無口な君の声
無口な君だけど、しゃべるときはよくしゃべる。
卓と付き合ってたときなんか、一晩中しゃべってたよね。
あたしもそれがうれしくて、君の声を聞く度に笑顔が弾けていたよ。
でも卓と別れた今では、朝を知らせるおはようの言葉くらいしかしゃべってくれなくなったよね。
いくらあたしが君の身体を触ってしゃべらそうとしても、全然口を開いてくれない。
あたしが触り過ぎるもんだから、君は疲れてすぐに眠りについてしまう。
だからあたしは「がんばって」って、君にパワーを与える。
そして君は「シャキーン」って擬音を口にして、静かに回復のときへと向かう。
あたしはそんな君に夢を求め、これからの道を尋ねる。
でも君は何にもしゃべってくれないから、あたしはひとりで君に預けておいた卓の手紙を読み返す。
懐かしくて切ないそんな手紙だ。
あたしは君に言う。
「ねぇ、これからあたしはどうしたらいいのかな? 卓はあたしのことを、もう何も想っていないのかな?」
無口な君は口を閉ざしたまま、赤い目を光らせて、元気になるのを待っている。
「卓の空っぽの新しい言葉がその答えなのかな? おーい、何か答えてよ」
君は無口だ。
離れ離れになった卓と同じで、あたしの耳にはただの空気しか届けてくれない。
それが答えなのかな。
あたしなら何も言わなくても分かるだろうって思ってたりする?
これって信頼されてるってこと?
おーい、その答えくらい教えてくれたっていいでしょ。
あたしは君をギュッと抱きしめて、いくつかのことを想い浮かべる。
あんなに楽しかった日々や、まだ誰にも見せたくない涙とさようなら。
いつだってあたしに笑顔を教えてくれた君の声。
あたしと卓の距離を近づけてくれたのも、君だったよね。
君がいなかったら、あたしは今ごろ何をしていただろう。
こんな悲しみに苦しむことも、あんな楽しい日々に出会うことも、絶対なかったはずだ。
今は無口な君だけど、いつかきっと、また陽気にしゃべってくれる日が来るよね。
「……」
返事はなし、か。
分かったよ。
ありがとう。
あたしは君が出してくれた答えを信じて、明日からの道を夢の中で探してみるよ。
今夜はもう目を閉じるから、君もあたしの隣で一緒に眠ってね。
そして明日、また朝七時に明るい声であたしを起こしてちょうだい。
それじゃあね。
おやすみ。
あたしの大切なケータイちゃん。