1-12 犬猿の仲
最後までよろしくお願いします。
毎日実施されている騎士候補生の訓練。モーガンの誕生日の翌日、ルイーズはそれに行かなかった。
モーガンとの婚約解消のやり取りが、理由の1つ。
それと、彼女自身が、剣を持つのは危険と判断したからだ。
伯爵家を出るのに切羽詰まっている。何としても騎士になりたい。そんな気持ちがルイーズを焦らせた。
自分ごときがエドワードに傷を負わせるわけがない。だが、冷静さを失う自分が無茶をした挙句、怪我をする気がしてならない。
そんなことになり、エドワードに責任を抱かせるのは嫌だった。
フォスター伯爵家の客間。
朝から伯爵夫妻と、モーガン、ルイーズの4人の姿があった。
「ルイーズとの婚約を白紙に戻したい」
無表情のモーガンが、淡々と口にした。
「ふふっ。我が家は何の問題はないわよ。さぁ、ルイーズ、婚約解消の同意にさっさと署名なさい。書く場所は分かる? ここよ!」
にやりと笑った継母が、ルイーズに早く書けと羽ペンを渡してきた。
ルイーズも、もちろんそのつもりだ。無言で頷き署名を終えた。
「あんたなんかに執心するのは、おかしいと思ったのよ。まあ、どちらにしても出ていってもらうわよ。今から、娼館に声を掛けてもいいんじゃないかしら」
顎を上げて話す継母。その弾む話しぶりは、あまりにも楽し気。そして、右口角だけを上げ、ルイーズをじろっと見た。
継母の不敵な笑みが一向に消えず、ルイーズは、ザワザワと身の危険を感じる。
「今、ルイーズは騎士になろうとしているし、もし、そうなれば話は変わるだろう」
継母の言葉を、珍しく父が制止したのだが、その口調はあまりにも弱々しい。
そう言いつつ眉が下がる伯爵。実際のところルイーズが騎士になれるはずもないと、分かっていた。
「ふんっ、どうかしら。まぁいいわ。どちらにしても、誓約書で18歳って決まっているものね」
(どうしてわたしは、生まれたときから嫌われるんだろう。母だってわたしを捨てたくらい……。平穏に生きるって、なんて大変なんだろう……。でも、悩んでいる暇はないわね、何とかしないと、あと3か月足らずで……、継母に無理やり売られてしまうわ。何とかしなきゃ……)
**
ルイーズの婚約が白紙となった翌日。
候補生の訓練。いつもと同じくルイーズと、エドワードが双方の剣を交差させながら、会話をする。
まだ100人前後は残っている騎士訓練生。
訓練が始まればルイーズの周りから他の訓練生は消え去り、必然、エドワードだけが残った。
ルイーズが休んだ昨日。
エドワードは自分の部屋へ行くべきか迷い、結局最後まで訓練場にいた。そんなこともあり、彼はいつも以上に機嫌が悪い。
ルイーズは、エドワードに会った瞬間から怒鳴られた。それも、相当な言い掛かり。
今はさらにヒートアップしている。
「もしかして、昨日は訓練をサボッて婚約者と遊んでいたんじゃないのか? これだから女は意識が低い」
そうエドワードに言われたルイーズは、いつも以上にカチンときた。
既に息は上がっていたが、怒鳴り声に近い声を上げた。
「そんなわけがないでしょう。ふざけないでっ!」
「チッ……」
ルイーズがいつも以上に真っ赤になって否定する様子。それが、エドワードにとっては、むしろ肯定に見えた。
婚約者と誕生日に盛り上がったルイーズは、昨日、体が痛くて動けずにいたとエドワードは解釈したのだ。
半日待ちぼうけをくらったエドワードは、大きな舌打ちが出る程に憤慨している。
この訓練場でルイーズが来るのを待っていたせいで、彼が考えるのは、当然のようにルイーズのことだったから余計だ。
「婚約者の誕生日だと浮かれていたのは、どこのどいつだ? うまく媚びを売ってきたのか? まあ、無理だろうな、その貧相な体で、お前には色気が足りないもんな」
「もう、うるさいわね。婚約は解消したわ!」
この件に言い返す気力のないルイーズは、事実だけをサラリと伝えた。
自分は屋敷の中の話はできない。原因を追究されると、ルイーズにとっても面白くない。
「……は」
それを聞き、少し驚いた表情を見せるエドワード。
ルイーズは、真っ赤になって激昂し、なりふり構わず剣を振り乱す。
だが、エドワードにとっては、まるで、子どもと遊ぶようば剣術の訓練。
ルイーズがいくら剣を振っても、さらりと、ルイーズの剣を受け流していた。
「男に振られたからって、俺に当たり散らすなよ。お前、姉を見習ったらどうだ? お前は女らしさが足りないから、男に嫌われるんだ、くくっ。何をやらかしたら、あんな男に振られるのか分からんが、今の話がこれまでで1番面白い、くくっ」
モーガンの話を立ち聞きしたエドワードは、ルイーズの婚約者が良くない男だと分かっていた。その上、その婚約者との関係が切れれば、彼女は訓練に来なくなると期待した。
ルイーズが婚約を解消したと聞き、エドワードは上機嫌になり、笑い出す。
(振られたわたしを笑うなんて、最低だわ。どうしてあんなことを、平然と言えるのよ。信じられない……)
ピーーッ、と訓練の終了を知らせる笛の音。
「そうかもね……」
体力が尽きかけているルイーズがポツリと漏らした声は、訓練の終了を知らせる笛の音でかき消され、後に仕事を控えるエドワードは、いつものように急いで立ち去った。
エドワードの言葉は、普段であれば受け流せた。
けれど、今のルイーズには重くのしかかり、肩を落として動けずにいた。
「大丈夫かい?」
「ふふっ、今日はいつもより疲れちゃって」
優しく声を掛けてきたカーティスに愛想笑いを浮かべながら、ルイーズはカーティスと休憩室に戻っていた。
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