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崖っぷちアロマ

沈み込むアロマに、アリーヤとシシリーは言葉がなかった。シシリーの婚約話が上がったためとしても、そんな話は聞いていない。

ふと見ると、アルカインが近くにきていた。


「カイン、今の話って本当なの?」

「はい、こればかりは仕方ありません。本来四聖というのは洗礼を済ませ、聖なる力が飛躍的に上がった巫女達のことを言うのです。アリーヤとシシリー様のおかげで近隣諸国にも治癒と豊穣の祈りが届いていますが、大陸中に行き渡っていない状況をこれ以上続けるわけにはいきません。ですから先に本人達に通達がいったのですよ」


アルカインが出てきたことでアロマは一気に緊張し、カーテシーをしようとするが。


「アロマ様、神殿にいる私は一介の神官です。そのようなことはお止めください」


言われてアロマは軽く頭を下げるに留めた。


「だから湖に入ろうと思ったのですね」

「それもありますが、お二人が、その。とても楽しそうで」

「だから最近こっそり覗いていたんだな」


え?!とアリーヤがシシリーの顔を見ると、シシリーは笑った。


「アリーヤは気付いていないと思ったよ。だけど私達は知っていてね。いつ声をかけてくるかなって思っていたんだ」

「じ、実は覗いていました!申し訳ありません!」

「いや、まあ、それは別にいいのですけど。ところでカトリーナ様はどうされたのですか?」

「カトリーナ様はお披露目会以降ずっと上の空で……」


アロマが困ったように眉を下げて、カトリーナの自室がある神殿の塔に視線を向けた。

確かにそのとおりだ。ぼんやりしているカトリーナが心配になって、アリーヤも声をかけたくらいなのだから。


「神官長からお話があってからはお部屋から出てこなくなってしまわれました」

「そうなのですか?」

「はい。声をかけてもお返事もありませんし。お付きの神官に尋ねてもうやむやにされてしまいます。ですから一人で修行をしていたのですが、四聖から脱落したらと思うとつい注意力が散漫になってしまうのです。わたくし、どうしても四聖になりたいのですけど……」


アロマは俯いた。その顔は暗い。


「アロマ様はなぜ四聖になりたいのですか?」


アリーヤの問いかけに、アロマは顔を上げた。


「実はわたくし、幼いころに暴走した馬車の事故に巻き込まれたことがあるのです」

「「ええっ?!」」

「それはもう酷い怪我で、体半分潰れてしまっていたそうです。わたくしは意識が朦朧としていたのではっきりとは覚えていませんが。とにかく痛い、とだけ」


アリーヤとシシリーは絶句だ。体半分て怖すぎる。


「ですがたまたま近くを通りかかった先代の巫女様に治していただきました。おかげでこのとおりです。それ以来ずっと四聖に憧れを持っていました」


ほとんど死にかけている状態なら、相当強い神力を持っている神官か四聖しか治せないし、間に合わない可能性だってあった。運がよかったとしか言いようがない。

しかもアロマの動機がまともすぎてアリーヤは内心びっくりだ。自分の「キールを見返してやる!」とは大違い。


「聖なる力があるとわかったときには本当に嬉しくて。候補者時代にもっと修行を積むべきだったのです。ですが他のご令嬢の手前、一人だけ必死になるわけにもいかず……情けないお話ですが」

「気持ちはわかる。私もサボるまではしなかったが、力の証明では手を抜いていた。トップになろうものなら令嬢達のやっかみが酷いだろうと思っていた」


アリーヤはそれにも驚く。

カトリーナより力が強いシシリーがなぜ三番だったのか、すっかり忘れていた疑問の答えが突然わかってしまった。


「私からもよろしいでしょうか」


声が上がった方を見ると、一人の神官が申し訳なさそうに立っていた。


「私はアロマ様付きの神官でサイラスと申します。アロマ様は神殿入りしてからずっと四聖になりたいとおっしゃっていました。ですが周りの目を気にするあまり、サボりたくないのにサボるというわけのわからないことを繰り返されてきました。今やっと一人立ちできるチャンスが訪れたというのに、今度は気の小ささからくよくよしてばかりで身が入らずにいます。昔からアロマ様は、言っていることとやっていることがちぐはぐなのです!

ですがどうか、アロマ様も楽しく修行ができるように、お仲間に入れてやっていただけないでしょうか!」


ガバッと頭を下げたサイラスに、アリーヤとシシリーは顔を見合わせた。


「彼の必死さが伝わるな」

「そうね」


アロマも慌てて頭を下げるので、それはやめてと二人で止めた。


「じゃあ私達も一緒に頑張る?」

「そうだな!」


意味が分からずキョトンとするアロマに、アリーヤとシシリーは笑いかけた。


「私達もアロマ様と一緒に修行に励むわ!」

「で、ですがお二人にはもう必要ないですよね?」

「私達の場合は修行というより日課に近いかな。でも一緒にやったら楽しくなるのは間違いないだろう?」

「で、ですが」


アリーヤがまごつくアロマの手を取ると、反対側の手をシシリーが取った。


「じゃあまず女神像に祈りを捧げてから掃除しましょう!アロマ様、よろしくね!」

「やるからには楽しく!一生懸命頑張ろう!アロマ嬢、よろしくな!」


歩き出す二人の勢いに押されながらも、アロマは繋がれた手を見て嬉しそうに微笑んだ。


「はい!よろしくお願いします!」


こうしてアロマの聖なる力を上げるべく、三人で修行に励むことになった。



アロマは根が真面目で、問題なくきっちりこなした。最初からできていればアリーヤには及ばずとも、シシリーとは並ぶことができたはずだ。もったいないと思うが今さらな話である。

それにアロマは畑仕事が好きなのだとか。楽しそうに水をやっている姿を見ると、確かに緑との親和性が高い気がした。


ーー理由を聞いたときは治癒の巫女になるかもって思ったけど。これならもしかして


ともかく楽しくをモットーに三人で頑張った。

そのおかげで。





アロマの立つ湖から、柔らかな淡い緑の光がキラキラと舞っている。その光がアロマの祈りに合わせて天に上っていくのを皆で見届けた。

アロマの頬は紅潮しており、涙目になっている。


「よく頑張りましたね。アロマ様は豊穣の巫女となられました。おめでとうございます」

「とっても綺麗な光だったわ!アロマ様にぴったりね!」

「おめでとう!アロマ嬢!これからもよろしくな!」


神官長の言葉を皮切りに、アリーヤとシシリーが拍手を送った。


「アリーヤ様!シシリー様!ありがとうございます!」


アロマは涙声で言ったと思ったら、ハラハラと涙を溢れさせた。

それがとても綺麗な涙で、アリーヤはじっとしていられなかった。湖の中にバシャバシャ入っていってアロマを抱き締めると、シシリーも真似をしてぎゅっとしてきたので三人で笑った。


その後、力を出し切ったアロマがぶっ倒れたのを、サイラスがおぶっていくことになる。




次話、カトリーナ視点に移ります



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