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ルイーズ再び

その日、アリーヤはシシリーと共にルイーズの元を訪れていた。


「シシリーとは初めましてね。わたくしのことはルイーズと呼んでちょうだい」


にこにこ笑顔のルイーズに、緊張気味だったシシリーも笑顔を見せる。すぐそばにはアルカインとグレインもいるのだが。


「さあ、あなた達は執務室にでもいってらっしゃい。ここからは女性同士の話よ」


やはりの台詞を言われている。

だがグレインが眉を寄せた。


「お婆様、シシリーを困らせないでくれ」

「何言っているのよグレイン。困らせるわけがないでしょう。ほら、さっさと出ていきなさい」

「シシリー、無理しなくていい。嫌なことは答えなくていいからな」

「わ、わかった」

「アリーヤ殿、シシリーを頼んだ。悪の手先からシシリーを守ってくれ!」

「誰が悪の手先なのよ、失礼な。アルカイン、さっさとグレインを連れ出して」


肩を竦めたアルカインは「行きますよ、兄上」と渋るグレインを引っ張っていった。


「何あれ。グレインって過保護だったのね」

「私もびっくりしました」


ルイーズとアリーヤがにやりと笑うと、シシリーは顔をポッと赤らめた。


「フフフ、孫達があなた達を大事にしているようで安心したわ。さて第二回、恋愛暴露大会を始めるわよ!」


ルイーズが元気よく両手をパンパンッと二回鳴らした。






「そ、それで、森の奥の湖にエスコートしていただいて」

「あら、グレインてばシチュエーションを大事にするのね!やるじゃない!」

「素敵だわ!それでシシリー、なんて言われたの?!」

「なんて言われたのかしら?!」


真っ赤なシシリーにアリーヤとルイーズが詰め寄る。


「その。巫女と王妃の兼務は重責を伴うが、私の妃になることを考えてくれないかって…」

「「キャーーーッ!!」」


アリーヤとルイーズが興奮して雄叫びを上げた。

グレインにはシシリーを守ってくれと言われたが、古今東西女性が集まれば恋愛話と相場が決まっているので無理なのだ。しかもここは暴露大会、必然的にプロポーズの言葉だって言わされる。はにかんでいるシシリーがかわいすぎて余計テンションも上がるというものだ。


「素敵なプロポーズね!」

「本当に!聞いているこちらが幸せになるわ!おめでとう!」

「あ、ありがとうございます。私の話はこれぐらいで。アリーヤはどうなったんだ?」

「あ、そうね」


ルイーズに、アルカインのプロポーズらしき言葉が途中で切れてしまったことを伝えた。


「ですが昨日、話があると言われて」

「続きね?!アルカインはなんて言ったの?!」

「この先私を離すつもりはないから結婚したいって言って、あの、キ、キスを……」

「「キャーーーーッ!!」」


今度はルイーズとシシリーが叫んだ。


「アルカインは見かけによらず手が早いわね。アリーヤ、結婚までは貞操を守りなさい」

「さすがにそれは…」

「あら、ああいうすましたタイプが一番危ないのよ」


孫なのにとんだ言われようだ。


「二人とも本当におめでとう。これからは家族の一員としてよろしくね」

「「こちらこそお願いします!」」

「フフ。叫んだら喉が渇いたわね。お茶のお代わりを持ってこさせるわ」


ルイーズがベルをチリンと鳴らすとメイドが入室してきて、さっとお茶を用意して退出していく。さすが王宮メイド、隙のない仕事ぶりだ。


「現実的な話になるけど、次の園遊会では婚約も発表される予定よ。特に何をするわけではないけれど、心構えだけはしておいてね」

「わかりました」

「そのときに祈りの光もお見せするのですよね?」

「そうね。でもそれまでにカトリーナが洗礼を終えなければ三人だけになるわね。あなた達、カトリーナとは仲がよいの?」


アリーヤとシシリーが困ったように顔を合わせた。


「私達、カトリーナ様とは交流がないのです」

「特に私は嫌われているみたいで、ずっと避けられています」

「そう……たぶんカトリーナは力が強いアリーヤをやっかんでいるのね」


ルイーズはお茶を一口飲むと、悲しそうに微笑んだ。


「カトリーナも昔はかわいらしい子だったわ。でもあの子の父親が野心の強い男だったから王家はアラナイル家から距離を置いたの。数年後に会ったカトリーナは貴族令嬢としては申し分なかったけど、プライドが高く傲慢さが見え隠れしていたわ。周りに煽てられてちやほやされて、そうあらねばならないと奮起した結果、それが板についちゃったのね。でも昔のあの子は真面目で良い子だった……カトリーナを歪めてしまったのは大人の責任だわ」


アリーヤは何と言ってよいのかわからなかった。田舎の男爵家で家族に愛されて育ったアリーヤでは、高位貴族であるカトリーナのしがらみや苦しみなんて想像もつかない。


「もう一度気を取り直して修行に励んでくれるといいのだけど、こればかりは本人次第ね」


黙り込んだアリーヤとシシリーに気を遣ったのか、ルイーズは「この話はこれでおしまいね」と言って、また恋愛話を聞きたがった。






帰りの馬車の中、アリーヤはある提案をしようとシシリーに声を掛ける。


「ねえ、シシリー。神殿に戻ったら…」

「ああ。私も同じことを考えている。カトリーナ嬢を修行に誘おう、だろう?」

「そうなの!やっぱりカトリーナ様には頑張ってほしいわ!」

「私も同じ意見だ!アロマ嬢も誘って部屋に突撃しよう!」

「そうしましょ!」


カトリーナは引きこもりは止めたようだがアリーヤ達を避けている。嫌がられるかもしれないと思ったが、シシリーもいてくれるなら心強い。

神殿に帰り着いてすぐアロマを誘って、カトリーナの部屋に向かった。だが結局。


「カトリーナ様はどなたともお会いしたくないとおっしゃっています」


リオンに門前払いされてしまった。変わらずアリーヤを嫌っているだけかもしれないが、ぼんやりしていたカトリーナを思い出す。なんとなく心配だった。


しかし翌日、その心配をカトリーナ本人がひっくり返す。


「皆様!湖に来てください!カトリーナ様が洗礼を終えられました!」


アリーヤ達が掃除をしていると遠くで神官が叫んでいる。その場にいた全員が湖へと走った。


そこには青い光を舞い散らせながら優雅に微笑むカトリーナが立っている。


だがその笑みにはなぜかほの暗いものが隠されているようで、アリーヤは背筋に冷たいものを感じた。









洗礼を終えたカトリーナだったがまた部屋から出てこなくなってしまった。

体調を崩して寝込んでいるらしい。洗礼後にはよくあることなので皆静観している。


だがあの洗礼、あの青い光は間違いなくカトリーナのものだというのになんとなく違和感があった。巫女となったアリーヤ達も上級神官と同様、他者の力を推し量ることができるようになっており、カトリーナの力には僅かな揺らぎを感じるのだ。

気のせいかもしれないとアルカインに話すと、あの力はリオンの神力を使って誤魔化している可能性が高いと言われてしまう。


「そんなことをしたらカトリーナ様の聖なる力もリオンの神力も下がってしまうわ」

「ええ。偽りの洗礼をするなど下手をすれば底を尽きます。ですがリオンの力は衰えていません」

「どういうこと?」

「たぶんそれも神力で誤魔化しているのでしょう」

「そんなことできるの?」


アリーヤがびっくりするとアルカインは「あくまでその場凌ぎですが」と説明してくれる。

例えばリオンがカトリーナとリオン自身に暗示をかけて一時的に力を底上げするとか、前以て力を込めておいた石を持つとか、それなりにやり方はあるらしい。


「リオンも高い神力を持っていますから可能です。ですがそれほどのことをすれば、もって園遊会まででしょう」

「そんな……じゃあそんなことしたって……」

「ですが確証はありません。洗礼を終えた以上、多少違和感があっても園遊会では聖なる力をお披露目してもらうことになりそうです」

「……そう」

「ですから園遊会では何が起こるかわかりません。アリーヤも十分気を付けてください」

「……分かったわ」


黙り込んだアリーヤの頭をアルカインがそっと撫でる。


「アリーヤはカトリーナ様が心配ですか?」

「うん……私が嫌われていることはわかっているわ。でも同じ四聖としていつか仲良くなれたらって思っていたの。それにほら、カトリーナ様って誰よりも四聖っぽいっていうか。綺麗だし凛としていて正装姿がよく似合うし」

「アリーヤの正装姿もよく似合っていますよ」

「もう。カインは私を過大評価しすぎよ」

「愛する女性が一番輝いて見えるのは当然です」


そう言ってアルカインはアリーヤをふわりと抱き締めた。


「私も寂しく感じています。リオンとは付き合いも長いですし、一緒に修行をしてきた仲ですから」

「カイン……」

「ですから私達は、あの二人がどういう決断をするのか見守りましょう。もし道を踏み外したのなら、いつでも救いの手を差し伸べられるように」


アリーヤがカトリーナを心配するように、アルカインもリオンを心配している。それが伝わってくる。


「そうね、カインの言うとおりだわ」


呟いてアルカインの首にそっと手を回した。

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