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手紙の送り主

次の日、グレインが急遽神殿に訪れた。

なぜなら昨夜、夕食の席でローズマリーがやらかしたからだ。


ただの夕食だというのにローズマリーは城の晩餐会かというほど着飾った格好でやってきた。王道のプリンセスラインに溢れ落ちそうなほどの谷間、頭上にはティアラまで輝いている。食堂には木製の素朴な机と椅子が並べられているだけなので、そんな格好ではただただ浮くだけだ。

ドレスアップに時間がかかり大遅刻したにもかかわらずお構い無しで、冷めてしまった料理に不満を漏らし給仕がいないことに眉を顰め、質素な食事にケチをつけた。

一国の王女には理解し難いだろうが神殿内では当たり前のこと。神官長が諌めると納得いかないとばかりに途中で席を立ってしまう。アリーヤは冷静に、ローズマリーは空気が読めない人かもしれないと思うようになった。


一週間の滞在予定だがこれでは無理だと上層部が判断し城に報告。結果グレインがローズマリーに警告しに来たというわけだ。



アリーヤは改めてグレインをしっかり見てみる。目鼻立ちのはっきりした精悍な顔立ちをしているグレインは短髪がよく似合っており、飾り気のない黒いシャツとパンツがより凛々しさを際立たせていた。


「ねえシシリー。確かにグレイン殿下は凛々しいわね」

「だろう?女性にすごく人気があるんだ」

「わかるわ。かっこいいもんね」

「……それ、アルカイン様の前で言うなよ」

「言わないわよ。だってカインのが断然かっこいいもの」


二人でぼそぼそ話しているがアリーヤの声は大きく周囲には丸聞こえ。斜め後ろにいるアルカインを喜ばせていることにアリーヤだけが気付いていない。


そこにローズマリーが遅れて登場した。光沢あるイエローベースのドレスは光に当たるとキラキラ輝くので、見慣れていないアリーヤは眩しすぎて目がチカチカした。


「先日ぶりですわね、グレイン殿下」

「ローズマリー殿。その装いは神殿には少々不向きでは?」

「皆様とても質素ですもの。せめてわたくしが彩りになればと思っておりますの」


アリーヤ達をチラリと見たローズマリーにグレインが眉を顰める。


「神官長、華美なドレスは控えるように進言していないのか?」

「もちろんしています」

「では進言したにもかかわらず理解を得られなかったということか」

「そのようですね」

「ふむ。神殿の食事が受け入れられず、装いも華美すぎ。部屋も気に入らず勝手に装飾する。これでは無理だな。ローズマリー殿、一週間の滞在予定だったが本日を以て」

「お待ちください!」


ローズマリーが慌てたように遮った。


「本日はグレイン殿下もいらっしゃるので失礼があってはと思い、明るい色のドレスを選びましたの。それにわたくしの持ち物は王女に相応しいものばかり。質素なものと言われましてもなかなか難しいのですわ」

「なるほど。ではせめて色は黒かグレー、紺といったものにしてくれ。もし手持ちがないなら侍女に取りに行かせよう。それから食事だが、神殿にいる間はこのまま変わらない。それが嫌なら滞在は許可できない」

「……わかりましたわ」

「では早速着替えていただこう」



結局その日、ローズマリーは気分が優れないからと部屋から出てこなかった。これでは判断しようがないと日を改めることになり、夕食前にグレインは引き上げていった。

平和な一日だったと言えるが、さらにアリーヤの心を踊らせる出来事が。


「シシリー、グレイン殿下といい雰囲気だったわね」


凛々しい雰囲気を持つ二人が並ぶのはとても絵になる。だがそれだけじゃない、断言できる。端から見れば一目瞭然。祈りの間でシシリーの銀の光を見たグレインは感動して拍手喝采、それからはシシリーのそばにいることが多くなり二人の会話が一気に増えた。だがアリーヤもグレインに同意する。光を放つ時のシシリーはいつにも増して美しく神々しいのだ。


冷やかすアリーヤにシシリーは焦ったように顔を赤くした。


「何言っているんだ!四聖に気を遣っていただいただけに決まっているだろう!」

「またまたぁ。私もいたのにシシリーばっかり気にしていらっしゃったじゃない」

「アリーヤにはアルカイン様がいるから!」

「じゃあシシリーにはグレイン殿下がいるってことね!ふふふ、今日のシシリー、とてもかわいかったわ!」


顔を真っ赤にさせたシシリーを肘でぐいぐい押すと、倍の力でやり返された。






夜一人になったアリーヤは、引き出しにこっそりと仕舞っておいた手紙を取り出す。昨夜、寝静まったころに差し込まれたものだ。


『内密にご相談があります。明日の深夜、湖のほとりにてお待ちしております。どなたにも内緒で、お一人でお越しください。Kより』


Kで思い付くのはただひとり、カトリーナだ。


四聖になったころはよく睨まれていたし最近は避けられている。それなのになぜと思う。もしかすると昨日アリーヤが声をかけたからかもしれない。

色々と疑問もあるが、もしカトリーナが何かに悩んでいるなら力になりたい。同じ四聖として仲良くできればその方が楽しいに決まっている。


「起きられない自信があるから寝ない方がいいわよね。カインにも内緒にしちゃったけど」


アルカインには申し訳ないが、女性同士秘密の話もあるからと自分に言い訳した。


時間になるまでセイレーンに祈りを捧げることにした。理由はどうあれ夜中に抜け出すことがよい行いのはずがない。謝罪しつつ、アルカインとのあれこれをいつもどおりに報告する。

ただ恋を自覚してからは、祈るというよりもはや惚気になっていることを本人は気付いていない。


そうして針が0時に近づく頃、アリーヤはこっそりと部屋から抜け出した。

勝手知ったる神殿内、普段は下働きが出入りする扉から外に出る。その後は柱や木の陰に隠れつつ、巡回している聖騎士に見つからないように森の湖へ向かった。城壁の明かりで真っ暗ではないが、しっかり見えるわけでもないので何度か転びそうになる。


ーーなかなかスリルがあるわね。カトリーナ様もこんなふうに湖に向かったのかしら?


カトリーナがこそこそしている姿が想像できず、どうやったのか後で聞いてみようと思った。

森の中まで入ると聖騎士が見当たらなくなりホッとする。ようやくいつもの湖まで辿りついたとき、人影がうっすら浮かび上がった。


「ようこそいらっしゃいましたわ、アリーヤ様」


ローズマリーはアリーヤに、たぶん初めて笑顔を向けた。月夜の中でも輝くドレス姿で美しく微笑んでいる。


なぜ、とか、どうして、とか思う反面、分かりきった答えがそこにある。それでも一番気になる質問をしてみた。


「どうやってここまで?とても目立つ装いをされていらっしゃいますけど」

「わたくしには高い魔力がありますの。認識阻害の魔術など簡単なことですわ」


フンと鼻で笑われた。

どうせおびき寄せるならアリーヤにもその魔術をかけて欲しかったと思ったりもするが、一応質問を続ける。


「手紙にはKのイニシャルがありましたけど」

「あら、わたくしの名前はローズマリー・ケティ・ルガッタですのよ。ご存じないのかしら」


ミドルネームなんか知るかと思った。

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