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それぞれの思惑(ガスペル視点)

ショックを受けたように顔を青ざめさせたカトリーナが執務室から出ていくのを、ガスペルは冷たい目で見ていた。


「まったく。プライドだけは一人前のくせにああまで言わんと理解できんとは。我が娘とは思えんな」


ガスペルに家族の情はない。

娘であるカトリーナにも、まして男を作って別荘に閉じ籠っている妻にも、欠片も持ち合わせていない。

なぜなら自分がそうされてきたからだ。


アラナイル家は公爵を賜っているとはいえ、前公爵であるガスペルの父は貴族間で影の薄い存在だった。

アナスタシア率いる当時の四聖が公爵、侯爵令嬢ばかりだったせいだ。


同じ地位にありながら隅に追いやられた形となった父は、当時王太子だったニコラスの婚約者に娘が選ばれたことを殊の外喜んだ。


調子に乗った父は、姉を持ち上げるために弟であるガスペルを貶す、そんなやり方をした。


「お前の間抜けさは一体誰に似たんだ、この阿呆め!」


父が馬鹿にするため母も姉も、使用人ですらガスペルを軽く扱う。

ガスペルは決して愚鈍ではない。だからこそ自分の扱いの酷さに、家族の情というものを凍らせていった。


やがて姉が王妃になり、父が病床に就いたことでガスペルの周りは一変した。蔑ろにされてきた自分が褒め称えられ跪かれる。

初めて権力というものを手にしたガスペルはそれに執着した。


だというのに早すぎる姉の死。


――これからだというのに馬鹿め。最後まで忌々しい女だな


代わりにカトリーナを王太子妃にしようと躍起になったがそれは叶わず、どころか王家から距離を置かれる始末。

それはガスペルの野心のせいだと分かっている。だがカトリーナがもっと優秀であれば、そんな思いがあった。


「せっかく聖なる力を授かったというのに巫女の一人とは。なんと腑抜けた(こま)であるか」



昨日のお披露目会を思い出す。

ディーンが男爵令嬢を糾弾するさまを冷静に見ていた。


アリーヤのことは、いつもぽつんとしており真面目で大人しい令嬢だと報告が上がっていた。

だからディーンを焚き付けた。


あんなものでひっくり返るとも思えないが、初めてのお披露目で大勢の前で辱しめを受ければ、大人しくてか弱い令嬢なら怖くて人前に出られなくなる。心を病んで四聖から脱落、そう目論んだ。


だがアリーヤにはまったく響いていなかった。

ディーンに怒鳴りつけられているにもかかわらず、「コノヒト何言ってるの」とまるで他人事のようにしれっとしている。


周りは気づいていなかったが、アリーヤを注視していたガスペルは舌打ちしたい気分だった。あの冷静さ、一人熱くなっているディーンが滑稽に見えてくる。


――あの女は駄目だ。一筋縄ではいかん。何か手を打たねば


アルカインが出てきたことにも驚いた。

まさかアリーヤのお側付きをしているとは思いもしなかった。これでは神殿内で迂闊なことはできない。


とはいえディーンではアルカインに太刀打ちできない。あきらかに器が違う。

だがガスペルを見下していた姉にそっくりなディーンがカトリーナに惚れ込み、ガスペルの言いなりになっている姿は自尊心が満たされる。今回の件で謹慎になったが、いくらでも利用することはできる。


そうやってガスペルが画策しているというのに、カトリーナがグレインに近づいたと報告が上がる。安易なその行動はガスペルを苛立たせた。

だから強い口調で言ってやる。


「そんなこともわからないからお前は使えないのだ」


昔自分が、父に何度も言われてきた言葉を。


そんな父はもう長いこと床に臥せっている。

風邪をこじらせただけの父を、医者を買収して薬と毒を交互に摂取させ、死にはしないが起き上がることができない状態にしてやった。


簡単に殺すつもりはない。自分が上り詰めた先を、父に見せつけてやるつもりだった。


――カトリーナをなんとしてでも聖女に。そして私は更なる栄誉を手に入れるのだ


ガスペルは先程書いた手紙を入念にチェックし執事を呼ぶ。


「これを送ってくれ。それから神殿内の監視も強化するように」

「かしこまりました」


一礼して執事が出ていく。一人になったガスペルは窓際に立ち、闇に包まれて浮かび上がる月を睨み付けた。


「上手くいけばあの二人を引き離すことができるが。さて……」


次話より本編に戻ります

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどあの王妃の実家…!というあたりをさらりとかつ的確に書く様、素晴らしいですね。 そんな母親に育てられなかった長男と次男はむしろ幸福だったのでは…?
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