約束
おめでとうなんか言ってやらない。
だってあたしには言ってくれなかったんだもん。
だからあたしもダイにおめでとうなんか言ってやらない。
本当なら一ヶ月前のあたしの誕生日も、今日のダイの誕生日も一緒にお祝いするはずだったのに。
そうよ。あたしの買ったばかりの新車で、家まで迎えに来てねって言ったくせに。
だけど今ごろダイは、あたしの知らない誰かとその瞬間を楽しんでいることでしょうね。
だからあたしはおめでとうなんか言ってやらない。
あたしを始め、ダイのことを知っている人全員がおめでとうって言ったって、最愛の人に言ってもらうおめでとうには勝てっこないもんね。
それにダイだって、あたしが言うおめでとうなんかに喜びは感じないでしょ。
はい。分かってます。
ダイのお望み通り、おめでとうなんか言ってやらない。
言ってほしかったら、先ずはあたしにおめでとうって言いなさい。
そしたらあたしだって、プレゼントのひとつも持って、おめでとうって言ってあげるわよ。
さぁ、どうするのよ。
ダイが先に言わないと、あたしはおめでとうなんか言ってやらないからね。
「ピピピピピ」
ダイ専用の着メロがひとりの部屋に響き渡った。
おっと。これは一ヶ月遅れの誕生日プレゼントか。
それとも、ダイお得意の一方的な奇襲攻撃か。
どちらにしたって、二ヶ月ぶりのダイからの電話だ。
あたしは動揺を悟られないように、声を静めてその電話をとってやった。
「もしもし」
「もしもし。ケイちゃん? ダイの母親だけど」
ダイのお母さん?
あいつ、自分で電話もできないほどのマザコンだったっけ?
それとも単なるあたしへの嫌がらせか?
いったいどういうつもりなのよ。
「はい。何か?」
あたしはさっきよりも静めた声で返事をした。
ダイのお母さんはあたしのそれに、息継ぎの多い声で答えた。
「ダイが……事故で……死んじゃった……」
「はい?」
ウソでしょ?
死んだ?
ダイが?
二十歳の誕生日を迎えたこの日に?
「今から……通夜が……あるから……、もし……よかったら……来て……くれない?」
おめでとうなんか……。
おめでとうなんか……。
おめでとうなんか言ってやれるわけないじゃんか。
あたしは生まれて初めて喪服に腕を通した。
そして買ったばかりの新車で、二ヶ月ぶりにダイの家へと向かった。