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カトリーナの決意(カトリーナ視点)

『カトリーナ!連絡できなくてすまない!』


通信機の相手はディーンだった。

お披露目会以降、謹慎させられていると聞いていたが連絡が取れるようになったようだ。彼も巻き込んでしまったことを思い出し、謝罪しようとしたのだが。


『大丈夫か?アルカイン兄上がいるだろう!すまなかった!私も知らなかったんだ!』


ディーンは焦っているが、カトリーナは今も昔もアルカインとはほとんど話したことがない。お披露目会以降も特に接触はなく、カトリーナにわかるのはアルカインはとにかくアリーヤに付きっきりということぐらいだ。


「なぜアルカイン殿下は神殿に?」

『あいつは悪魔なんだ!』


いきなりの言葉に面食らう。


「あなた、何を言っていますの?」

『あいつの力は異常だ!それを今度の園遊会で証明してやる!それであの男爵の女も道連れにできる!』

「待って!そんなことしないで!」

『なぜだ?』

「わたくしはそのような事を望んでいませんわ。だからもうよいのです」

『何を言っているんだカトリーナ!お前は誰よりも聖女に相応しい!あんな女に負けるはずがない!いいから私に任せろ!』

「ディーン!」

『時間がないからもう切るが、また連絡する!』


通信機が切れてしまった。

ディーンはカトリーナの話を聞こうとしていない。これでは駄目だ。もっときちんと話し合わなくては、そう思っていると再び通信機が光った。


『カトリーナ、ディーン殿下から連絡はあったか?』

「……お父様」


誰よりも話したくない相手だった。特に連絡もなかったのによりによってと思った。


「先程ありましたわ」

『ディーン殿下がアルカイン殿下を失脚させるよう私が誘導した。駒も用意してある。次の園遊会が勝負だ』

「お父様、わたくしはもうそのような事はしたくありません」


カトリーナはきっぱり言い切った。初めての反抗ともいえる。だがガスペルは聞き入れる様子はまったくなかった。


『何を馬鹿なことを言っている!そもそもお前の力が足りないのが問題なのだぞ!だからこんな余計な苦労をするはめになるのだ!』

「それなら聖女なんて諦めてしまえばよろしいですわ」

『くだらんことを言うな!いいか、お前は何としても聖女になれ!それ以外は認めん!!』

「………」

『カトリーナ!聞いているのか!?』

「お父様。いくらお父様でも失礼ですわ。わたくしは四聖ですのよ。お父様の指図は受けませんわ」


するとガスペルが突然笑いだした。意味がわからず、ただ不愉快なだけだ。


「何がおかしいのです?」

『ハハッ!言うことだけは一丁前だな、カトリーナ。お前はまだ四聖ではないだろう』

「何を言って」

『お前がまだ洗礼を終えていないことぐらいわかっている!それでは四聖とは言えん!他の脱落した候補者と大差ない!』

「な、なぜそれを!」

『私を甘く見るな!お前が部屋に引きこもっていることもわかっているのだぞ!いいか、お前はそのまま大人しくしていろ!巫女にもなるな!』


なぜ自分の行動が知られているのか、なぜ巫女になるなというのか、カトリーナは混乱した。それを察してか、ガスペルはさらに声を荒げた。


『今お前が巫女になれば、四聖が揃ってしまう!そうなれば神託によって聖女が決定されるだろう!あの男爵令嬢にな!だからお前はそのままやり過ごせ!』

「そんな!無理ですわ!洗礼を終えなければ四聖の再選考がありますのよ!」

『そんなことはわかっている!だがどうにか誤魔化せ!それぐらい自分でなんとかしろ!あの男爵令嬢さえいなくなれば他とお前は大差ないのだ!もし今余計なことをしようとしてみろ!お前など表舞台に立てなくしてやるからな!』


突然の脅しにカトリーナは眉を顰めた。


「それはどういう意味ですの?」

『決まっている!顔を潰して辺境地のひひじじいにでもくれてやる!逃げ出せないよう足の腱も切ってな!我が家に恥をかかせたのだ!当たり前だろう!!』

「……そうですか。わかりましたわ」

『フン!わかったならよい。いいか、お前は聖女になるしか道はない!それを頭に叩き込んでおけ!!』


言い捨ててガスペルが通信機を切った。


カトリーナは切れた通信機を睨み付ける。

持っている手が自然に震えてきて、感情が抑えきれず通信機を力一杯床に叩きつけた。


「なぜ!なぜなの!どうして!せっかく!!わたくしはぁあああああ!!」


涙が止め処なく溢れる。やっと素直な気持ちになれたのに。一緒に頑張りたい、そう思えたのに。父はやるといったらやるだろう。巫女にもなれず、周りがアリーヤを追い詰めるのをただ見ているだけ。その先にある聖女なんて、今のカトリーナは望んでいない。


「なぜっ!どうしてっ!いやああああっ!!」


悔しくて悲しくて泣き叫んだ。

そうして暴れるカトリーナを、リオンが腕の中に閉じ込める。


「カトリーナ様、逃げましょう!」


リオンの言葉に、カトリーナは動きを止める。


「……リオン?」

「私の神力で洗礼を誤魔化すことはできます!ですがそれを求めていないのでしょう?!カトリーナ様がいなくなれば、お父上も諦めるはずです!私はどこまでもお供します!ですからここから逃げましょう!」


必死に説得するリオンに一瞬流されそうになる。だがガスペルは、カトリーナが引きこもっていることまで知っていた。

監視がついている、そう思うと心が冷えていく。


「いいえ、リオン。逃げてもすぐに追っ手がかかりますわ。お父様は言うことを聞かなかったわたくしを決して許しはしないでしょう」


“カトリーナ様、大丈夫ですか?”


アリーヤの顔が思い出される。裏表のないまっすぐな瞳。それを打ち消すように瞼をしっかり閉じる。


どう転んでも、アリーヤ達と仲間になることはできないようだ。さんざん人を見下して、聖女になるべきアリーヤを落とそうとしてきた結果がこれというなら。


ーー甘んじて受け入れますわ


涙に濡れた頬を拭い、カトリーナは心を決めた。自分に残された道はひとつしかない。


「リオン、あなたにお願いがあります」


カトリーナはゆっくりと目を開く。

その瞳には、かつてないほどの強い意志が映し出されていた。


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