1-8 婚約者の裏切り③
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ルイーズは、大きく剣を振りかぶって、渾身の力でエドワードに下した。けれど、あっけなく彼に受け止められた。
剣技のおぼつかないルイーズが、なりふり構わず本物の剣を振っていること。
それに、教官たちが、不慣れな訓練生たちに本物の剣を持たせて訓練させることも、しっかり理由がある。
この国の男子の中にごくまれに、ヒールと呼ばれる回復魔法が使える回復魔法師が生まれ、彼らは王室によって手厚く保護されているのだ。
回復魔法師たちは、王宮の救護室と呼ばれる部署に配属され、国王と並ぶ、最高位の立場にある。
富裕層は多額のお金を払って治療を受けられるものの、庶民が気軽に頼れるわけではない。
ただ、王宮に絡む出来事で発生したけがや病気は無償で治療を受けられるため、ここの訓練生たちは、多少のけがはそっちのけで練習に打ち込めるわけだ。
「お前のような鈍くさいのが、女騎士になんて、なれないだろう。諦めろよ」
エドワードは3か月以上、毎日同じせりふを伝えている。
……3か月たった今。
本心では、ルイーズを心配するが、それをうまく言えずにいた。
それを聞いたルイーズは、さらに眉間のしわが深くなった。
「初めから、うまくできる人はいないのよ。あの先輩たちだって、けがを重ねて立派な女性騎士になっているんだから」
(わたしだって、騎士になった後は、自分で稼いだお金で、十分な食事を食べられる。そうすれば今とは変わるはずだもの、きっと役に立つ騎士になれる。今だけ……、今だけ何とか乗り切れば、何とかなる。エドワードは、わたしのことが嫌いなくせに、どうして練習相手にわたしを選ぶのよ。本当に迷惑だわ)
そう思っているルイーズは、彼が執拗に自分を卑下するため、顔も見るのも嫌だった。
剣術の練習も、きれば違う訓練生と組みたい。ルイーズがそれを伝えても、エドワードは他の候補生の元へ行かない。
どうしてか、不思議なくらいエドワードが、距離感ゼロでまとわりついてくる。
「お前のような、ガサツな女じゃ、王妃様や王女様の近辺警護なんて無理だろう。そんなのろまじゃ、誰も守れないって」
ピーーッ。
訓練の終了を知らせる笛の音が鳴り響き、まるで痴話げんかのような、ルイーズと彼の剣の訓練も終了した。
笛の音を聞き、少し浮かれた表情を見せるルイーズ。
このときから、彼女の頭の中は、婚約者のことでいっぱいだ。
彼と2週間ぶりに会えるのをワクワクしていた。というのも、先週、モーガンが訪ねてきたときは、ルイーズは訓練中で屋敷にいなかった。
しばらく帰りを待つも、「待ちきれずに婚約者は帰った」と、聞かされた。
実際は姉の部屋で、用事を済ませただけだが、何も知らないルイーズは、今日はとても張り切っていた。
今日は婚約者の誕生日。ルイーズが訓練から帰ってくるのを婚約者が部屋で待つ約束。
笑みがこぼれるルイーズは、今にも鼻歌をうたいそうなほどうれしそうだ。
(来年の今頃は騎士になって、それなりの給金をもらっているはずだから、もっと盛大にお祝いしてあげられるわね。今はまだ、わたしはモーガンに何もしてあげられないけど、一緒にいられるだけでわたしは十分に幸せだもの)
その頃、その婚約者は、姉の部屋で一糸まとわぬ姿でいた。
婚約者が服を着るのと、ルイーズが屋敷へ到着する時刻。
その、どちらが先になるかは、服を着ていない2人の気分次第だから、まだ分からない。
エドワードが唇を噛みながら、浮かれたルイーズの姿を見ているとき。
陛下の側近であるブラウン公爵が、エドワードに恐る恐る声を掛けてきた。
「あのー、エドワード様、陛下がお呼びです」
「はぁぁーっまたか、あのじじぃー、大したことはないくせに。誰か救護室にいただろう」
「それが、エドワード様が一番癒やされるとのことで、ご指名です」
「めんどくさいな」
そう言って、エドワードは頭をかきながら陛下の私室へ向かった。
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