1-10 婚約者の裏切り⑤
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缶の立てた衝撃音に驚き、姉と婚約者のモーガンが同時に振り返った。
「きゃっ、何のぞいてんのよ」
姉は、真っ赤な顔で怒鳴り散らす。
叫びながらも、キョロキョロする姉は、自分の体を隠すため、掛け布団を引き寄せる気だ。
「えっ、あっ、どっどっどうしてルイーズが?」
顔面蒼白のモーガン。彼の高まった感覚は、間もなくはじけそうだ。駄目だ。ミラベルは動くな、と必死に姉を抑え込む。
そのせいで姉は、伸ばした腕をプルプル振るわすが、あと少しで届かない。
「あっ、ちょっと馬鹿、何やってんのよ!」
耳まで赤くしたミラベルは、モーガンを責めだした。
「いや。驚いたせいだ」
モーガンと姉が言い争いを始めたが、ルイーズにとってはどうだっていい。
「早く出てってよっ!」
がなる姉は、よんどころない事情で必死だ。
大誤算が起きた今、妹を嘲笑うより、自分の対処が最優先。
だが、姉が言う前に、ボロボロと大粒の涙をこぼすルイーズは、踵を返し、扉の外だった。
(いつの間に、ふたりは恋仲になっていたの? もし、わたしが今、これを知らなければ、彼はこの後、わたしに笑顔を向けながら話す気だったの。ひど過ぎるわ。
……わたし、馬鹿だな。裏切られているとも知らず、大事なお金を紅茶なんかに使って。欲しいものは、他にあったのに。
モーガンに勧められた騎士の訓練だって、……しんどいのに、どうしよう。
……いいえ、弱音何て言ってる場合じゃない。ここまで来たら、絶対に騎士になる。そうすれば、女1人でも家を借りて暮らせる希望はある。もし、なれなかったら……)
……寒くもないのに、ブルルッと身震いが起きた。
自分の未来を想像し、得も言われぬ恐怖心がルイーズを襲う。
継母はルイーズが18歳になれば、娼館へ売る気でいる。ルイーズはモーガンとの婚約で、難を逃れたはずだった。
それなのに、突然望みを失った……。
18歳の誕生日が迫る今、家を出る当てが見当もつかないのだ。
ハッとしたルイーズは、婚約者のことで感傷に浸る気持ちを、何とか掻き消した。
それからしばらくして、モーガンがルイーズの部屋を訪ねてきた。
あの直後に、よく平気で自分を訪ねるものだと、ルイーズはあきれた顔を向けた。
「僕は、姉のミラベルより、ルイーズの方が好きなんだ。だから僕を信じて」
「何を言っているの? 姉と愛し合って、わたしが好きって意味が分からない。ふざけないで」
バシンッと大きな音が響く。
ルイーズが、モーガンの差し伸べた手を、強く払ったからだ。
ルイーズが反抗し、モーガンは驚いた顔をしたが、すぐさま悲しげな表情を作り、取り繕った。
「ルイーズ、本当にそれでいいのかい?」
自分を気に掛ける彼を見ても、アレを見た直後では、揺れる感情はない。間髪入れずとも、答えは明白だ。
「当たり前でしょう!」
すると、それを口にした途端、モーガンから冷え切った視線を向けられた。
「チッ、生意気だな。お前のような女に下手に出てやったのに、何を調子に乗ってんだよ」
ルイーズが初めて目の当たりにする、激昂しやすいモーガンの本性が出た。
「……モ、モーガン」
「お前のような取り柄のない女、誰が好きになるって! あり得ないだろう。少しおだてたくらいで、喜ぶ単純な女を利用しただけだ。馬鹿だよな、まさか素人が騎士を目指すとは。もし本当に騎士になれたら、またお前のことを考えてやるよ。じゃあな」
優しさのかけらもない口調で言い放ち、モーガンは消えていった。
「ぇ……」
ルイーズは、小さく口を開けたまま、石のように固まった。
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