しの下で過ごすせいで、髪のぼさつきも否めない。
伯爵夫人と姉ミラベルの意地悪は、目に見える形で確かに表れていた。
その一方、今日こそは、ルイーズが来ているだろうかと、エドワードは首を左右に動かして姿を探せば、直ぐにプラチナブロンドの長い髪が目に留まった。
彼女を見つけて、口角が上がりかけたものの、その本人が、他の訓練生と頬を赤らめて話すのを見て、眉間にしわを寄せる。
ルイーズは、公爵家の3男のカーティスに声を掛けられ横を向いた。
すると、穏やかな笑顔を浮かべるカーティスが、真っ赤なリンゴが入った、茶色の大きな紙袋を抱えて立っていた。
「ルイーズのことを心配していたんだよ。今日来なければ、見舞いに行こうと思っていた」
「見舞いなんて大袈裟ね。ただの風邪だったのよ」
「今日は体力も落ちていることだし、訓練は無理してはいけないよ。これは、今日届ける予定だったんだ、持って帰ってくれる」
同期の言葉は、ルイーズの頬をほんのりと紅潮させた。
ドキドキするルイーズは、カーティスの持つ、今にもこぼれ落ちそうなリンゴに釘付けである。
だが、食いつくように貰うのは気が引けてしまい、1度は断ることにした。
「元気になったのだから、それは受け取れないわ」
「じゃあ、僕からの快気祝いだと思って受け取って」
カーティスから、ぐいぐいと押し付けるようにリンゴの山を持たされてしまい、返そうと思ったが、カーティスが直ぐに立ち去ったため、断れず仕舞い。
リンゴを受け取り困惑したものの、時計を見て、訓練が差し迫る時間に気付いたルイーズは、リンゴの入った紙袋をどこかに置いて、訓練に向かおうとしていた。
そのとき、袋の中からリンゴが1個転がり、それを拾ったのがムッとしているエドワードだ。
「お前は婚約者がいなくなった途端これなのか。早速、違う男を引っかけるために、仮病を使って同情を買っているのだろう」
「はぁぁっ! そんなわけないでしょう。本当に具合が悪かったの」
「上手く男が引っかかって良かったな。まあ、せいぜい逃げられないように、今度は、もっと健気な路線で同情を買えばいいだろう」
そう言いながら、ルイーズの持つ紙袋の中へ、エドワードは拾ったリンゴを戻す。
「ひっどーい、何それ。って、エドワードと話していたら、もう他の候補生たちは組む相手を決めているじゃない」
ルイーズは、周囲をキョロキョロと見回し、これまでと同じ状況に呆然とする。
肩を落としたルイーズは、今日は、心底彼と組むのが嫌だった。
それは、エドワードはこの候補生の中でも群を抜いて力がある彼を相手に、今日の自分の体力が、最後まで持つ自信が少しもなかったのだ。
彼が剣を握るその腕は、筋肉の筋が分かるくらいだった。まるで剣士になるために創り上げた体。
ルイーズと剣を交えても、彼の黒髪は少しも汗にぬれることもなく、黒い瞳は至って冷静に自分を捉えていた。
(どうしてこんな人が、いつもわたしと組んで剣術を磨くのか分からないわ。
わたしよりも、他の熟練した候補生と組まないとエドワードのためにならないのに)
持つ必要のない罪悪感を抱くほど、ルイーズはエドワードが訓練に参加する理由を疑っていなかった。
エドワードは、幼い頃から回復魔法師の素質に気付いており、自分の身を守るために習得した剣技。
だがそんなことは、エドワード本人と、この国の宰相である彼の父しか知らないことだ。
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