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運転士

「はぁぁ、もうやってらんねーよ。こんなこと」

「そんなこと言ったって、仕事なんだからしょうがないだろ」

「仕事って言っても、何で毎朝こんなに早く起きなきゃいけないんだよ。太陽だってまだ出てないんだぞ。こんな時間から働けるかっつーの。俺もうこの仕事辞めるから」

「おいおい、ちょっと待てよ」

「何だよ。離せよ」

「辞めてどうすんだよ? 他に行くとこでもあるのか?」

「そんなの適当に探すから、放っとけよ」

「いや、ちょっと待てって。お前が辞めたらみんなはどうなるんだよ。職場とか学校とか、みんなそれぞれの目的地に行けなくなるんだぞ」

「そんなの知るかよ。歩いて行けばいいんだよ。何でも思い通りになると思うなよ」

「そんなこと言うなよ。考え直せって。せっかく運転士になれたんだろ。もったいねーって」

「いや、もう決めたから。こんなにダルい仕事とは思ってなかったしな。あぁぁ、もうやってらんねー。辞めた辞めた」

「……。本当に辞めるのか?」

「だから辞めるって言ってんだろ。俺の好きにさせろよ。もう絶対あんなとこでは働かないからな。まあ、でも、お前はすごいよな。よくこんな仕事辞めたいなんて思わないよな。尊敬するよ」

「俺は辞めたところで他に行くとこなんてないから。それにここで辞めたら、俺の太陽を見れることはもうなくなるから」

「へっ。太陽なんて、いつまでそんな夢見たこと言ってんだよ。いい加減現実を見つめろよ」

「現実だって見てるさ。だからこそ俺には今しかないんだよ。今やりたいことを今やらないでいつやるんだよ」

「……」

「お前だってここで辞めたら自分の目的地に行けなくなるだけだぞ。アメリカに行きたいんだろ? そこで電車の運転したいんだろ? そのために今それの修業をしてるって言ったじゃないか。辞めるのは簡単だけど、楽な道ばかり選んでたら、その夢の道の険しさには到底勝てっこないぞ。お前を必要としてる人がいるんだよ。お前がいなきゃ、みんなの一日が始まんないんだよ。ほら、朝陽も昇ってきたぞ。いつまで背中を向けてるんだよ。お前が今やらなくちゃいけないことは、ここにあるだろ。早くこの太陽たちを輝かせてやれよ」

 俺はタバコの灰が根元に迫ってくるまでの束の間、自問自答を繰り返していた。そして答えを見つけた。

 そうだよな。俺が生きてなきゃ、この太陽たちだって生きられねーもんな。

 よーし、今日も精一杯働くか。

「出発進行!」

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