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シシリーの内緒話

ローズマリーが強制送還されて、アリーヤはまた平和な日常に戻ることができた。だがあの日からアルカインのスキンシップが激しくなってしまった。


「さあ、行きましょう」と手を繋いできたり「こちらですよ」と腰に手を回されたり、それ必要?という場面でも肩を引き寄せられる。まさに恋人同士という雰囲気を隠そうともしないアルカインに、周りからも生暖かい視線を感じてただただ顔を赤くしている日々だ。


とはいえ平和なのは間違いなく、今日もいつもどおりアリーヤはシシリーと二人で湖に浮かんでいた。

だがシシリーが珍しく神妙な顔をしている。


「どうしたの?シシリー」

「アリーヤ、実は、話があるんだ」

「うん。聞くわ」

「ここだけの話にしてほしい」

「うん。わかった」


シシリーが言い辛そうにしているので、何かあったのかと不安になりつつも静かに待つ。


「実は……」

「実は?」

「その、グレイン殿下の、婚約者にって話があって……」


アリーヤが勢いよく起き上がりシシリーを見ると、シシリーは顔を赤らめている。


「お受けしようと思っているんだ」


それを聞いた瞬間、アリーヤは「キャーーッ!」と叫んでしまい、びっくりしたシシリーに口を塞がれた。


「声が大きい」

「ご、ごめん。興奮しちゃって」


なるべくぼそぼそ話すがアリーヤのテンションは爆上がりだ。

ローズマリーが去ってからもグレインは何度か神殿に足を運んでいた。事後処理を兼ねてだが、そのときよくシシリーと一緒にいる姿を見ていたので、二人がうまくいけばいいなと願っていたのだ。


「おめでとう、シシリー!だって二人、いい感じだったもの!」

「王妃なんてガラじゃないけど」

「そんなことないわ!シシリーは今だって鍛練を欠かさない努力家だし、キリッとしていて美人だし!グレイン殿下ととってもお似合いよ!」


そう言うとシシリーははにかんだ。


「ありがとう。アリーヤが喜んでくれて嬉しいよ。でもお受けしても当分の間はこのままらしい」

「そうなの?」

「まだ治癒と豊穣の巫女がいないからな。私とアリーヤで力を共鳴させる必要がある。だからまずは候補として上がって、巫女が出揃ったら正式に婚約者になるそうだ」


なるほどと頷く。


「それで近いうちにルイーズ様にお会いするんだけど、よかったらアリーヤも一緒にって言ってくださってて」

「もちろんご一緒させてもらうわ」


シシリーはホッとしたように笑った。


「助かる。ルイーズ様とは初めてお会いするし緊張する」

「わかるわ。私もそうだったもの。でもとっても気さくな方だから大丈夫よ。たぶんグレイン殿下とのなれ初めを根掘り葉ほり聞かれるから、それは覚悟しておいてね」

「それは……困る」


本気で眉をへにょんと下げるシシリーにアリーヤは大笑いした。




その日の夜、いつものようにお茶をしながらも鼻歌を歌っているとアルカインにクスッと笑われた。


「機嫌がよさそうですね、アリーヤ」

「シシリーの話を聞いたの。だから嬉しくって」


秘密とはいえアルカインはすでに知っている話だとシシリーに教えてもらっていた。


「びっくりしたけど、とにかく嬉しいわ」

「そうですね。私も嬉しいですよ。シシリー様ならアリーヤとも仲が良いですし」


意味が分からず首を傾げるとアルカインはふわりと微笑んだ。


「アリーヤにはシシリー様と義理の姉妹になっていただきたいですから」

「義理の姉妹?」

「兄上とシシリー様、私とアリーヤがそれぞれ結婚すれば、お二人は義理の姉妹になるでしょう?」

「え………」


とんでもないことを言われている気がして、アリーヤはいつもどおり固まってしまう。

だがアルカインは色気満載に微笑んでいて、アリーヤに向かって手を伸ばしかけたちょうどその時、コンコンとノックが聞こえた。

その一瞬でアルカインがすんっと無表情になり席を立って扉を開く。


「アルカイン様、神官長がお呼びです。至急ご確認したいことがあるそうです」

「わかりました。すぐ行きます」


聖騎士の言葉に頷いたアルカインが扉を閉めると同時に「タイミングの悪い」と低い声で呟いたのはアリーヤに聞こえなかった。


「ではアリーヤ、この話の続きはまたにしましょう。おやすみなさい」


そう言ってアルカインは固まっているアリーヤの唇に、どさくさに紛れてチュッとキスをしてから出ていった。

残されたアリーヤは呆然としてうまく考えがまとまらない。


ーー今のなに?今のなに?結婚って言った?!


いやその前に、またキスされてしまった。体中がカーッと熱くなる。

さっきの話はアルカインの冗談かもしれない、だがさすがに冗談でそんなことを言わないはずだ。それなら本当にアリーヤとの結婚の話をしていたことになる。つまりそれは……


「プロポーズぅうううう!!!」


部屋中に響き渡る音量で叫んだ。





翌日、当たり前だが寝不足のアリーヤはアルカインの顔をまともに見ることができなかった。

昨日は本当にプロポーズ的な話だったのかと挙動不審になる。だがアルカインはまったく動じておらず、なんならいつも以上にスキンシップが激しい。困った顔で見上げれば「その顔は二人きりのときに」と耳元で囁かれて余計落ち着かない。


ようやく湖でシシリーに昨日の話をすると、シシリーもとても喜んでくれた。


「でもなんか中途半端でよくわかんなかったし」

「それなら近いうちにアルカイン様がきちんと話してくれるはずだ!私もアリーヤと義理の姉妹になれるなら嬉しいよ!」


義理の姉妹。

なんて素敵な響きだろうか。


「アリーヤ!」

「シシリー!」

「「これからもよろしく」ね」


二人で両手をガシッと繋ぎ、湖の中でクルクル回った。アリーヤも浮かれているがシシリーもそうとう浮かれている。二人でアハハハと笑いながら回っていると「あのっ!」と大きな声が聞こえた。

見るとアロマが湖の岸に立っている。


「あ、あの!わ、わたくしもお仲間に入れさせてもらってよろしいでしょうか?!」


突拍子もない言葉にアリーヤはびっくりするものの、アロマは別に一緒になってクルクル回りたいわけではないだろう。見られたことに恥ずかしさを感じるアリーヤとシシリーだったが、そもそもここは四聖全員の場所で断る理由もない。


「ええ。もちろんですけど」

「で、では失礼します!」


アロマはゆっくり足をつけて進みだした。だが膝上までくると「もう無理!」叫んで慌てて岸に戻った。


「まだ聖なる力が足りてないな。でも最初よりはずいぶん上がったんじゃないか」


シシリーの言葉にアロマはスカートをぎゅっと握りしめ、眉を下げて涙ぐみだした。

ギョッとしたアリーヤとシシリーは、なんだなんだどうしたんだと慌ててアロマの元に駆け寄る。


「お二人には関係のないお話ですけれど」


アロマが説明した。


四聖に選ばれたのに長期に渡って洗礼ができないというのは過去一度もなく、アロマとカトリーナはいわば仮の四聖でしかないこと。まもなく行われる園遊会では祈りのお披露目をするため、それまでに洗礼を終えることができなければ二人は四聖からはずされてしまうこと。


「わたくし、崖っぷちなのです」


そう言ってアロマは沈み込んだ。

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