1-2 騎士訓練初日②
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自分の筋力と、剣の重みで格闘中のルイーズは、一か八かの勝負に出るも、すぐに裏目となった。
腰を使って反動を付けてみたものの、バランスを崩して尻もちをついたのだ。
……そのとき。自分の剣が、ルイーズ目掛けて落下してくる。
これはまずいと、痛みを覚悟したルイーズだが、エドワードが咄嗟に、皮の手袋をはめた手で剣をつかんだ。
それを見たルイーズは、助かったと力が抜けると同時に、苦笑いをして誤魔化した。
「馬鹿っ、危ないだろう。何をやっているんだ、お前っ!」
焦るエドワードとは裏腹に、のんきなルイーズは、あっけらかんと返答する。
「ありがとう。エドワードのお陰で助かったわ。初日から、救護室で回復魔法師様のお世話になるところだった」
「お前な、ヒーラーでも治せないものはある。そもそも救護室へ運び込む前に死んだら終わりだ。今の剣が真っすぐお前に落ちていれば、心臓に刺さってあっという間に死んでいたぞ。この訓練は遊びじゃない、甘く見るな」
「げっ、そうなんだ。じゃあ、わたしはエドワードのお陰で命拾いしたのね、助かったわ。それにしても、エドワードは、随分と回復魔法師様に詳しいけど、会ったことがあるの?」
「…………あるよ」
その瞬間、ルイーズは驚きのあまり、目を見開いた。
ルイーズは、エドワードから「至上者である回復魔法師に会った」と返ってくるとは、思ってもいなかったのだ。
その話に興味を持ったルイーズは、エドワードに詰め寄るように、グイッと1歩近づいた。
彼女のテンションは、一気に上がり、回復魔法師に興味津々だ。
「すごいわ、カッコよかった? って、言っても、3人とも顔を隠しているんだっけ。偉い方たちなのに、素性を晒さないなんて、きっと、色々大変なんだろうなぁ。そう考えると、わたしの悩みなんて大したことはないわね。さあ、頑張らないと」
いけしゃあしゃあと話すルイーズは、少し前に起こした危機を、まるでなかったように解決させた。
それに、いら立つのはエドワードだ。
「はぁぁーっ、お前は、少しも悩んでいないだろう! その足りない頭で考えても分かるはずだ。死にかけたお前は、この訓練から立ち去るのが賢明だってな! 1時間やって、まだ膝の高さしか剣が上がらない。お前の体が、そもそも騎士に向いていない。赤の他人の心配をしていないで、お前は迷惑だから帰ってくれ」
「諦める……?」
(わたしが騎士を諦めたら、他に何になれるんだろう……。教養も知識も足りないし、侍女なんて無理でしょう。町の食堂で働いても、モーガンと食べていくのもやっとだわ。騎士の給金くらい稼がないと、弟のアランに家庭教師を付けてあげられない。10歳の子から応援してもらってすぐに投げ出すわけにはいかないわ)
「よしっ、諦めてくれたな。ほら、その剣は俺が戻しておくから、とっとと帰れ!」
「ううん、諦めない。まだ何も頑張ってないもん。こんなんじゃ、婚約者に申し訳が立たないわ」
「はぁぁーっ! 婚約者じゃなくて、俺に申し訳が立たないだろう、馬鹿」
「はぁぁーっ、なんでエドワードに申し訳を立てなきゃいけないのよ。じゃぁ、どっか行って、ってさっきから言ってるでしょう」
(この女、俺にどっか行けって、また言いやがったのか。死ぬところを助けてもらって、その言い草。どこまでもふざけている女だな)
「ふざけるなっ! 今日中に剣を持ち上げられなければ、明日は来るなって言っただろう」
「ふん、エドワードと約束する必要はないし、あと2時間はあるもん」
そう言ってルイーズは、エドワードに取られかけた、剣を胸に抱え込んで死守した。
ルイーズは、再び素振り以前の、己との格闘を再開する。
彼に何と言われても、騎士になるのがルイーズにとっては、全てがうまくいく気がするのだ。折れるわけにはいかない。
(あるもん! じゃないだろう……)
ルイーズの傍らで腕を組む彼は、そう思いながらも、ルイーズを静かに見守った。
そして2時間後。ルイーズは腰の高さまで剣先を持ち上げられるようになり、満足そうな顔をしている。
そして、エドワードへ誇らし気に話し掛けた。
「ふふふっ。持ち上げられたわ。やればできるのよ」
「お前なぁ~、それしか上がらない剣で、どうやって警護するんだよ」
「も~う、エドワードはうるさいな~。半年の訓練の初日なんだからこれで上出来でしょ。でも、もっと練習していこうかな」
この馬鹿が1人で残られるのは、勘弁してくれと、エドワードは険しい表情になった。
「駄目だ。訓練初日は、俺は忙しいんだ。さっさと帰れ」
「エドワードの都合なんて知らないわよ、1人で帰ればいいでしょう」
ピーーッと教官が鳴らす笛の音が訓練場に響き渡る。
そのあと、訓練の終了が言い渡され、訓練生たちはみんな、直ちにこの場から解散するようにと指示された。
「ほら、教官がさっさと帰れだと。お前の剣をよこせ。返却しておく」
言い終えるや否や、エドワードは、ルイーズからひょいっと剣を奪い取り、さっさと立ち去っていく。
「いいわよ、自分でやるわ、ちょっと待ってよ!」
エドワードを走って追いかけるルイーズだけど、疲れ過ぎているせいで、速足のエドワードに追い付くこともできない。どんどんエドワードに引き離され、そのまま彼が立ち去るのを見送ってしまった。
(何なんだろう、あの人、何も練習していなかったわよね……。騎士試験に遊びで参加しているのかしら……)
この訓練場の外。今日から始まる訓練を、観覧に来た令嬢たちが大勢いた。
想定外の人物が訓練場におり、一同が黄色い悲鳴を上げていたのだ。
だが、エドワードのことを、ただの『嫌なやつ』としか思っていないルイーズには、無縁の感情だった。
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